Reportレポート

2020年企業法施行に伴い、定款作成と定款変更に関して有限責任会社が注意すべき点

2021/02/26

  • 米国公認会計士
  • 逆井将也

はじめに
 2020年6月17日にベトナム国会で可決された企業法第59/2020/QH14(以下「2020年企業法」という)は2021年1月1日より発効され、企業法第68/2014/QH13(以下「2014年企業法」)に代わるものである。2020年企業法は、株式会社における企業統治体制の改正に加えて、有限責任会社に影響を与える企業の印影、管理組織機構などについても改正された。そのため、各企業は定款変更又は定款付録を発行し、定款の内容を適切に修正する必要がある。本稿では、2020年企業法に基づく定款作成と定款変更に関して有限責任会社が注意すべき内容をまとめる。

1.一人社員有限責任会社及び二人以上社員責任有限会社に共通する改正点
1.1. 企業の印影
2020年企業法第43条によると、企業の印影として次の2つの形式が定められた。
 – 刻印が事業所で作成されるもの
 – 電子取引に関する法令の規定に従ったデジタル署名形式のもの
2014年企業法の規定と比較して新たに設けられた事項の一つといえよう。デジタル署名が企業の印影として公式に承認・追記され、企業は印影の形式を選択できるようになった。
企業は、いずれの印影形式についても、自社の定款等において印影管理・保存方法を規定し実施することとされる。

1.2.法的代表者
 2020年企業法第12条に従い、企業が複数の法定代表者を有する場合、法的代表者それぞれの権利、義務は定款において具体的に規定されるべきことが原則となる。定款において各法的代表者の権利・義務の分掌が明確に規定されていない場合は、「第三者に対してそれぞれの法的代表者は全ての権限を有するが、民事に関する法令及び関連を有する法令のその他の規定に従って、企業に対して生じた損害につき連帯して責任を負う」と規定された。
 さらに2020年企業法では、企業はその管理組織機構の形態に応じ、社員総会の会長、会社の会長、社長又は総社長のいずれかの職名を持つ法的代表者を少なくとも一人有さなければならないとされた(※1)。これは、2014年企業法では明記されていなかったが、対外的な法的代表者の少なくとも1名は企業内部の管理者が就任することを要請しているものといえよう。
 企業は、法的代表者の職名および現定款に規定される権利と義務を改めて確認・整理し、定款を適切に修正する必要がある。

1.3.割合を規定する表現の変更
 2020年企業法では、会社の決議や決定の効力発生などに求められる賛成比率や合意比率などの割合を表す表現に細かな変更が加えられている。以下はその例である。

No. 2014年企業法 2020年企業法
1 …%以上
少なくとも…%
…%以上
2 多数 50%を超える
3 4分の3 75%

2.一人社員責任有限会社と二人以上社員有限責任会社の個別の改正点
2.1.一人社員有限責任会社についての改正
(a) 会社所有者の権利の追加
2020年企業法第76条では、会社所有者の権利について以下の2点が追加された。
 – 会社の財政報告書の承認
 – 社債発行の決定
(b) 組織が所有する一人社員有限責任会社の管理組織機構の変更
 2020年企業法第79条によると、組織が所有する一人社員有限責任会社は以下のいずれかの管理機構を選択できることとなった。
a) 会社の会長、社長又は総社長
b) 社員総会、社長又は総社長
上記により、国営企業でない有限責任会社の監査役設置義務が廃止された。企業は監査役の責任に関する規定を設けることは可能とされているため(※2)、組織が所有する一人社員有限責任会社の監査役設置は任意と解される。また、企業はその実状に応じて、監査役の資格及び条件を決め定款や社内文書で規定できるものとされる。

2.2.二人以上社員有限責任会社についての改正
(a) 社員総会の議事録の規定に関する追加
 2020年企業法第60条第3項は、議長及び議事録作成者が社員総会の議事録への署名を拒否した場合について、以下の条件を満たせばその議事録が効力を有する旨を定めている
 i) 社員総会に出席した他の社員全員が署名している
 ii) 2020年企業法第60条第2項 a 、b 、c、d 、đ 、e の規定に従った内容を全て具備している
 iii) 議長及び議事録作成者が署名を拒否したことを明記している
(b) 二人以上社員有限責任会社の管理組織機構の変更
 二人以上社員有限責任会社には、社員総会、社員総会の会長、社長又は総社長を置くこととされた。なお、二人以上社員有限責任会社でも監査役会の設置は任意となった。監査役会を設置したい場合は、2020年企業法第65条、第168条、第169条その他の規定の規定を参考に、実状に応じてその設置や要件等について定款や社内文書で規定できる。

おわりに
 上記のとおり、本稿では、2020 年企業法施行にあたって有限責任会社が注意すべき定款作成と定款変更に関する規定をまとめた。各企業は、現時点から現行定款の内容を確認し、2021年1月1日より発効する同法の規定に従い、適切に定款変更または定款付録発行を実施すべきである。

(※1) 2020年企業法第54条及び第79条
(※2) 2020年企業法第83条等

参考文献
2020年企業法 59/2020/QH14号。
2014年企業法 68/2014/QH13号。

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