Reportレポート

高齢労働者を雇用する際の労働法上の留意点

2021/06/30

  • Le Anh Phuong

はじめに
 特別な技能を持つ労働者、又は単純な仕事(運転手、清掃)をする労働者などに、高齢者を雇用したいと考える企業がある。しかし、高齢者を雇用する場合、特別な制度があり、労働契約を締結・実施する際に注意すべき点がいくつかある。
 労働契約書実施プロセスにおけるコンプライアンスを向上するため、会社が高齢者を雇用する前に考慮すべきいくつかのポイントについて言及する。

1.高齢労働者の定義
 高齢労働者とは定年退職年齢以上で継続的に勤務する者を指し、2021年時点で男性は満60歳と3か月、女性は満55歳と4か月以上の労働者が該当する。

2.高齢労働者に対する特別優遇制度
 高齢労働者を雇用する際に、以下の特別な優遇制度を与えなければならない。

勤務時間
 高齢労働者は通常の勤務時間の短縮、若しくはパートタイム勤務制度の適用について、雇用者と合意する権利を有する。
 2012年労働法(以下、「旧法令」)では、通常の勤務時間を短縮、もしくはパートタイム労働制度を適用しなければならなかった。しかし、2019年労働法(以下、「新法令」)では、勤務時間の短縮は強制ではなく、労働者の希望や健康状態及び会社の状況に応じて調整することができる。

高齢労働者の健康保護
 雇用者は、職場における高齢労働者の健康状態に配慮する責任があり、最低6ヶ月に1回定期健康診断を行わなくてはならない。
 また、安全な勤務条件を確保する場合を除き、高齢労働者の健康に悪影響を及ぼす重労働・有害・危険な作業のために雇用してはならない。

社会保険、失業保険、健康保険
 年金を受給している高齢労働者の場合、雇用者は強制社会保険に加入する必要はないが、給与の支払時期に合わせて保険料相当額の給与を追加で高齢労働者に支払う必要がある。この追加金額は、雇用者が通常の労働者に対して社会保険、健康保険、失業保険を支払う場合の金額に相当し、具体的には以下の通りである。
  ⚫ 社会保険:労働契約書上の給料の17.5%
  ⚫ 健康保険:同3.0%
  ⚫ 失業保険:同1.0%
 年金を受給していない高齢労働者の場合、雇用者は他の労働者と同様に強制社会保険に加入しなければならない。

3.高齢労働者との労働契約の留意点
(1) 労働契約の種類
 雇用者は高齢労働者と複数回の有期労働契約を締結することができる。
 労働者との労働契約は、原則として、二回までは有期契約とすることができるが、三回目からは無期限の労働契約を締結しなければならない。しかし、高齢労働者に対しては、回数制限なく有期の労働契約を締結することができる。旧法令ではこの点が明確に規定されておらず、企業が三回目に高齢労働者と締結する労働契約の種類(有期か無期か)が実務上の論点となっていた。新法令では規定が明確になり、雇用者にとっての問題が解決された。

(2) 労働契約の解約
 2019年労働法第36条第1項のポイントddによると、雇用者は定年退職年齢に達した労働者との労働契約を一方的に解除する権利を有する。
 旧法令では、労働者が以下2つの条件を満たした場合にのみ、一方的に解除する権利を有していた。
  i) 定年退職年齢に達した
  ii) 年金を受給するために必要な社会保険の加入期間を満たした
 社会保険の加入期間を満たさず定年退職年齢に達した高齢労働者の場合、雇用者は積極的に労働契約を解除することはできず、労働者と交渉しなければならなかった。この規定は企業に多くの困難をもたらし、高齢労働者が健康でなく仕事を十分にこなせない場合でも、積極的に労働契約の解除ができないため、企業は高齢労働者を雇用することに消極的になっていた。
 しかし、新法令では、社会保険の加入期間に関する要件が削除された。そのため、雇用者が高齢労働者を雇用する/継続するかどうかをより積極的に判断できるようになった。この変更点は実情に合っていると評価される。

おわりに
 本レポートでは、2019年労働法で改正された高齢労働者に関連する注意点をまとめた。新しい規制により、雇用者は実情に沿った柔軟な高齢労働者の活用が可能になったと見ることができる。しかし、雇用者は快適で文化的かつ効果的な労働環境を作るために、高齢労働者の肉体的および精神的な健康のケアをするための特別な体制を整備する必要がある点、留意されたい。

参考文献
-2012年労働法
-2019年労働法

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