Reportレポート

ベトナムの付加価値税①税率、申告・納税方法、還付手続

2021/07/16

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 ベトナムの付加価値税(以下、VAT)は、日本の消費税と同じく間接税であり、申告・納税義務は企業にあるものの、税金の負担者は最終消費者となるため、原則として企業にとってはコストにはならない。しかし、税額計算方法が日本の帳簿方式と異なり公式領収書であるレッドインボイスを用いることや、2016年の法令改正により従来に比べVATの還付が難しくなったこと等、注意すべき点が多い。本稿より複数回に分け、VATの特徴と実務上の注意点を説明する。
 本稿ではVATの基本事項となる税率および申告納税方法、還付手続について説明する。

1.付加価値税の基本事項
①税率
 VATの標準税率は 10%、水や食料品等の必需品には税率5%が適用される。また、輸出取引に対しては税率0%が適用され、輸出加工企業(以下、EPE)に対する取引についても輸出とみなされるため税率 0%が適用される。税率0%の取引は、VATの申告・納税義務があり、条件を満たした場合には仕入時のVAT の控除や還付が認められる。一方、医療サービスや生命保険等、VATの性質に合わない特定の商品・サービスに対する取引や社会政策上配慮されているものは、日本同様に非課税と定められており、当該取引に対する申告・納税の義務はなく、VATの控除や還付も認められていない。
 なお、ソフトウェアおよびソフトウェアサービスに対するVATは優遇されており非課税となる。対象となるソフトウェアに関しては、Circular 09/2013/TT-BTTTTにリスト化されており、自社の製品もしくはサービスが当リストの中に含まれる場合、VATは非課税となる。しかし、リストの項目には詳細まで規定されておらず、将来税務調査で、リストの項目に該当していないと指摘されるリスクがあるため、対象企業は税務局からオフィシャルレターを取得することを推奨する。

②申告納税方法
 VATの計算方法には、「控除方式」、「直接方式」の2種類があるが、売上に対するVAT(以下、売上VAT)から仕入に対するVAT(以下、仕入VAT)を控除した後の金額を申告・納税する「控除方式」が一般的であるため、本稿では「控除方式」を適用することを前提で説明する。
 企業は商品やサービスを提供するなかで仕入VATを支払い、売上VATを受け取っているため、売上VATから仕入VATを控除した後の金額を申告・納税することとなる。なお、仕入VATが売上VATを超過している場合は、当該超過額を無期限に繰り延べることができ、将来の売上VATと控除することができる。仕入VATの控除には、以下のすべての証憑が必要となるため、注意しなければならない。
  (1)レッドインボイス
  (2)銀行送金証明書(2,000 万 VND 以上の取引の場合)
  (3)契約書
  (4)通関書類(輸出取引の場合)
 レッドインボイスについては、会社名、会社住所および税コード等すべての情報が正確に記載されていなければならず、かつベトナム語での記載が求められる。レッドインボイスに不備がある場合は、仕入VATの控除ができないだけでなく、法人税においても損金不算入となってしまうため、慎重に管理することをお勧めする。
 申告・納税のタイミングは月次もしくは四半期ごととなり、設立から1年未満の新規設立法人もしくは前年度売上が500億VND以下の場合のみ、四半期申告・納税が可能となる。申告・納税手続については、専用のソフトウェアを利用したオンラインでの手続が求められている。

③還付手続
 仕入VAT控除後の余った仕入VATに対し、一定の要件を満たした場合はVATを還付することが可能となる。VAT還付が可能となるのは、新規設立企業の生産開始前もしくは輸出売上に係る仕入取引(輸出売上高の10%が還付上限額)のみとなり、還付要件はそれぞれ以下のすべてを満たすことである。

 ●新規設立企業の生産開始前の仕入VATの還付要件
  (1)設立から1年以上経過していること。
  (2)仕入VAT残高が3億VND以上あること。
  (3)資本金が全額拠出されていること(資本金入金期限以降の場合)。
 ●輸出売上に係る仕入VATの還付要件
  (1)仕入VAT残高が3億VND以上あること。
  (2)税関法に基づいた必要書類の用意および申告手続を行っていること。
  (3)税関法および関連規定において指定される場所で輸出手続が行われていること。
 従来、VAT還付の対象はより広いものであったが、2016年に法令改正が行われたことで上述に該当する企業のみが対象となってしまった。設立して間もない企業の多くは、初期投資時に多額の仕入VATが発生しており、VAT還付を想定した予算計画を立てることが多かったため、当改正はこのような新規設立企業に対して大きな影響を与えた。
 また、(2)に関して、2016年の法令改正に併せ、輸入品を製造・加工せずに輸出する場合はVAT還付が認められなくなっていたため、輸入品を製造・加工せずに輸出(EPE への販売も含む)する場合について、2016年7月1日~2018年1月31日の期間に対するVATの還付は認められないことに、該当する企業は注意していただきたい。ただし、2018年2月以降は Decree146/2017/ND-CP が発行されたことによりVAT還付が認められるようになったため、当法令が有効となった2018年2月1日以降の期間に対するVAT還付が可能と解釈されている(当還付の適用可能時期が明示されていないことによる)。
 なお、VAT還付の申告手続は、従来の紙による申告に加え、オンラインでの申告も可能となっている。レッドインボイス等紙媒体の必要証憑をオンライン上にアップデートする手間がかかることもあり、現時点ではまだ紙による申告が一般的となっている。ただし、2022年7月よりレッドインボイスから電子インボイスへの切り替えが義務化される予定となっており、近年すでに電子インボイスを使用する企業も増えてきていることから、今後はオンラインでの申告も一般的になっていくと考えられる。VAT還付の際には税務調査が行われるのが特徴といえるが、詳細については次回で説明する。

おわりに
 上述の通り、本稿ではVATの基本事項となる点について説明した。VATは本来コストとはならないものであるが、VATの控除や還付ができるか否かは企業のキャッシュ・フローに大きな影響を与えるため、注意点を押さえておく必要がある。次回はVATに関する税務調査で指摘を受けやすいポイントを中心に、実務上の注意点を説明する。

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