Reportレポート

ベトナムでのM&Aキャピタルゲイン課税の解説

2026/08/18

  • I-GLOCAL.CO.,LTD ホーチミン事務所
  • 山中 宏仁、谷口 裕哉

エグゼクティブサマリー

制度の概要 — 改正法人所得税法(法律第67/2025/QH15号、2025年10月1日施行)および新政令320により、外国法人による有限会社持分・非上場株式会社の株式の譲渡は、従来の「譲渡益×20%」から「譲渡価額×2%」の一律課税へ変更された。取得価額を控除しない総額課税であるため、譲渡損が生じる取引であっても納税義務が発生する。
売手の属性による区分の相違 — 非上場株式会社の株式の譲渡は、売手が個人か法人かによって税務上の区分が異なる。個人は「有価証券の譲渡」に区分され、譲渡価額の0.1%が適用される。この税率は改正の過程で見直しが提案されたものの、新政令253により従来どおり据え置かれることが確定した。他方、法人は「資本譲渡」に区分され、ベトナム法人は譲渡益の20%、外国法人は譲渡価額の2%となる。
グループ内再編の免税規定 — 新政令320第12条第3項i号ただし書きにより、グループ内再編取引には免税規定が新設され、新通達20第7条第2項m号が4つの適用条件を定めている。もっとも、帳簿価額の基準時点や外貨出資時の為替変動の扱いなど条文上明確でない点が残るため、適用にあたっては所管税務局への照会等も含め慎重な判断が求められる。
申告期限と実務対応 — 外国法人の申告・納付期限は、新通達20により最初のSPA(資本譲渡契約書)の効力発生日を起算点とする方式へ一本化された。

はじめに
外資企業がベトナム進出する手法としてのM&Aや、進出済み企業のグループ再編の一環で、ベトナムに所在する法人が別の法人・個人に譲渡されることは多い。法令上、こうした譲渡時のキャピタルゲインについてベトナムで源泉徴収課税が行われるが、このM&Aキャピタルゲイン課税については行政や産業界など各方面から異なる意見が寄せられており、適用税率などが過去複数回にわたって改正されている。

直近では改正法人所得税法(法律第67/2025/QH15号、以下「改正CIT法」)が2025年10月1日より施行され、外国法人による有限会社持分・非上場株式会社の株式(以下「非上場株式」)の譲渡について、従来の「譲渡益×20%」から「譲渡価額×2%」という一律課税へと大きく変更されたほか、一定条件を満たすグループ内再編取引についての免税規定が新設された。また、施行細則として政令第320/2025/ND-CP号(以下「新政令320」)が2025年12月に、税務実務の詳細を定める通達第20/2026/TT-BTC号(以下「新通達20」)が2026年3月に、それぞれ公布・施行されている。本レポートでは、これらの改正内容を踏まえ、キャピタルゲイン課税の実務上の取扱いを解説する。

1. ベトナムでのM&Aキャピタルゲイン課税の税制・税務実務

以下の図はベトナムでの株式・持分取得によるM&Aで必要となる主要な手続・作業を示しており、本レポートで取り上げるキャピタルゲイン申告納税はM&A最終フェーズの手続となる。

【ベトナムでの株式・持分取得によるM&Aで必要となる主要な手続・作業】

1-1 税目・課税標準および適用税率

ベトナムでの株式・持分取得によるM&Aは、税務上は株式等の譲渡取引に相当し、関連する税目は個人所得税・法人税である。買手側から見ると株式等の購入であるため、特に課税は発生しないが、売手側では課税が生じる。
以下は売手に対するキャピタルゲイン課税のサマリーである。

【個人(個人所得税)】

【法人(法人税)】[1] 個人所得税法109/2025/QH15 第13条第1項(居住者)・第23条第1項(非居住者)、Decree 253/2026/ND-CP
[2] 個人所得税法109/2025/QH15。個人による非上場株式会社の株式譲渡は、有価証券の譲渡として扱われる
[3] 法人所得税法67/2025/QH15 第11条第2項、Decree 320/2025/ND-CP 第13条。法人による非上場株式会社の株式譲渡は、資本譲渡として扱われる
[4] Decree 320/2025/ND-CP 第12条第3項i号。免税の要件は新通達20第7条第2項m号による

