有限会社および株式会社の共通点および相違点
2024/12/01
- Le Thi Thu Ha, Nguyen Thuy Trang
はじめに
計画投資省によると、2024年8月までにベトナムに登録された外国投資資本(FDI)総額は、前年同期比で7%の増加となり、プロジェクトの実施資本も前年同期比で8%増加した。このことは、外国投資家によるベトナムへの投資が引き続き上昇していることを示している。その中で、外国投資企業(FDI企業)の設立は、多くの外国投資家に採用される投資形態の一つである。そこで本レポートでは、投資家がベトナムに投資する際に適切な形態を選択できるように、有限会社および株式会社という2つの一般的な会社形態の共通点および相違点をまとめる。
1. ベトナムへの投資形態
外国投資家は以下の形態で投資を実施することができる。
(1) 経済組織設立(外資100%によるベトナム法人の設立、またはベトナム企業との合弁によるベトナム法人の設立)
(2) Business Corporate Contract 契約形式の投資(BCC事業協力契約)
(3) 出資、株式購入、持分購入
(4) 外国企業の駐在員事務所または支店
(5) 建設分野で活動する請負業者向けのプロジェクトオフィス
これら中でも、経済組織設立投資は多くの外国投資家に採用される形態であり、以下ではこの形態についてその特徴を詳細に述べる。
2. 有限会社・株式会社の共通点および相違点の比較
経済組織設立の形態には(1)個人事業、(2)合名会社、(3)有限会社、(4)株式会社がある。その中で、株式会社よりも構造がシンプルな有限会社は、外国投資資本の設立において最も多く採用されている形態である。以下に有限会社と株式会社の共通点および相違点を示す。
【共通点】
・いずれも法人である。
・いずれも定款資本がある。株主(株式会社の場合)または社員(有限会社の場合)からの出資に基づいて設立され、払込資本額の範囲内で責任を負う。
・企業登録証明書の発行日から 90 日以内に資本金の全額を払い込む必要がある。
・少なくとも 1 名の法的代表者がベトナムに居住している必要があり、出国する際には書面による委任が必要である。
【相違点】
以下の表に、有限会社および株式会社の相違点を示す。
2020年企業法に基づく根拠条文 | 項目 | 有限会社 | 株式会社 | |
1人有限会社 | 2人以上有限会社 | |||
第46条1項、第74条1項、第111条1項 | 社員・株主の数 | 1名 | 2名~50名 | 3名以上 |
第74条3項、第11条3項 | 株式発行 | 不可能 | 不可能 | 可能 |
第30条、第68条、第87条、第112条 | 資本金の増減 | ・ 増資・減資が可能。 ・ 新たに他の投資家により定款資本を増額する場合、定款資本金の変更完了日から10日以内に、二人以上社員有限責任会社または株式会社に変更しなければならない。 |
増資・減資が可能。 | 増資・減資が可能。 |
第52条、第127条、第120条 | 持分・株式の譲渡 | 持分の一部または全部の譲渡が可能 | ・持分の一部または全部の譲渡が可能 ・社員が1名のみ残る場合、譲渡完了日から15日以内に一人社員有限責任会社に変更し、企業登録証明書も更新しなければならない。 ・既存社員に優先的に譲渡する。譲渡を申し出た日から30日以内に引き受けを希望する社員が現れない場合に限り、他の個人または組織に譲渡できる。 |
・自由に株式を譲渡可能。ただし、以下の場合を除く。
企業登録証明書が発行された日から 3 年以内: |
第54条1項、79条1項、85条1項、137条 | 組織体制 | ・ 出資者の代表者が一人である場合:会長、社長(Director)または総社長(General Director)* ・ 出資者の代表者が二人以上である場合:社員総会、社長または総社長 |
社員総会、社員総会の会長、社長または総社長 | ・会社の総株式の50%を超える個人株主または組織株主が11名以上所有している場合:株主総会、取締役会、監査役会、社長または総社長 ・上記に該当しない場合:株主総会、取締役会、社長または総社長が必要であり、監査役会は必須ではない。ただし、取締役の少なくと も20%は独立取締役であることに加え、取締役会には監査委員会が設置される必要がある。監査委員会の組織体制、職務、任務は会社の定款または取締役会が定める活動規則に従う。 |
