労働契約の期間が満了した際の雇用者の留意点について
2024/06/16
- Ho Thi Y NhiI
はじめに
労働契約は、給与や労働時間、権利、義務など雇用者と労働者による取り決めを記載した重要書類であり、労働契約の期間もその内容に含まれている。ベトナムでは多くの場合、雇用者は、労働者を雇用する初期段階で、労働者と有期労働契約を締結する。そこで本稿では、雇用者がベトナムの法律を順守できるよう、労働契約の期間が満了した際の雇用者の注意点について説明する。
1.労働契約の期間満了とは
現行のベトナム労働法では、労働契約は無期労働契約と有期労働契約の2種類が規定されている。これらの主な違いは契約期間である。無期労働契約は両当事者が開始時期についてのみ合意し、契約期限、契約の効力終了時点については合意しない。これに対し、有期労働契約は、契約の効力発生時点から36カ月を超えない期間で両当事者が契約の期限、契約の効力終了時点について合意する1。したがって、労働契約の期間が満了するタイミングは、労働契約が効力終了時点に達した時点であると解釈できる。
2.労働契約の期間が満了した際の雇用者の留意点
労働契約が満了した場合、有期労働契約は、基本的に自動的に終了すると解釈されている。雇用者は、新たな労働契約を締結して労働関係を継続するか、完全に終了するかを選択できる。いずれの場合でも、法令の規定に確実に準拠するため、雇用者は下記の点に注意を払う必要がある。
2.1.新たな労働契約を締結し、労働関係を継続する場合
a.新たな労働契約を締結する条件
雇用者が新たな労働契約の締結を希望する場合、かつ労働者も同様の希望を持っている場合に限り実現する。さらに、両当事者は有期労働契約を1回まで延長し、最大2回2まで締結することができるが、新たな契約期間は36カ月3を超えてはならない。しかし、高齢者や外国人労働者などの特別な場合は、2回以上4の有期契約を締結することができる。なお、事業所における労働者代表組織の指導的立場にある構成員は、任期と同じ期間である36カ月を超える有期労働契約を締結することができる。
b.新たな労働契約の締結期限
両当事者は、旧契約の効力終了日から30日以内に新たな労働契約を締結しなければならない5。新たな労働契約が締結されていない間は、両当事者の権利、利益、義務は旧契約に従うことになる。前述の期限が経過し、両当事者が新たな労働契約を締結しない場合、締結された有期の旧契約は、自動的に無期労働契約に変更される。しかし前述の通り、無期労働契約の締結時には効力終了時期について合意しないため、実際にはこのような労働契約を終了するのは非常に困難であり、有期労働契約の終了に比べて時間がかかる。例えば、無期労働契約を締結している労働者に対する一方的終了の通知期限は少なくとも45日であるのに対し、12カ月から36カ月までの有期労働契約の一方的終了の通知期限はわずか30日である。
また、有期労働契約を無期労働契約にするために、新たな労働契約の交渉・締結までの期間を上記の30日を超えて意図的に延長する労働者もいる。したがって雇用者は、前述のような状況に陥るリスクを避け、能動的に新たな労働契約の種類と期間を決定できるよう、有期労働契約の満了日までに新たな労働契約の交渉を行い、完了させることをお勧めする。
2.2.新たな労働契約を締結せず、労働関係を継続しない場合
労働契約が満了した場合、前述のように雇用者は労働契約を完全に終了させる権利を有する。ただし、労働契約を終了するには、雇用者は下記の点に注意する必要がある。
・労働契約が終了する場合、労働者に対し、書面で労働契約の終了に関して通知しなければならない6。現行の法令では通知書の期限について明記されていないが、労働契約の終了後も労働者が働き続けることによって、望まない労働契約を新たに締結させられる状況が生じないよう、雇用者は遅くとも労働契約の終了日までに労働者に通知書を送付する必要がある。
・雇用者は、給与、退職金(労働者が受給条件を満たしている場合)、年次有給休暇の未消化日数(ある場合)に相当する金額など、労働者の権利に関連するすべての金額を全額支払う責任がある7。また、社会保険料、医療保険料、失業保険料を納付する期間の確認手続きを終了したうえで、雇用者が保持している場合には労働者にその他の書類の原本を返還し、労働者が要求する場合には、労働者の労働過程に関連する各資料の写しを提供する責任を負う8。
労働契約の終了には次の例外がある。
・事業所における労働者代表組織の指導的立場にある構成員は、任期中である場合、労働契約が満了した場合でも締結済みの労働契約を終了することができず、任期満了まで延長する必要がある9。
・女性労働者が妊娠中または12カ月未満の子供を養育中に労働契約期間が満了した場合、優先的に新たな労働契約を締結する10。ただし、現行の法律では「優先的」の解釈について規定されていない。法律は、雇用者に対し、新たな労働契約の締結を義務付けているわけではないと考えられるが、このような労働者は雇用者から特別な援助、保護を受ける必要があるため、雇用者は新たな労働契約の締結を検討する必要がある。
おわりに
労働契約の期間満了とそれに係る対応は、労働関係における典型的なケースである。したがって雇用者は、新たな労働契約の締結を継続するかどうかにかかわらず、法律によって与えられた権利を最大限に活用するために、規定を十分に理解し、自らの責任と義務について認識すべきである。
1 2019年労働法第20条第1項
2 2019年労働法第20条第2項c号
3 2019年労働法第20条第1項b号
4 2019年労働法第20条第2項c号
5 2019年労働法第20条第2項a号
6 2019年労働法第45条第1項
7 2019年労働法第48条第1項
8 2019年労働法第48条第3項
9 2019年労働法第34条第1項および第177条第4項
10 2019年労働法第137条第3項
M000111-182
(2024年6月16日作成)