Reportレポート

ベトナムの外国契約者税③税務調査で指摘を受けやすいポイント(その1)

2021/02/04

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 前回まで外国契約者税(以下、FCT)の基本事項および税務調査を想定した契約書作成時の注意点について説明してきた。FCTとほかの税金の大きな違いとして、FCTは申告納税が定期的ではなく、発生の都度必要になる点が挙げられる。申告納税が必要にもかかわらず失念してしまうことや、そもそも申告納税が必要と認識しておらず税務調査で指摘を受けてから気が付くケースが多い。そのため、予めどのような取引や契約が課税対象となり、かつ指摘を受けやすいか具体的なイメージを持っておくことが大切である。
 本稿より2回にわたり、近年の法令改正や税務調査事例を踏まえた、FCTの税務調査で指摘を受けやすいポイントについて説明する。

1.税務調査で指摘を受けやすいポイント
1.1.技術支援契約・出向契約に基づいたベトナム法人の負担費用
 外国法人との技術支援契約や出向契約に基づき外国人がベトナムへ駐在や出張をする際に、ベトナム法人が技術支援料や出張費用(飛行機代・ホテル代等)を負担する場合、当負担額に対してFCTが課税される。本件について、従前は規定上不明確となっていたが、2016年に税務総局よりオフィシャルレターが発行されているため、該当する場合は申告納税する必要がある。技術支援契約や出向契約等の二社間の契約を締結しない場合や、外国法人にて費用を全額負担する場合には、FCTは課税されないため契約のアレンジを検討する価値があるといえる。
 一方で、駐在員や出張者に対する個人所得税については、ベトナムで勤務した場合に納税義務が生じる。出張者に対する納税は軽視されがちであるが、多くの場合ベトナムに滞在した証跡が残るため税務調査の際にも指摘を受ける可能性が高く、必ず申告納税しておくことをお勧めする。

1.2. 保証条件に対する課税
 契約書に保証条件が記載された機械設備等の購入は、実際に保証サービスが行われていない場合でも保証条件自体に対してFCTが課税されていたが、Circular 103/2014/TT-BTC により課税対象外となった。当改定により保証条件の記載のみで課税されることはなくなったが、実際にベトナム国内で外国法人による修理やメンテナンス等の保証サービスが行われた場合には、FCTが課税される点に注意すべきである。税率は、保証サービスのみの金額を契約書上分けて記載している場合、保証サービスに対し税率10%(法人税<以下、CIT>部分5%、付加価値税<以下、VAT>部分5%)およびサービス対象の機械設備に対し税率1%(CIT部分1%、VAT部分0%)となる。一方で、保証サービスの金額を分けて記載していない場合、契約金額総額に対して税率5%(CIT部分2%、VAT部分3%)となるため注意いただきたい。
 また、当サービスによるFCT課税を避けるために、日本に機械設備を送り修理することや、メールや電話会議を通じた作業指示を行う等、可能な限りベトナム国内で外国法人によるサービスを受けないことをお勧めする。

1.3. ベトナム現地受け渡し輸出入
 現地受け渡し輸出入は On the spot 輸出入とも言われ、ベトナム法人(以下、売り手側のベトナム法人)が外国法人と輸出契約を締結する一方で、物品自体は外国法人へ輸出せず、外国法人指定のベトナム法人(以下、買い手側のベトナム法人)に国内搬入する取引のことである。当取引に関し、外国法人はベトナム国内での物品受け渡しに伴いサービスを提供しているものとみなされるためFCTが課される。買い手側のベトナム法人が外国法人へ送金する際にFCTが発生し、税率は物品価額に対して1%(CIT部分1%、VAT部分0%)となる。申告納税手続は、買い手側のベトナム法人にて行う必要があるため漏れがないよう気を付ける必要がある。また、仮に自社が売り手側のベトナム法人となる場合も、契約のアレンジの際にはFCTを加味した金額設定を行うよう留意いただきたい

1.4. 保税倉庫での輸入取引
 外国法人が保税倉庫内でベトナム法人へ物品を引き渡す際の郵送サービス等の各種サービスがFCT課税対象となるか否かに関して、従前は明確に規定されておらず各地方税務局の見解により取扱が異なっていたが、2016年6月1日付で税務総局が発行したオフィシャルレターにより、当サービスに対するFCTは課税されることが明確になった。
 この場合、郵送サービス等の引き渡し時の各種サービスに対してだけでなく、物品自体に対しても課税される点に注意すべきである。

おわりに
 上述の通り、FCTは多くの外資企業がベトナムで事業活動を行う上で発生する税金といえる。契約のアレンジ次第でFCTを回避することも可能であるが、上述のような各種取引は取引先との関係等もあるため、容易にアレンジできないのも現実である。その場合には、FCTは発生するものと捉え、契約書の記載内容に留意いただいた上、申告納税を適切に行っていくことが最もリスクを減らせる方法となる。次回は、引き続き税務調査で指摘を受けやすいポイントについて述べるが、より多くの会社に当てはまる社内内部向けに発生する取引を中心に説明する。

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