第55条、80条、81条、153条 | 経営者の監督機関 | 会長または社員総会 *監査役会は必須ではない |
社員総会 *監査役会は必須ではない |
取締役会 *会社の総株式の50%を超える持ち分を持つ株主が11名未満のいる場合、監査役会は必須ではない。 |
第54条3項、第79条3条、第137条2項 | 法的代表者 | ・社長、総社長、会長または社員総会の会長 ・社長または総社長は社員総会の会長を兼務可能 |
・社長、総社長、会長または社員総会の会長 ・社長または総社長は社員総会の会長を兼務可能 |
・法的代表者が1人の場合:取締役会または社長または総社長 ・法的代表者が2人以上の場合:取締役会および社長または総社長 |
第46条3項、52条3条、87条2項、第204条 | 会社形態の変更 | 2名以上有限会社または株式会社に変更可能 | 1名有限会社または株式会社に変更可能 | 有限会社に変更可能 |
第80条6項、第59条3,4,5項、第148条 | 議決を採択するための社員総会・株主総会の賛成比率 | 1.比率:75以上 以下の事項に対して: ・会社定款の変更および補足 ・会社の再編 ・会社定款資本の一部または全部の譲渡2.比率:50%以上 以下の事項に対して: ・社員総会の決議および決定 |
1.比率:75%以上 以下の事項に対して: ・財産総額の50%以上の財産売却 ・会社定款の変更および補足 ・会社の再編または解散2. 比率: 65% 以上 以下の事項に対して: ・社員総会の決議および決定 ・ 会社の発展方向性の決定 ・社員総会の会長の選任および解任、社長または総取締役の任命および解任 ・年次財務の承認 |
1.比率:65%以上 以下の事項に対して: ・株式の種類および種類ごとの株式総数 ・事業分野の変更 ・会社の組織および管理構造の変更 ・投資プロジェクトまたは財産総額の35%以上の財産売却 ・会社の再編または解散 ・会社の定款が規定するその他の事項2.比率:50%以上 上記以外の事項 |
*社長(Director)と総社長(General Director)の違い:企業法には、社長および総社長の区別に関する規定がない。実際に、総社長および社長の呼び方は各会社の規模と選択によって異なる。通常、各部門にDirectorがいる場合、各Directorの管理者は総社長になることが多い。
3. 有限会社および株式会社のその他の特徴
それぞれの会社形態には、長所および短所が存在する。一般的に、有限会社および株式会社には以下の特徴がある。
内容 | 有限会社 | 株式会社 | |
1人有限会社 | 2人以上有限会社 | ||
長所 | ・組織構造がシンプルであることから、最も管理・運営が容易 ・迅速な意思決定が可能 |
・(1人有限会社と比較して)複数の投資家が資本を出し合うことで、資金調達がしやすい。 ・(株式会社と比較して)運営に関する規制が緩やかで、経営の柔軟性が高いため、意思決定が迅速に行いやすい。 |
有価証券を発行できるため、資金調達が容易になる。 |
短所 | 出資者が限られており、かつ株式を発行できないため、資金調達に制限がある。
|
・株式発行権がないため、株式会社と比較して資金調達が制限される。出資の譲渡プロセスは、契約または会社定款の規定によって制限される場合がある。 ・多数の社員が異なる意見を持つ場合、迅速な意思決定が困難である。 |
一般的に株主数が多くなりやすく、管理が複雑になる。 |
おわりに
本レポートでは、ベトナムにおける有限会社と株式会社の共通点および相違点について考察した。外国投資家にとって、これらの企業形態の特性を理解することは重要である。有限会社はシンプルな構造で管理が容易なため、小規模から中規模のビジネスに適している。一方、株式会社は資金調達の柔軟性が高く、成長志向の企業に向いている。投資家には、ビジネスの規模や目的に応じて最適な形態を選択することが求められるため、本レポートが投資家にとって有益な情報となり、ベトナム市場での成功に寄与することを期待する。
参考文献:
・2020年の企業法
・2020年の投資法
・政令07/2016/ND-CP
・通知01/2021/TT-BKHDT号
・通知03/2021/TT-BKHDT号
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