Reportレポート

FDI 企業が利益剰余金を事業活動に使用する場合の留意点

2024/03/15

  • 米国公認会計士
  • 逆井将也

はじめに
 会社は、納税義務および法令に基づくその他の財産的義務を果たした後に、利益分配後に弁済期が到来するその他の各債務・財産的義務を確実に全額弁済できる場合に限り、各投資家に利益を分配することができる。また、税引後の利益の分配および損失処理の原則を会社の定款に規定する必要がある。
 一方、税引後の利益分配を行わずに再投資のために継続して使う場合は、この利益分が投資プロジェクトを実施する登録資本に該当するため、増資の登録が必要になると解釈できるという留意点がある。実務上、この点は今まで当局が厳格に管理してこなかったが、最近では会社に増資を要求する事例も僅かながら発生してきている。詳細を以下にまとめるため、ご参照いただきたい。

① 登録資本についての法令上の規定
2020 年投資法の施行を案内する政令 31/2021/ND-CP 号 第 28 条の規定によると、投資プロジェクトを実施する登録資本は以下に基づいて決定される。
(i) 金銭、機械、設備、知的所有権・工業所有権・技術ノウハウの価値、土地使用権・民事に関する法令、投資に関する国際条約に基づいたその他財産の価値
(ii) 投資プロジェクトを実施する資本
(iii) 再投資のための利益
投資登録証明書(IRC)変更登記手続きを行う会社に発行された通達 03/2021/TT-BKHDT に基づく投資登録証明書(IRC)フォームには、「再投資利益」という情報が明確に記録されている。
したがって、(iii) 投資家の再投資のための利益は、プロジェクトの投資資金の一部とみなされる。「再投資」の概念は法令上明確に定められていないため、「再投資」であるかどうかについては各社で確定する必要がある。ただし、2020 年投資法第 3 条に、「再投資」の概念を検討するために参考となる以下の規定があり、会社は参照できる。
・「経営投資」とは経営活動を実施するために資本を投入することを指す。
・「投資プロジェクト」とは、特定の期間、具体的な地域において投資活動を遂行するための中期または長期的な資本投入の提案を指す。
・「拡大投資プロジェクト」とは、活動中の投資プロジェクトについて、規模を拡大し、稼働能力を向上させ、技術を刷新し、環境汚染を減少し、または環境を改善することにより発展する投資プロジェクトを指す。
② 実務上の解釈および処理事例
 実務上、投資家が利益を再投資に使用する場合、プロジェクトの投資資本とみなされ、資本の増加のために投資登録証明書 (IRC) の修正が必要だと解釈できる。 一方で、「再投資」の目的とせず、利益を短期的な事業活動のために一時的に使用する場合には、投資資金とみなされず、投資登録証明書 (IRC) を修正する必要がないと判断される。
 したがって、投資家の利益がプロジェクトの投資資本とみなされるかどうかは、その利益の使用目的によって決定されると理解できる。実務上の事例では、投資家の利益を短期的な事業活動に使用する会社が多いようである。一方で、地域の工業団地管理委員会の見解としては、投資家の利益を利用し、事業を運営することは、プロジェクトの規模拡大につながるため、「利益からの再投資」とみなされ、資本金の増加の申請を目的とした投資登録証明書 (IRC)の修正を求められる事例がある。
③ その他の留意点
 当該増資額を会社の定款資本とする場合には、企業登録証明書 (ERC)の修正手続きも発生する。この手続きの実施期限は変更日より 10 日以内であるが、この変更日は投資家が定款資本とすることを決定する日だと理解されている。
 投資登録証明書 (IRC)の修正を実施する期限は法令上明確に定められないが、保守的には、利益をプロジェクトへ再投資し始めるタイミングよりも前に実施しておいたほうが良いと判断する。
 政令第 122/2021/ND-CP により、規定通りに投資登録証明書(IRC)または企業登録証明書(ERC)の修正手続きを遵守しなかった場合、行政違反として、投資登録証明書(IRC)に対して70,000,000 VND から 100,000,000 VND 、企業登録証明書 (ERC)に対して 20,000,000 VND から 30,000,000 VND の罰金を科される可能性がある。
おわりに
 会社が利益を事業活動に使用する場合に必要な手続きを確定できるように、まずはその使用目的を確認する必要がある。利益を長期的な再投資として事業活動に使用する場合、それは投資資本とみなされる可能性が高く、投資登録証明書(IRC) および/または企業登録証明書(ERC)を修正する必要があると考えられる。
 一方で、再投資ではなく、短期的かつ一時的に利益を使用することを確定した場合、投資登録証明書(IRC) および/または企業登録証明書(ERC)の修正は不要な可能性がある。ただし、地域によって実務上の解釈および処理事例が異なるため、それらの修正の必要性については、各地域の管轄当局に直接確認いただくことを推奨する。
 投資登録証明書(IRC) および/または企業登録証明書(ERC)の修正が必要だと判断されれば、期限を過ぎて変更を行う場合でも上記のような罰金を科せられるリスクがある。このリスクを回避するため、再投資を行う際に新しい投資額を登録するための投資登録証明書(IRC) および/または企業登録証明書(ERC)の修正手続きを期限以内に実行することをお勧めする。

以上

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