Reportレポート

労働派遣活動に対する留意点

2025/04/28

  • Bui Thi Minh Hoa

はじめに
労働派遣は、労働コストを最適化できつつ柔軟な人材活用を達成できる手段として注目されている方法である。労働派遣は最近できた制度ではないものの、規定の内容に不明確な点も多く、適用にあたり留意が必要である。本レポートでは、労働派遣の留意点を整理し、法的に曖昧なポイントを分析する。

1. 労働派遣とは(2019年労働法第52条第1項)

労働派遣とは、労働派遣企業と労働契約を締結した労働者が、他の企業の管理下で働くものの、契約上の使用者は派遣元企業が維持される仕組みを指す。

労働派遣企業と労働派遣受入企業は労働者の労働派遣契約を締結する必要がある。なお労働派遣契約の締結にあたっては、2019年労働法第55条に規定される以下の条件を遵守する必要がある。
(i)  契約の形式に関する要件
(ii)  契約内容に関する要件
(iii) 労働者の待遇に関する要件

2. 労働派遣に関する留意点

労働派遣する際、企業は以下の点に留意する必要がある。

2.1. 2019年労働法第53条による労働派遣の条件

条件 法律規定 留意事項
労働派遣期間 労働派遣期間は最長 12 か月 この規定により、同じ派遣労働者グループを12か月以上継続して使用することは禁止されている。期間終了後も双方に継続の意思がある場合には、新契約を締結し、別の労働者を派遣する必要がある。
派遣労働者を使用できるケース i) 突発的かつ一時的な人事不足への対応 i) 突発的かつ一時的人事不足への対応
・内部報告書、売買契約書、注文数の増加を示すデータなどを準備することが推奨される。
ii) 妊娠休暇、労働災害、職業病または公的義務を果たす労働者の代替 ii) 労働者の代替の場合
・出産、労働災害、職業病の休暇証明書、公的義務履行の証明書などを準備することが推奨される。
iii) 高度な専門性や技術を要する業務への対応 iii) 高度専門・技術職の必要性がある場合
・内部報告書、特定職位での専門人材の必要性を示す企業の決定書、ビジネス計画書などを準備することが推奨される。
派遣労働者を使用できないケース i) ストライキや労働争議中の労働者の代替
ii) 労働派遣企業と派遣労働者との間で労働災害・職業病に関する補償責任が明確に合意されていない場合
iii) 企業の構造・技術変更、経済的理由また組織再編(分割、合併など)に伴い退職した労働者の代替
上記派遣労働者を使用できるケースに該当する場合であっても、1つでも左記条件に同じく該当する場合には当該労働派遣は違反とされる。

 2.2. 労働派遣が可能な業務
政令145/2020/ND-CP附則IIでは、労働派遣が認められる20の業務が定められている。その中で(i)販売支援および(ii)プロジェクト支援に関しては、詳細な規定がなく、派遣可能な業務範囲の判断は行政機関の見解に委ねられている。

販売支援業務:
実務上、営業支援スタッフ(Sales Support)は営業員の業務をサポートする事務作業者を指す。具体的には、パッケージングの支援、注文処理、顧客対応(クレーム受付・処理、注文状況の更新)、システムへのデータ入力などが含まれる。

プロジェクト支援業務:
「プロジェクト支援」の範囲は、プロジェクトの種類(建設、IT、製造、研究など)や契約内容によって異なる。一般的には、高い専門知識を必要としない事務作業や運営支援が含まれる。

企業が派遣労働者の業務を自社社員と区別するには、「労働派遣が必要なプロジェクト」の定義を明確にし、契約書に業務内容やフェーズを明確に記載することに加え、プロジェクトに関する証明資料を準備すべきである。なおホーチミン市労働局は、データ変換ソフトウェア開発プロジェクトを「プロジェクト支援」に該当すると判断した事例がある。

2.3. 労働派遣企業の条件
労働派遣企業は、派遣労働者の給与支払を保障するために、銀行にデポジットの支払いが義務付けられている。また労働派遣活動許可書(ライセンス)なしでは労働派遣業務が提供できない。

2.4. 労働派遣に関する違反とリスク
違反行為によっては、政令12/2022/NĐ-CP号第13条に基づき、最大100,000,000ドンの罰金を科せられ、状況次第では違反の是正措置が求められることがある。また、派遣労働者の権利を侵害する違反があった場合、企業は相応の賠償責任を負う可能性がある。

 3. 派遣労働に関する紛争

3.1. 労働災害および職業病に関する紛争
労働派遣契約で労働災害や職業病が発生した場合の責任分担が明確化されていないことが原因で紛争が生じやすい。例えば、医療費の負担、損害賠償、治療期間中の給与の支払いなどが曖昧な場合、双方の責任が不明確になり、トラブルの原因となる。

3.2. 労働条件に関する紛争
労働時間、休憩、残業代、年次休暇などが契約で明確に定められていない場合、企業間で責任の押し付け合いが発生する可能性がある。

3.3. 派遣労働者の採用に関する紛争
労働派遣契約終了後に労働派遣受入先企業が派遣労働者を継続雇用したいが、その場合について契約書に明記されていない場合、新たな合意が必要となり、労働派遣企業と受入先企業の間で紛争が生じる可能性がある。紛争回避のためには、労働派遣契約において各当事者の労働者に関する責任を明確に規定することが重要である。

おわりに
労働派遣は人材活用を最適化でき、かつ企業の労務管理負担を軽減できる手段として採用されることがある。しかし、適切な条件を満たさない場合や契約内容が不明確な場合、労務リスクや紛争が発生しやすい。リスクや紛争の回避のために労働派遣企業が法令に準拠した契約を締結し、必要な条件を満たしていることを証明できる書類を備えておくことが重要である。

参考文献:
・ベトナム2019年労働法、法律番号 45/2019/QH14(2019年11月20日公布)
・政令145/2020/ND-CP(2020年12月14日公布)
・政令12/2022/ND-CP(2022年1月17日公布)

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