Reportレポート

ベトナムの付加価値税③税務調査における注意点

2021/07/21

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 前回に続き、本稿では付加価値税(以下、VAT)について、近年の法令改正や税務調査事例に基づき、税務調査で指摘を受けやすいポイントを説明する。特に、本稿では業種を問わずに多くの企業にとって関係のある項目について記載する。本稿がVATの税務リスク低減に繋がれば幸いである。

1.付加価値税の税務調査で指摘を受けやすいポイント
VAT税率0%や非課税の売上に対する証憑の不備
 VAT税率が0%や非課税となる売上に関して、税務局から要求された際に以下の証憑を十分提示できなかった場合、通常税率の10%が適用される。
  a. レッドインボイス
  b. 銀行送金証明書(2,000万ドン<約10万円>以上の取引の場合)
  c. 契約書
  d. 通関書類(輸出取引の場合)
 事後に税率10%を適用するよう指摘された際には、売上に対する10%のVATを追加申告・納税することになるため、企業にとっては大きな負担となってしまう。たとえば、輸出取引はVAT0%、ソフトウェアやソフトウェアサービスの提供はVAT非課税となるが、このような取引に対して上述の証憑を保管していなかったために、実際に税務調査で指摘されている事例があるため、注意が必要。
 また、近年電子媒体での取引や取引記録の管理も増えている。その際、契約書やレッドインボイス等は管理されていても、取引ごとの詳細記録が残されていないケースがあるが、税務局より提示を求められる可能性もあるため、同様に適切に管理しておくことを推奨する。

会社負担の駐在員のアパート代・ホテル代・レンタカー代
 多くの会社がベトナムに赴任する駐在員が居住するアパート代やホテル代、通勤のためのレンタカー代を会社負担としている。これらの費用は、駐在員個人が消費しているもので、会社の事業と関連しない費用とみなされ、VAT控除・還付の対象外となる。VAT控除が可能と誤って認識してしまい、長年にわたりVAT控除を続けてきた結果、税務調査で否認されてしまった事例があるため、注意が必要。これらの費用は自主的にVAT控除・還付には含めないよう調整することをお勧めする。

法人設立前の親会社立替費用の必要書類不足
 ベトナム法人設立前に発生する費用を、親会社が立替払いし、設立後にベトナム法人が返済することが多い。ベトナム法人でVAT控除・還付の対象とするためには、レッドインボイスや契約書等に加え、立替合意書および委任状を用意しておく必要がある。これらの必要書類が不足しているために、仕入VATの控除・還付を認められない事例があるため、注意が必要。また、実務上レッドインボイスや契約書については、ベトナム法人設立前には親会社の名義で発行し、設立後にベトナム法人の名義に変更する必要がある点も留意すること。

未返済となっている立替金
 ベトナム法人が十分な資金を有していない場合等、各種取引への支払を親会社に立替してもらうケースがある。親会社へ返済が完了する前の状態では、VAT控除・還付を行えない点に注意が必要。この点を把握しておらずVAT控除を続けてしまい、税務調査で当該費用に対する仕入VATを認められなかった事例があるため、返済完了後に控除や還付を行うよう留意する必要がある。

失踪した会社のレッドインボイス
 仕入先および商品やサービスの購入先が、正式な清算手続を行わず何らかの事情で失踪しているケースがある。法令上は、仕入先が失踪前に発行したレッドインボイスがあり、取引が実在していることを証明できる限りは、問題はない。しかし実務上は、失踪前に発行していたとしても、このような会社のレッドインボイスついては税務調査で認められないことがある。そのため、仕入先や購入先には大企業や知名度のある企業等のように、将来にわたり信頼できる企業を選定することをお勧めする。

福利厚生費
 福利厚生費用については以下の書類を用意してある場合、当該費用に対するVATの控除・還付が認められる。以下の証憑は法人税上損金算入するためにも必要となるため、留意が必要。
  a. 福利厚生の内容(目的・金額・対象者等)が明記された財務規定や労働契約書等の社内規定
  b. 商品・サービス購入時のレッドインボイス(2,000 万ドン<約10万円>)以上の場合は現金決済ではない支払証憑)
  c. 労働組合(組合がある場合)または福利厚生担当者の提案書
  d. 会社代表者による決定書
  e. 各証明書(入院証明書、結婚証明書、死亡報告証明書等のコピー)
  f. 対象となる従業員のリスト

おわりに
 前回と本稿を通じて、税務調査事例に基づいたVATの実務上の留意点について説明してきたが、レッドインボイスや契約関係書類等の厳格な管理が求められる点が伝われば幸いである。また、現在ベトナムではレッドインボイスの電子化が進められており、2020年11月以降はすべての企業に対して義務化される予定となっている。今後紙媒体から電子媒体へと管理方法が変わっていく中で、注意すべき点も変わっていくと想定されるため、定期的に法令情報や税務調査事例の情報をアップデートしていくことをお勧めする。

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