Reportレポート

ベトナムでの移転価格税制に関する国別報告書について

2021/06/28

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

1.ベトナム国内法の規定
 ベトナム政府は移転価格税制の新規定を定める政令132/2020/ND-CP号(以下「政令132」)を発行しており、2020年12月20日から有効になっている。政令132では、国別報告書(以下、「CbCR」)について以下の通り規定している。

① ベトナム法人が最終親会社かつ年間の連結総収入が18兆VND以上の場合、会計年度末から12カ月以内にCbCRを作成し、ベトナム税務局へ提出しなければならない。
② ベトナム国外に所在する最終親会社が所在国の法律に基づきCbCRを作成しなければならない場合、以下の場合にベトナム法人はベトナム税務局にCbCRを提出する必要がある。
 ⚫ 最終親会社の所在国はベトナムと国際的合意を締結しているが、権限がある当局の合意書(Competent Authorities Agreement:以下、「CAA」)を締結していない場合。
 ⚫ 最終親会社の所在国はベトナムとCAAを締結しているが、自動的な情報交換が行われていない場合。
③ ベトナム国外に最終親会社があるベトナム法人について、最終親会社が所在国の法律に基づき、CbCRを提出しなければならない場合、所在国の税務局とベトナム税務局は国際的合意により自動的な情報交換を行う。
④ ベトナム国外に所在する最終親会社が所在する国の規定に基づき、CbCRの提出義務がない場合の扱いは租税条約の規定に従う。

 上記①により、グループの最終親会社がベトナムに所在する場合、当該ベトナム法人にCbCRの作成・提出義務があることが明確になった。
 一方、②、③は国際的合意の締結を前提としているものと解釈できるが、現在ベトナムは国際的合意をどの国とも締結していないことから、現状のベトナムにおいては適用が不可能である。また④は内容が不明確である。
 以上より、ベトナム国外に最終親会社を持つ多くの日系企業にとって、ベトナムでCbCRの提出が必要か否かは不明確な状況となっている。この点、今後詳細規定やオフィシャルレターが発行されることや、国際的合意を締結する可能性もあるため、引き続き情報のアップデートが必要となる。

2.BEPSの規定
 ベトナムは 2017 年に国家間での利益移転等の防止を図るプロジェクトである BEPS(Base Erosion and Profit Sifting)に加入している。BEPSでは政府間の国別報告書(以下、「CbCR」)の情報交換について、以下のように規定している。

⚫ 各国の当局は自国に所在する最終親会社にCbCRの作成、提出を要求する。その後自動交換システムによりグループ企業の所在国に提供する。
⚫ CbCRの交換が国家間で行われない場合は、グループ企業が所在国の当局に直接CbCRを提出することを許容する。ただし、この手法は例外的な措置であり推奨されるものではない。
⚫ 上記いずれの場合も情報の秘匿性を確保する旨の合意が両国間でなされていることが前提となる。

 また、情報の秘匿性を確保するために、国際的合意を締結することが必須であるとしている。各国は国際的合意を締結したうえで、CAA を締結し、そのうえで、CbCRの情報を自動交換することとなる。国際的合意、CAAの定義は以下の通りである。

⚫ 国際的合意:二国間以上の租税にかかる情報交換を可能にする法的枠組を含んだ合意
⚫ CAA:国際的合意を締結した2国間で、CbCRに係る情報を自動交換するという内容を含んだ、両国の代表権のある当事者による合意

 上述の通り、ベトナムは国際的合意を締結していないため、BEPS の国別報告書の規定による実務上の影響は現状では無い。国際的合意の締結が進められた際には、ベトナムでの外資企業への影響も出てくると想定される。

参考文献
政令 132/2020/ND-CP 号 経済協力・発展組織(OECD)のウェブサイト:
https://www.oecd.org/tax/beps/beps-actions/action13

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