Reportレポート

個人所得税の外国税額控除の留意点

2023/11/24

  • 米国公認会計士
  • 逆井将也

 外国で給与所得を受け取るベトナム居住者は、ベトナムでのPIT課税対象と外国でのPIT課税対象の両方に該当する場合があり、多くの居住者は法令を遵守しながら、両国の二重課税額負担を可能な限り軽減する方法について模索している。ベトナム法令上、規定条件を満たす場合には外国で納税したPITの控除が適用可能であり、本稿ではこの問題について解説する。

I.外国で納税した税額の控除のための手続き・手順
 ベトナムの納税額から外国で納税した税額の控除については、ベトナムの法令および租税条約に規定されている。詳細は以下の通りである。

1. ベトナムの法令
 a. 原則
 外国で納税した税額が発生する場合に関する通達111/2013/TT-BTC第26条第2項では、以下のように説明している。
 e.1) ベトナム居住者が外国で所得があり、外国の法令に従ってPITを納税した場合、外国で納税した税額が控除される。控除可能な税額は、外国で発生する所得に対して配分されるベトナムの税率表に従う税額を超えない範囲である。配分率は外国で発生した所得金額と課税所得総額との比率によって決定される。
 b. 必要書類
 政令126/2020/ND-CP第12条第1項、また政令126/2020/ND-CPで発行された付録I第b項9.2ポイント・9.9ポイントによると、PIT確定申告書類において外国で納税した税額に関する必要書類は以下の通りである。
 (1)外国の税務署で発行された納税証明書原本
  または
 (2)外国の法令に従って税務署が上記(1)を発行できない場合、外国で納税した税額に対する銀行証憑のコピー(納税者の署名が必要)
 c. 手順
 ・PIT確定申告を行う際、PIT確定申告に外国で納税した税額を控除する。
 ・その後、期限以内にPIT確定申告と上記bの書類を併せて税務署へ提出する。(通常の期限は翌年4月の最終日である)

2.租税条約の適用に関する法規定
 a. 原則
 二重課税の排除・軽減方法に関する通達205/2013/TT-BTC第48条では、以下のように説明している。
 ベトナム居住者に外国所得があり、ベトナムとの租税条約締約国で納税した場合、かつその条約においてベトナムが税額控除措置を実施することを約束した場合、居住者がベトナムでPIT申告をすると、その所得はベトナムの現行税法に従ってベトナムの課税所得に含まれる。また締約国で納税した税額は、ベトナムで納税すべき金額から差し引かれる。
 b. 必要書類
 租税条約に基づき外国で納税した税額の控除に関する申請書類を案内している通達80/2021/TT-BTC第62条第3 a項によると、必要書類は以下の通りである。
 (1)控除申請書 No.02/HTQT(Giấy đề nghị khấu trừ mẫu số 02/HTQT)
 (2)外国のPIT申告書コピー(納税者の署名が必要)
 (3)外国で納税した税額に対する銀行証憑のコピー(納税者の署名が必要)
 (4)外国税務当局からの納税した税額の確認書の原本
 実務上、書類(1)は必要である。書類(2)(3)(4)については、ベトナム税務署の見解によって、すべてを要求するケースもあれば、3つの書類のうち1つのみを要求するケースもあり、対応が異なる。書類(4)または(3)と(4)を要求するケースが多いが、実際に手続きを進める際には管轄当局に確認することを推奨する。
 c. 手順
・租税条約に従って必要な書類を用意でき次第、税務署へ控除申請書類を提出する。
・税務署は、すべての書類の受領時点から10日間~40日間以内で控除申請書類を確認する。税務署の確認後、納税者が控除条件を満たしていると判断される場合、税務署は租税条約に従って控除充足条件通知書を発行する。
・納税者は期限内にPIT確定申告を実施し、外国で納税した税額の控除を適用する。その後、税務署へPIT確定申告書と控除申請書類・控除充足条件通知書を併せて提出する。
(通常の期限は翌年4月の最後日である)