[5] Decree 320/2025/ND-CP 第14条

なお、非上場株式会社の株式の譲渡は、個人と法人とで税務上の区分が異なる点に留意が必要である。個人の場合は「有価証券の譲渡」に区分され譲渡価額の0.1%が適用されるのに対し、法人の場合は「資本譲渡」に区分され、ベトナム法人は譲渡益の20%、外国法人は譲渡価額の2%が適用される。売手が個人か法人かによって適用税率が大きく異なるため、取引ストラクチャーの検討にあたっては、まず売手の属性を正確に確認することが重要である。

売手が外国法人の場合の例外規定として、新政令320第12条第3項i号ただし書きにより、グループ内再編取引について一定条件下で免税適用できる旨が定められている。次いで公布された新通達20第7条第2項m号によると、以下4つの条件を全て充足することで免税適用が可能とされている。

①最終受益者(親会社)に変更がないこと
②譲渡価額が帳簿価額または当初出資額を上回らないこと
③取引により価値差額が生じず、承認された再編計画に基づく価値が帳簿価額を上回らないこと
④譲受人が資本価値・義務・権利をすべて承継すること

ただし、②の「帳簿価額」についていつ時点の金額を用いるか、外貨出資の場合に為替変動による帳簿価額の変動をどう扱うかなど、条文上明確でない点が複数存在するため、免税適用を検討する場合には、個別ケースごとに必要に応じて所管税務局への照会等を行った上で、十分慎重に判断することを推奨する。

なお、改正個人所得税法(法律第109/2025/QH15号、以下「新PIT法」)の施行令については、2026年3月時点で公表されていた草案では非上場株式の譲渡益に20%を適用する旨が提案されていたが、正式公布された政令第253/2026/ND-CP号(以下「新政令253」)において、非上場株式は従来どおり「譲渡価額×0.1%」での課税が継続されることが確定した。すなわち、個人(居住者・非居住者)による非上場株式の譲渡については、新PIT法の施行後も税率・区分ともに変更はない。

1-2 課税標準の計算方法

譲渡価額は株式譲渡契約等で合意された金額となる。

譲渡益は「譲渡益=譲渡価額-取得価額-譲渡関連費用」として計算される。

取得価額は売手の出資額もしくは第三者からの購入価額であり、譲渡関連費用は譲渡に直接関連して実際に支出された費用、たとえば弁護士・税理士等の専門家報酬や各種手続の手数料となる。譲渡関連費用を譲渡損益の計算に含めるには、契約書や請求書等の証憑が必要となる。

譲渡損益の計算について、特に譲渡損の場合、申告納税時や後の税務調査で指摘を受け、税務当局が計算した時価が譲渡価額と推定されるケースがたびたび見受けられる。このため、外部専門家による企業価値評価報告書等、譲渡価額の客観性・妥当性を十分に説明できる根拠資料を準備することが望ましい。

なお、実務上は米ドル等の外貨で現地法人(譲渡対象会社)に出資され、売却も外貨で行われるケースが多い。この場合、外貨ベースでは譲渡益が生じていなくても、ベトナムドン換算の結果として譲渡益が算出される可能性がある。適用される為替レートの取扱いについては現行規定上明確でない部分が残るため、個別案件ごとに確認することを推奨する。

1-3 キャピタルゲイン課税の納税者・納税期限

納税者は原則として売手とする。ただし、外国法人等で、ベトナムにおける税コードの取得や海外送金による納税が実質的に困難な場合は、ベトナム所在の譲渡対象企業や買手を納税者に指定する仕組みとなっている。

以下の表は売手の属性ごとの納税者および納税期限のサマリーである。

[6] Circular 87/2026/TT-BTC、Decree 253/2026/ND-CP
[7] Decree 252/2026/ND-CP 第10条第1項、Circular 87/2026/TT-BTC
[8] Decree 252/2026/ND-CP 第9条第2項(a)
[9] Decree 320/2025/ND-CP 第2条第2項
[10] Circular 20/2026/TT-BTC 第5条第2項(a)、Decree 252/2026/ND-CP 第10条第1項、税務管理法108/2025/QH15 第14条第1項(a)

