Reportレポート

ベトナムの付加価値税②還付手続の特徴、税務調査における注意点

2020/10/05

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 前回は付加価値税(以下、VAT)の基本事項を中心に説明してきたが、本稿および次回はVATの実務上の留意点について説明する。
 ベトナムでは一定の要件を満たした場合のみVATの還付を行うことができるが、還付時に税務調査が行われる。また、還付時の税務調査だけでなく、ほかの税金同様に企業に対して不定期に実施される税務調査や、法人閉鎖時に行われる税務調査もあるため、その際に指摘を受けないようあらかじめ備えておくことが大切である。
 本稿では、VAT還付の税務調査の特徴、およびVATに関する税務調査で指摘を受けやすいポイントについて説明する。

1.付加価値税還付の税務調査の特徴
 日本の消費税還付は法令に沿って、原則申告するのみで税務調査なしで還付されるが、ベトナムのVAT還付は初回申請時に必ず税務調査が行われ、二回目以降も還付後に税務調査が行われる場合もあるため、申請から還付を受けるまでに数ヵ月程度期間を要する。また、当税務調査は個人所得税や法人税等のほかの税金についても調査される可能性もあり、過去の申告漏れや不備を指摘されてしまい追徴課税を 払うことになってしまった事例もある。そのため、VAT還付を申請する際には、事前にレッドインボイスや契約書等の書類を揃えておくだけでなく、ほかの税金に関しても過去の申告漏れがないか確認しておくことを推奨する。
 また、税務局はVAT還付に対して非協力的な姿勢なため、理不尽な理由で還付を認めないことや、還付を認めたにもかかわらず送金までに時間を要することもあるため、資金繰りを考える際には慎重に時間を見積もることをお勧めする。なお、還付手続に係る労力や還付が否認されるリスクを勘案すると、控除しきれない仕入VATは現行法では、期限なく繰り越して控除が可能なため、敢えて還付申請をせずに将来の売上VATと相殺するという選択肢も検討の余地がある。

2.付加価値税の税務調査で指摘を受けやすいポイント
 前回、VAT控除を受けるためには以下の証憑を保管しておく必要があると記載したが、非常に大切となるので改めて記載する。

a. レッドインボイス
b. 銀行送金証明書(2,000万ドン<約10万円>以上の取引の場合)
c. 契約書
d. 通関書類(輸出取引の場合)

 税務調査において、各取引に対する上述の証憑を掲示できない場合は、売上VATや仕入VATを正当なものとして認められず、VATの修正申告や追徴課税、およびVAT還付額の減少や否認に繋がる可能性があるため注意が必要。

 以下、具体的に近年の税務調査で指摘を受けやすいポイントのうち、本稿では、製造業に比較的関係のある項目について紹介する。

(1) 市場価格より低い価格での販売
 移転価格および関連者間取引を規定するDecree 20/2017/NĐ-CPによると、企業が独立企業間価格である第三者との販売価格と異なる価格で関連会社に販売する場合、税務局は販売価格を修正する推定課税の権利を有する。推定課税により販売価格が引き上げられてしまう場合、法人税が増額することに加え、売上VATも増額してしまうことに留意する必要がある。現状ではこのような指摘は移転価格文書の作成義務がある企業に対し、移転価格や関連者間取引に関する税務調査が行われた際に発生している。
 移転価格文書の免除要件は以下a,b,cのいずれかを満たすこととなっており、以下に該当しない企業は文書の作成義務があるため、文書内で価格の妥当性について説明することをお勧めする。

a. 会計年度における納税者の総売上が500億ドン(約2.5億円)未満、かつ関連者取引の総金額が300億ドン(約1.5億円)未満であること。
b. 税務局と移転価格事前確認の合意書(以下「APA」)を締結し、APAに関する法規定に従う年次報告書をすでに提出していること。
c. 納税者の事業内容が単純なものであり、無形資産の開発および使用に関する費用、売上が発生せず、売上が2,000億ドン(約10億円)未満、かつ、借入利息および税引前利益の合計/売上の割合が販売事業の場合は5%以上、製造事業の場合は10%以上、加工事業の場合は15%以上であること。

(2) 債権と債務を相殺する契約
 親会社から仕入、親会社向けに販売するベトナム法人のように、ひとつの取引先に対して債権と債務がともに発生する場合、送金手続を簡略化するためにその債権と債務の相殺を考える会社は多い。その場合、契約書上に相殺となる旨を明記する必要があり、十分明記されていない場合は税務調査において相殺を否認される可能性がある。相殺が否認されてしまうと、債務に対する費用が法人税上損金として認められなくなり、かつ当費用に対する仕入VATの控除・還付も認められなくなるため、注意しなければならない。また、銀行がこのような相殺契約自体を否認する場合もあるため、事前に銀行にも確認いただくことをお勧めする。

(3) 人為的に破損された商品・製品の取得原価
 商品・製品の破損について、原因が自然災害や経年劣化による場合のみ、商品・製品の取得や製造に要した費用を法人税上損金として算入でき、かつ費用に対する仕入VATを控除・還付することができる。そのため、過失か故意かは問わず、破損の要因が人為的である商品・製品については、法人税上損金不算入かつVAT控除・還付不可となるため注意が必要。人為的な破損が発生してしまった場合、各税金の申告時は自己否認して申告納税することをお勧めするが、そもそも破損が起きないよう社内管理を徹底することが大切といえる。

(4) 生産開始前の期間のVAT申告フォーム
 新規設立企業の生産開始前の期間については、専用のフォームを用いてVAT申告をする必要がある。生産開始前の期間に対する仕入VATは、要件を満たした場合に還付申請することが可能であるが、専用フォームを使用せずに申告してしまった場合は、VAT還付を行うことができず、VAT控除のみ可能となってしまうので注意する必要がある。誤ったフォームを使用してしまった場合は、後日正しいフォームで修正申告すれば還付申請を行うことができるが、申告遅延となり行政罰金が発生する。

おわりに
 ベトナムのVAT還付は、還付要件が厳しいだけでなく、税務調査も行われるため、そのハードルは低いものではない。また、VATの税務調査は、ほかの税金同様厳しい調査が実施されるが、上述の各事例でも記載の通り、指摘される項目は法人税への指摘にも繋がりやすいことも特徴的といえる。次回は、引き続きVATの税務調査で指摘を受けやすいポイントについて、製造業以外の業種も含めより多くの企業に関係する項目を中心に説明する。

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