3.PIT控除の近年の傾向と実務上の留意点
 ベトナムの法令及び租税条約に基づき、外国で納税した税額の控除については上記項目1または項目2の手続きに従って適用できる。
 つまり、納税者が外国で税額を納税した場合、その国がベトナムとの租税条約がない、または租税条約はあるが条約に従って控除しない場合、納税者は項目1に従って手続きを行う。一方で、その国がベトナムと租税条約がある場合は、納税者は項目2に従って手続きを行う。

現在、ベトナムにおいて外国で納税した税額の控除は以下の通り適用されている。
・2022年以前:上記項目1に従って外国で納税した税額の控除を適用するケースが多い。また、税務署は上記項目2に従って租税条約の控除申請書を提出することを要求しない。
・2022年以降:項目1に従う書類に加えて、税務署は項目2に従う租税条約の控除申請書を提出することを追加で要求する傾向にある。

 上記を踏まえ、弊社は税務署が上記項目2の規定の適用に基づき、外国で納税した税額の控除適用対象を1件のみに段階的に削減する傾向にあると考えている。
そのため、今後の対応として以下の点にご留意いただきたい。
・納税者が租税条約のない国に納税した場合、その国で納税した税額をベトナムで控除できないリスクがある。
・外国で納税した税額の控除を行う際、申請書が承認されないリスクを軽減するため、項目2の規定に従って手続きを実施することを推奨する。
・租税条約を適用せずに項目1の規定に従って外国で納税した税額の控除を適用したい場合、税務署に対して書面で意見を取得することを推奨する。

II.控除可能金額の計算方法
 上記項目1および2の規定に基づき、控除可能の税額は、外国で発生する所得に対して配分されるベトナムの税率表に従う税額を超えない範囲である。配分率は外国で発生した所得金額と課税所得総額との比率によって決定される。

<例>
 日本人Aさんはベトナム居住者となり、ベトナムの外国企業に勤めている。Aさんは全世界所得に対する個人所得税を負担する(グロス所得、ネット保証ではない所得)。
課税年度20XX年における、Aさんの所得の情報は以下となる。
ベトナムで働いた10カ月の所得:
・課税所得:400,000,000ドン
・強制社会保険:20,000,000ドン
・Aさんは18歳未満の子どもが2名おり、規定に従って扶養控除の登録をしている

日本で働いた2カ月の所得:270,000,000ドン(個人所得税30,000,000ドンを源泉徴収※)
日本はベトナムと租税条約を締結している。
20XX年にベトナムにおいてAさんの外国で納税した税額を控除できる最大金額の計算方法は以下となる。
① 総所得:700,000,000ドン。
・ベトナムの課税所得:400,000,000ドン
・日本の課税所得:270,000,000+30,000,000=300,000,000ドン
② 総控除項目
・強制社会保険料:20,000,000ドン
・基本控除と扶養控除:(11,000,000×12)+(4,400,000×12×2)=237,600,000ドン
③ 課税所得=700,000,000-237,600,000=462,400,000ドン
④ 月次課税所得=462,400,000 ドン÷12=38,530,000ドン
⑤ 年間の個人所得税額=(38,530,000×25%-3,250,000ドン)×12ヵ月=76,600,000VND
⑥ 外国の所得に相当する外国の個人所得税額=76,600,000×(300,000,000÷700,000,000)=32,830,000ドン
→源泉徴収された個人所得税 30,000,000ドン※と上記⑥外国の所得に相当する外国の個人所得税額と比べて、外国で納税した税額を控除できる最大金額は 30,000,000ドンとなる。
参考法令:
① 通達111/2013/TT-BTC
② 通達205/2013/TT-BTC
③ 法律126/2020/ND-CP
④ 通達80/2021/TT-BTC
⑤ 2017年10月13日付オフィシャルレター4740/TCT-CS

以上

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