Reportレポート

個人所得税の申告・納税方法等に関する直近の重要な改正点

2021/07/21

  • Vo Thi Nguyen Linh

はじめに
 2020年7月1日から発効した2019年税務管理法38/2019/QH14号及び2020年12月5日から発効した政令Decree 126/2020/ND-CP号により、個人所得税に関する多くの規定が改正されている。
 本稿では、新規定のうち、個人所得税の申告・納税方法等に関する重要な改正点をまとめる。

1.月次・四半期申告を決定する方法
 改正前の通達Circular156/2013/TT-BTC号(以下「通達156」)では、企業による従業員の個人所得税(以下、「PIT」)の申告・納税タイミングは以下の通りであった。
 (a)以下いずれかの条件を満たす企業はPITを四半期ごとに申告・納税する
  ・付加価値税(以下「VAT」)を四半期で申告・納税している企業
  ・月次のPIT 納税額が50,000,000VND未満である企業
 (b)それ以外の企業 PIT は月次で申告・納税する

 政令126では、申告・納税タイミングが以下の通り改正されている。
 (a)VAT を四半期で申告・納税している企業:PITも四半期ごとに申告・納税する
 (b)それ以外の企業 PIT は月次で申告・納税する

 したがって、輸出加工企業(以下「EPE」)や駐在員事務所のように、VATを納税していない組織は(b)に該当し、PITを月次で申告・納税することになると考えられる。月次の申告・納税期限は翌月20日となる。
 上記の改正は2021年度の課税年度から適用される。法令上不明確ではあるものの、EPEや駐在員事務所はPITの納税額に関係なく、月次で申告・納税する必要があると解釈できるため、ご留意いただきたい。

2.給与賃金の支給・源泉徴収がない納税者もPITの「ゼロ申告」が必要
 通達156によれば、給与賃金の支給に伴うPITの源泉徴収がなかった納税者(法人、駐在員事務所、個人納税者等、以下「納税者」という)はPIT申告(月次または四半期申告)を行う必要がないとされていた。しかし、政令126号においては、前述の場合が PIT 申告書の提出免除対象から削除された。給与賃金の支払いが発生しておらず、PITの源泉徴収をしていない納税者でも、月次または四半期でPIT申告書を提出する必要がある。すなわち、2020年12月5日以降、いわゆる「ゼロ申告」を行う必要があると解される。

3.PITに関する電子申告の促進
 PITのうち、個人が納税を行うものについて、電子申告(オンライン申告)は2017年に導入されたが、財務省の統計データによると登録者数は少ない。2021年2月5日に、財務省はオフィシャルレターOfficial Letter 377/TCT-DNNCN 号を発行し、電子申告の促進を地方税務局へ要請した。電子申告によりPITを申告する場合、オンライン上の処理で完了するため時間や場所を問わず申告可能である。
 電子申告の導入は納税者・税務局にとって便利になると考えられるが、申告書のハードコピーやその他証憑は税務調査の際に要求される可能性があるため、ご注意いただきたい。

4.ベトナム人の本人確認証明書をチップ付IDカードに変更した場合の手続き
 ベトナム人の本人確認証明書について、旧式の本人確認証明書とバーコード付IDカードに加え、チップ付IDカードが導入される予定である。チップ付IDカードでは、カードにIDチップが組み込まれており、氏名、生年月日、出生地、個人識別機能、指紋などの情報が搭載されている。行政手続きの効率化等のため、公安省は本人確認証明書をチップ付IDカードになるべく早く切り替えるよう要請している。

 税コードを所有する個人がチップ付IDカードを取得した場合、下記のスケジュールに従って税務局への報告を行う必要がある1。

(1)個人が企業の従業員である場合
・IDカード変更の発生日から10日以内に、従業員は企業に“委任状”と“チップ付IDカードのコピー”を提出する。
・企業は従業員から上記書類を受領してから10日以内に税務局に、 Form 05-DK-TH-TCTあるいはForm 20-DK-TH-TCTチップ付IDカードの情報を提出する。またチップ付IDカードコピーは社内保管する。

(2)個人が企業の従業員ではない場合
・IDカード変更の発生日から10日以内に、税務総局に、個人は自ら“チップ付IDカードのコピー”と“Form 08-MST”を所轄の税務局に提出する。なお、「IDカード変更の発生日」とは、チップ付IDカードに記載してから20日(山岳地帯は30日)以内である2。例えば、A氏のチップ付IDカードの日付が2021年3月1日だとしたら、「IDカード変更の発生日」は2021年3月20日になる。この場合、上記(1)のケースでは 2021年3月30日(IDカード変更の発生日から10日)が、従業員から企業に情報を提供する期限となる。

5.PITの確定申告が必要な場合
 政令126により、給与賃金等により収入を得ている居住者の年次確定申告について、納税額が50,000VND以下であれば、申告手続及び納税が免除される。2020年の課税年度以降、納税額が50,000VND以上の場合、申告手続及び納税が必要となる。

6.税務申告・修正申告の期限変更
 PIT申告・納税や修正申告の期限は以下の通り変更されている。
  1) PIT 申告・納税期限

PIT申告分類 現行の規定 旧規定
月次申告 翌月20日まで 翌月20日まで
四半期申告 各四半期終了後の翌月末まで 各四半期終了後30日以内
会社の確定申告 歴年終了後から3か月目の月末まで 歴年終了後90日以内
個人として税務局に年次確定申告を行う場合 歴年終了後から4か月目の月末まで 歴年終了後90日以内

  2) 修正申告の期限
 通達156によれば、修正申告の期限は規定されなかったが、税務局が納税者の事務所で税務調査実施レターを発表する前に税務局へ提出する必要がある。税務管理法38では、修正申告の期限は本来の期限より10年以内に限定された。

7.PITの基礎控除・扶養控除の引き上げ
 改正前の通達Circular111/2013/TT-BTC 号では基礎控除・扶養控除は次の通りであった。
  ・基礎控除:9,000,000VND/月
  ・扶養控除:3,600,000VND/月/扶養者一人当たり

 税務管理法38より基礎控除・扶養控除は次の通り引き上げられる。
  ・基礎控除:11,000,000VND/月
  ・扶養控除:4,400,000VND/月/扶養者一人当たり

 本改正は2020年7月1日より発効するが、2020年により適用されたため、2020年1~6月には月次または四半期申告個人所得税の納付を行った場合は、 2020 年度の確定申告時に調整できた。

おわりに
 以上は個人所得税の申告・納税方法等に関する重要な改正のサマリーである。当改正は、個人のみならず企業にも有利な改正となるため、今後の税務申告の際にはぜひ留意いただきたい。

参考文献
1:Circular105/2020/TT-BTC, Chapter II, Section 2, Article 10
2:Decree126/2020/ND-CP, Article6, item2
3:Law No.38/2019/QH14, Article44
4:Circular156/2013/TT-BTC, Article10

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