外国法人の納税期限については、新通達20の施行により、旧来の「(a)管轄当局の資本譲渡承認日」または「(b)承認不要の場合は契約書上の合意日」という二択から、最初のSPA(資本譲渡契約書)の効力発生日を起算点とする方式へ一本化された。日数の数え方も、従来の「発生日から10日」から「発生日の翌日から起算して10日」へと改められている。

なお、資本譲渡に係る法人税がこの都度申告の対象であること自体を明示する規定は、現行の政令には置かれていない。従来この対象税目を列挙していた政令第126/2020/ND-CP号(以下「旧政令126」)が廃止され、これを承継した政令第252/2026/ND-CP号(以下「新政令252」)では都度課税期間の定義を置くにとどまるためである。もっとも、新通達20が資本譲渡について取引ごとの収益認識時点を定めている以上、都度申告として扱う解釈に実務上の疑義はなく、税務当局の運用も従来どおりである。

公開企業の株式等を、証券会社等を通じて売買する場合は、上述によらず証券口座を通して証券会社等が源泉徴収を行う。

また、納税タイミングとディール条件によっては、譲渡代金の入金よりも前に申告納税が必要となる可能性があるため、納税資金の手当てにも留意されたい。

1-4 提出書類

法人税の申告時に求められる書類は以下の通りである。[11]
ⅰ. 資本譲渡による法人税の税務申告書
ⅱ. 譲渡契約書のコピー(外国語で作成した場合、主要項目はベトナム語翻訳)
ⅲ. ライセンス発行機関による譲渡承認決定書のコピー
ⅳ. 出資証明書(Certificate of Contributed Capital)のコピー
ⅴ. 譲渡に関連して発生した費用の証憑

実務上、税務当局から追加書類を要求されることが多く、事前に企業登録証明書(ERC)のコピーおよび譲渡代金の入金が確認できる銀行入出金明細等も準備しておくことが望ましい。個人所得税が適用される場合も、概ね同様の書類を提出することとなる。

[11] Circular 21/2026/TT-BTC(様式05/TNDN)

1-5 ペナルティ

申告漏れ・誤りについては、追徴税額(正しい税額-納付済税額)に加えて、追徴税額の20%が加算税として科され、延滞税として利息が1日あたり0.03%発生する。脱税・不正行為に対しては重加算税として追徴税額の100%~300%が科され、さらに行政罰として最大2億ドン(約100万円)の過料が科される可能性がある。加えて、追徴税額および延滞税は10年前まで遡ることが可能であるため、申告漏れ・誤りによる金額的損失は大きくなる可能性がある。

1-6 日本法人がベトナム子会社を別の日本法人に売却する場合の日越二重課税

日本法人がベトナム子会社を別の日本法人に売却する場合、日本の税法では株式譲渡益として法人税が課せられる一方、上記の通りベトナムでも課税対象(譲渡価額の2%)であり、二重課税が生じることとなる。

二重課税については日越租税条約により、どちらか一方で外国税額控除が適用できる仕組みとなっているが、実務上、ベトナムでの適用にあたっては税務当局から長期間にわたって追加資料・説明を求められる事例も散見される。日本側での外国税額控除の適用可否も含めて対応を検討いただきたい。

おわりに
本レポートでは2025年10月1日施行の改正CIT法および新政令320によるキャピタルゲイン課税の主要な変更点を解説した。
ベトナムは地政学的な安定性や高い経済成長余力を背景とした消費市場としての魅力等から、日系企業にとって製造拠点・販売マーケットとして大きなビジネスチャンスのある国である。政府も外国からの投資を奨励しているが、一方で税務当局は積極的に課税収入の確保を図っており、今回の改正もその流れの一環といえる。税制の変更点を正確に理解し、税務リスクを適切に評価・対応したうえで、M&Aによる事業機会を成果につなげるために、本レポートを活用いただければ幸いである。


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