Reportレポート

会社設立前後の立替費用に対する税務上の留意点

2023/06/23

  • 米国公認会計士
  • 逆井将也

 ベトナムで新たに生産・事業活動を行う会社の場合、設立前後に市場調査・設立手続きの顧問支援料・管理システムの構築、マーケティング、人材の採用等の費用が発生することが一般的である。当該費用は、親会社・出資者等の第三者によって立替払いされることが多い。この取引は、多くの当事者に関連するため、 法人税(以下「CIT」)および付加価値税(以下「VAT」)の規定を満たせるよう書類の収集に注意が必要である。本稿では外資企業に向けた注意点の詳細を以下の通りまとめた。

A. 会社設立前の支払い(企業登録証明書の取得前)

1.設立者は、会社設立と企業登録プロセスの前およびプロセス中に運営の目的での契約を締結できる¹。
 外国投資家は直接または他の個人・法人に委任にて契約を締結し、設立前の費用を立替払いすることができる。(投資家または立替払いの受任者は以下「立替払いを行う個人・組織」という。)立替払いの際に、以下の手続きを実施する必要がある。
 ・外国投資家と契約の締結および設立前の費用に関する立替払いを委任される個人・組織間の委任状を作成する。
 ・立替払いを行う個人・組織がベトナムで非居住者預金口座を任意で開設する。
 ・立替払いを行う個人・組織はサプライヤーと契約して海外から直接送金または非居住者預金口座からサプライヤーに送金する。
 企業登録証明書を所得した後、ベトナム法人は締結された契約において発生する権利義務を引き続き実施する必要がある。また、ベトナム法人とその当事者は、締結された合意に従って契約の権利義務を譲渡する必要がある。

2.CITおよびVATに関する留意点
 CITおよびVATの現行規制²に基づき、他の法人が立替払いする設立前の費用は、以下のすべての条件を満たす場合にはCIT上の損金算入とみなされ、またVAT上の控除と認められる。
 ・ベトナム法人の事業活動に関係がある費用、すなわち、会社設立に関連する費用および設立後の事業活動を支援する設立前費用(従業員の研修、広告等)である。
 ・会社設立の当事者から立替払いを行う個人・組織に委任される委任状がある。
※実務上、投資家が立替払いを行う者であり、すなわち、委任者と受任者は同一となるケースが多い。その際、税務上のリスクを最小限に抑えるために、以下の委任状を準備することを推奨する。
 ― 投資家が個人である場合:
  + 委任者は個人・投資家の個人である
  +受任者は立替払いを直接行う個人である
 ― 投資家が組織である場合:
  + 委任者は親会社の会長・取締役会の会員である
  +受任者は立替払いを直接行う個人である
 ・立替払いを行う個人・組織の情報での合法的なインボイスがある
 ・20,000,000 VND(VAT 込み)以上の支払いの場合には、立替払いを行う個人・組織の銀行口座を通じて決済する必要がある

3. 立替払いを行う外国の組織・個人(親会社・外国投資家等)の支払口座に関する留意点³
 現行規制によると、投資登録証明書・出資、株式買取、外国投資家から出資の購入条件を充足している通知書、専門法に基づく設立・運営許可証が発行される前に、外国投資家は海外から、またはベトナムで開設した VND 建・外貨口座から、ベトナムで投資の準備活動の実施における合法的な費用を支払うことができる。
 上記の規定に基づき、立替払いを行う外国の組織・個人は以下の方法のいずれかによって設立前費用を立替払いすることができる。
  + 海外から直接送金する
  + ベトナムでの非居住者預金口座を開設して取引を行う

4. 立替払いを行う個人・組織に立替額を精算する手続き
 立替払いを行う個人・組織に立替額を精算するため、ベトナム法人は下記の書類を準備する必要がある。
  + 会社設立の個人・組織から立替払いを行う個人・組織に対する委任状
  + ベトナム法人と立替払いを行う個人・組織間の立替合意書
  + 請求書、契約書、インボイス、サプライヤーに対する支払いの証憑
  + 20,000,000 VND(VAT 込み)以上の支払の場合は、立替払いを行う個人・組織の銀行口座を通じて送金したことがわかる証憑

 立替払いを行う個人・組織が外国にある場合、ベトナム法人は立替額を精算する際、送金前に取引可否について銀行側に確認することを推奨する。
 また、ベトナム法人が設立前費用を定款資本にて相殺し、この支払方法が書面で指定される場合、現金以外の決済と見なされるため、両当事者間のデータを参照・確認する議事録の準備が必要となる。
 なお、ベトナム法人が外国での立替払いを行う個人・組織に金額を精算する際、当該金額が立替額とみなされ、外国の組織・個人はこの取引を通じて収入が発生しないため、外国契約者税(FCT)は発生しない。

B. 設立後の支払いについて(企業登録証明書の取得以降)

 会社設立後、企業は法人として取引(経済契約の締結、商品やサービスの売買)を実施できるが、その時点では銀行口座をまだ開設していない、または、十分な予算がない可能性がある。 この場合、当初予定されていた生産・事業活動の準備計画を中断せずに取引を継続するにはどうすればよいかとの問題が挙げられる。

1) 会社設立後、受任者によって締結された契約書(オフィス賃貸契約、顧問サービスの契約等)に従って引き続き利用する場合、ベトナム法人に契約上の権利義務を譲渡するための合意書・契約書を準備する必要がある。また、新たな契約書に対して、ベトナム法人・立替払いを行う個人・組織・サプライヤーは以下の第2項の通りに実施する。

2) 税務上、当該費用はCIT上の損金算入およびVAT上の控除と認められるため、上記のAパート第2項における条件を満たさなければならない。ただし、親会社または第三者が引き続き立替払いを行う場合、下記の方法のいずれによって実施する必要がある。

a. サプライヤーと立替払いを行う個人・組織とベトナム法人の3者間の契約書・合意書を準備する。
b. 以下の2つの契約書を準備する。
 i. ベトナム法人とサプライヤー間の契約書(当契約書において、支払方法としてベトナム法人は銀行を通じてサプライヤーへ当契約書に発生する費用を立替払いするために委任することを明確に記載する必要がある。)
 ⅱ. ベトナム法人と立替払いを行う個人・組織間の契約書

 企業登録証明書の取得以降のインボイス上にはベトナム法人の情報が記載される必要がある。したがって、インボイスが正確に発行され、また今後のリスクを回避するため、ベトナム法人は企業登録証明書を取得次第、速やかにサプライヤーに通知することを推奨する。

3) 立替払いを行う個人・組織に立替額を精算する手続き
基本的には、精算手続きは上記のAパート第4項と同様である。ただし、設立(企業登録証明書の取得)後にベトナム法人はサプライヤーとのインボイス・契約書を締結するため、証憑をより積極的に収集する必要がある。


¹ 企業法59/2020/QH14号第18条
²仕入付加価値税控除の原則について財務省が発行した2013年12月31日付の通達219/2013/TT-BTC号第14条第12項bポイント;財務省が発行した2015年6月22日付の通達96/2015/TT-BTC号第4条(財務省が発行した2014年6月18日付の通達78/2014/TT-BTC号第6条の修正・補足)
³ ベトナム国家銀行が発行した2019年6月26日付の通達06/2019/TT-NHNN号第8条

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