Reportレポート

ベトナム法人設立前費用の支払いおよび返済に関する税務上の留意点

2025/09/22

  • Mai Thi Dung

はじめに

ベトナム法人の設立にあたり、準備段階でさまざまな費用が発生するが、これらは親会社や出資者などの第三者が立替払いするケースが多い。ベトナムでは設立前費用の立替払いに対する規制が厳しいため、ベトナムの法人税(以下 「CIT」)および付加価値税(以下「VAT」)の観点から、立替払いに対する証憑書類の整備や最新の税務上の対応ポイントを事前に把握しておくことが重要となる。
本稿では設立前費用の立替支払・返済方法と税務上の留意点について、実務的に整理する。

1. 設立前費用の立替払いに必要となる書類

設立前費用とは、法人がベトナムで設立(企業登録証明書(ERC)の取得前)される前の準備段階において発生する費用である。主に市場調査費用、設立手続きに関するコンサルティング費用、オフィス賃借料、社内体制構築費用(パソコンや備品の購入等)、人材採用費用、マーケティング関連費用などが挙げられる。親会社や個人がこれらの立替払いを行い、その後ベトナム法人に請求した上で、ベトナム法人のCIT損金算入およびVAT控除の対象とするためには、以下の点を満たす必要がある。
ベトナム法人の事業活動と関連性があること:法人設立に関する費用、設立後の事業活動を支援する設立前費用(従業員の研修、広告等)
立替払いについて、法人設立を行う個人・組織から個人・組織への委任状があること

※ 実務上、投資家が立替払いを行い、委任者と受任者が同一となるケースが多い。その際、税務上のリスクを最小限に抑えるために、以下の委任状を準備することを推奨する。

委任者 受任者
投資家が個人の場合 個人投資家 立替払いを直接行う個人
投資家が組織の場合 親法人の会長・取締役会の役員 立替払いを直接行う個人・組織

立替払いを行う個人・組織の情報(宛先等)を対象とした適切なインボイスがあること

※なお、法人設立後に発行されたインボイスには、現地法人の名称、所在地、税コードを含む情報が記載されている必要がある。

500万 VND(VAT 込)以上の支払いの場合には、立替払いを行う個人・組織の名義による銀行決済が必要であり、具体的には銀行振込明細やクレジットカード利用明細などの銀行決済証憑によって証明する。

法令上、外国投資家は必要な許認可の取得前でも、国外またはベトナム国内の自分名義の口座から、投資準備に関する費用を支払うことができる。これにより、国外送金または国内口座からの送金で立替払いが可能となる。
またVAT上の規定により、500万VND以上(VAT込み)のインボイスに対する支払いに対するVATをベトナム法人が仕入VATとして控除するためには、非現金決済(例:銀行振込、債権債務の相殺など)が必要とされている。(政令第181/2025/NĐ-CP第26条に具体的な記載あり)

2. 設立前費用の返済方法と税務上の留意点

2.1 銀行口座を通じた直接返済

現在、多くの銀行ではベトナム法人から外国法人(親会社)の口座への立替費用の直接送金を認めていない。そのため、親法会社はベトナム国内に非居住者預金口座を開設し、当該口座を通じて設立前費用を支払い、現地法人は設立後に国内送金で返済する流れとなっている。最後に親会社は当該口座から外国口座へ海外送金を行う。
この方法は外国契約者税(以下 「FCT」)が発生しないという利点がある一方、銀行の対応や手続きが複雑な場合があるため、事前に銀行側に十分な確認が必要である。

2.2 親子ローンに切替えて返済

親法人とベトナム法人がローン契約を締結し、立替費用を借入金として処理した上で銀行振込により返済する方法である。実務上、上記1のように直接返済を実施したい場合に、銀行からローン契約による返済を提案される事例も多い。

ローン期間が1年超の場合、ベトナム国家銀行へ登録する義務がある。また、ローン契約書やインボイス、利息計算書などの関連書類を整備しても、本方法による立替費用の返済はCIT上の損金算入およびVAT上の控除の対象とはならない点に留意が必要である

