ベトナムにおいてFDI企業が機械・設備の賃貸事業を実施する際の留意点
2026/05/20
- I-GLOCAL.CO.,LTD ハノイ事務所
- 公認不正検査士
- 鹿島妃里子
エグゼクティブサマリー
①機械・設備の賃貸事業は「商品の売買に直接関連する活動」として条件付き事業に分類され、営業許可書(最長5年有効)の取得が必要。
② WTOコミットメント上、市場開放コミットメントがない分野のため、所管当局の裁量判断に左右されやすく、審査期間が長期化する場合がある。
③ 日本からの出資はケース1(国際条約締約国)として、より有利な条件で営業許可書の申請が可能。
④賃貸目的での機械・設備の輸入は新品に限られ、中古品の賃貸目的輸入は不可。
⑤営業許可書の有効期間(最長5年)満了後は更新手続きが必要。
はじめに
ベトナムの製造、加工、工業および建設分野における外国投資企業(以下、「FDI企業」)による投資拡大の流れは続いており、機械・設備の賃貸需要は年々高まっている。法的には、オペレーター付き建設機械・設備の賃貸事業を除き、FDI企業による機械・設備の賃貸活動は、「商品の売買に直接関連する活動」と位置付けられており、市場進出条件や関連する専門法令に基づく営業許可書の取得が求められる。このような背景を踏まえ、本稿ではFDI企業が機械・設備の賃貸事業を実施する際の主な条件と実務上の留意点を解説する(オペレーター付き建設機械・設備の賃貸事業を除く)。
1. 事業実施に必要な主な条件
機械・設備の賃貸事業とは、企業が契約に基づき、一定期間、機械・設備を他の組織または個人に使用させる事業形態を指し、製造、加工、工業および建設分野において広く利用されている。当該活動を実施するためには、以下の条件を満たす必要がある。
1-1 投資条件
政令第31/2021/ND-CP号附属書Iによれば、機械・設備の賃貸事業は、外国投資家に対する市場進出条件付きの事業分野に該当する。当該事業が実務上許可されるか否かは、ベトナムのWTOコミットメントおよび各賃貸サービスの類型ごとに適用される他の国際コミットメントの内容に基づき判断される。
ベトナムのWTOコミットメントによれば、機械・設備の賃貸サービスは、外国投資家に対する市場開放コミットメントがなされていない分野である。そのため、法令上、ライセンス付与の可否が明確に定まっておらず、各時点における所管当局の判断に大きく左右される。投資登録申請書類を所管当局に提出した後、審査の過程で、当局が財務省や関係する業種別管理省庁に対し書面による意見照会を行う場合がある。その場合、照会および回答に一定の期間を要するため、許可取得まで通常より時間がかかる傾向がある。
1-2 事業条件
投資条件に加え、機械・設備の賃貸事業は、政令第9/2018/ND-CP号(以下「政令9」)により、商品の売買活動に直接関連する条件付き事業活動とされている。当該事業を適法に実施するためには、投資登録証明書(以下「IRC」)および企業登録証明書(以下「ERC」)において事業内容として登録することに加え、所管官庁から最長5年間有効の営業許可書を取得する必要がある。
政令9では、営業許可書の交付条件を以下のとおり区分している。
ケース1:外国投資家が、ベトナムが加盟している国際条約の締約国または地域(日本を含む)に属し、かつ、商品の売買活動およびこれに直接関連する活動について、市場開放のコミットメントが存在する場合
1. ベトナムが加盟している国際条約に規定される市場進出条件を満たしていること(外国投資家の出資比率、投資形態、投資活動の範囲、投資家および投資実施パートナーの能力等を含む)
2. 事業を実施するための財務計画を有していること
3. ベトナムで設立後1年以上が経過している場合、延滞している税務上の債務が存在しないこと
ケース2:外国投資家が、ベトナムが加盟している国際条約の締約国または地域に属していない場合
1. 事業を実施するための財務計画を有していること
2. ベトナムで設立後1年以上が経過している場合、延滞している税務上の債務が存在しないこと
3. 次の評価基準を満たしていること
・関連する専門法令への適合性
・同一分野における国内企業との競争状況との整合性
・国内労働者に対する雇用創出の可能性
・国家予算への貢献の可能性および程度
政令9の改正・補足に関する政令案には、上記評価基準のうち雇用創出能力についてより具体的な基準が設けられている。これには、出資比率に応じて想定されるベトナム人労働者数の雇用水準が要求されている。具体的には、出資比率が50%を超える場合には最低100人、出資比率が100%の場合には最低300人のベトナム人労働者の雇用を約束する必要がある。
日本からの出資はケース1に該当するため、原則として国際条約に基づく市場開放の枠組みの中で、営業許可書の申請を行うことができる。実務上所管官庁が申請書類の審査過程で登録予定の事業活動の範囲、具体的な事業モデルに加え、投資家の財務能力および事業経験等も踏まえて確認・審査を行う 。これに対しケース2の場合には、共通条件に加え、競争性、雇用創出、国家予算への貢献度等の評価基準に基づく追加的な審査が行われるため、審査期間や営業許可書の交付可否において所管官庁による裁量判断の影響を受ける。
2.FDI企業による機械・設備賃貸事業を行う際の基本的な手続きの流れ
FDI企業が当該事業を適法に実施するための基本的な手続きの流れは次の2つのケースに分かれる。
ケース1:外国投資家が、新たにFDI企業を設立し、機械・設備の賃貸事業を実施する場合
外国投資家が新たにFDI企業を設立する場合、手続きは以下の順序で進められる。
ケース2: FDI企業が、新たに事業内容または投資目的を追加し、機械・設備の賃貸事業を実施する場合

各手続き段階における所管官庁および処理期間:

3. FDI企業が機械・設備の賃貸事業を実施する際の留意点
FDI企業が機械・設備の賃貸事業を目的として機械・設備を輸入する場合、輸入が認められるのは新品の機械・設備に限られる。首相決定第18/2019/QD-TTg号第4条第3項によれば、中古の機械・設備および技術ラインは、ベトナムにおける企業の生産活動に直接使用される場合にのみ輸入が認められている。このため、賃貸事業を目的として中古または使用済みの機械・設備を輸入することは認められていない。
おわりに
実務上、ベトナムにおいて機械・設備の賃貸事業を実施するにあたっては、FDI企業は投資条件および事業条件の双方をあわせて検討する必要がある。賃貸需要を事前に整理したうえで、その各時点における所管官庁の許可方針を確認しておくことは、申請時の修正対応や審査の長期化を避けるために重要である。また、営業許可書の有効期間は最長5年間であるため、有効期限後に事業を継続する場合には更新手続きが必要となることも留意すべきである。
参考文献
・WTOコミットメント
・政令第31/2021/ND-CP号
・政令第9/2018/ND-CP号
・首相決定第18/2019/QD-TTg号