なお、利息に対してFCTが課される。また、金利を1-2%などと低く設定した場合、日本側の税務調査で不適切な金利水準と指摘が入り、寄付金課税が発生する事案が見られる。適切な金利水準はベトナムでローンを組んだ場合の金利とされているため、銀行と相談して設定することが望ましい。なお、無利息契約とした場合には、ベトナム側でも市場金利相当額を基に課税されるリスクおよび追徴課税の可能性がある。

2.3 サービス契約による返済

親法人とベトナム法人がサービス契約を締結し、親法人の立替額と同額をサービス料として返済する。実質的には立替費用の支払いだが、形式的にはサービス提供の記録等が必要となり、書類としてサービス提供契約書、業務内容の説明資料(メールのやりとり、報告書等)、インボイス、支払証憑などが求められる。現地法人は本契約に基づき親法人へ銀行送金が可能となるが、以下の留意点がある。
高額の場合は分割払いとなり、各回のサービス料が送金額と一致している必要あり
ベトナム国内での役務提供とみなされ、FCTが発生
実態のないサービスとみなされた場合はCIT上の損金算入が否認されるリスクあり
サービス料が市場価格と乖離しており、かつ独立企業間価格であることを示す根拠(算定方法等)を提示できない場合には、移転価格税制の観点からCIT上の損金として認められないリスクあり

2.4 債権債務の相殺による返済

これは、ベトナム法人が親会社に対して商品・サービスの提供を行い、売掛債権を有する場合に、親会社の立替費用とベトナム法人の売掛債権を相殺する形で返済する方法(将来的な売掛債権の発生見込み含む)である。実施にあたり、売買契約書や立替合意書に相殺による支払いを行う旨を明記し、相殺データ・確認記録書および関連証憑(インボイス、請求書、納品書等)を用意する必要がある。

この方法は親子間の社内取引として比較的簡易に実施でき、FCTも発生せず、法令上、必要な証憑が整っていれば、CIT上の損金算入およびVAT上の控除が可能と解釈できる。ただし、実務上は、本スキームについて非現金決済として認められず、結果としてCIT上の損金算入およびVAT上の控除が否認された事例も確認されている。これは地域ごとの税務当局の法令解釈に差があることが原因である。したがって、本スキームの採用にあたっては、事前に所轄税務当局へオフィシャルレターをもって確認を行うことが推奨される。

2.5 資本金への振替による返済

親法人が法人設立前に発生した費用を払込資本金に振り替え、残額の払込資本金のみを現地法人に送金する形で精算する。当該振替については、両社間で書面により明確に規定し、金額の照合および相殺処理に関する合意内容を記載した確認書を作成・保管する必要がある。

ただし、本スキームは非現金決済として明確に規定されていないことため、CIT上の損金算入およびVAT上の控除が認められないリスクがある。

また、IRCに登録している資本金の全額は送金していないことになるため、実務上では、親会社の資本金の払込が不足していると関連当局に指摘されるリスクがある。本件は法令が明確でなく、当局の考えにより個別に処理されるため、本スキームの採用にあたっては管轄地域の財務局や工業団地委員会、資本金口座を開設した銀行(DICA)、および監査法人等の関係先に事前確認が欠かせない。

おわりに
ベトナム法人の設立前費用は、事業活動の中で必要かつ発生しやすい費用の一つである。したがって、各法人は自社の実情に応じた適切な対応方法を検討し、関連書類を整えておくことで、税務上のリスクを抑えつつコストの節約にもつなげることが期待される。

参考文献
・企業法 第18条(法律番号:59/2020/QH14)
・政令第 181/2025/NĐ-CP号
・政令 第52/2024/NĐ-CP号
・通達 第96/2015/TT-BTC号(通達 第78/2014/TT-BTC号 の改正・補足)
・法人税法第67/2025/QH15号(2025年10月1日施行
・通達 06/2019/TT-NHNN

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