Reportレポート

ベトナム現地法人の会社清算手続きと留意点について

2021/08/19

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 計画投資局のデータによると、2021年の年初5か月間で清算手続中の会社は19,979社、清算を完了した会社は8,023社ある。清算手続きは複雑で時間もかかるため、本稿では全体的な手続きの概要及び労務に関する主な留意点を案内する。

1.清算手続きの概要
 2020年企業法第208条と政令01/2021/NĐ-CP第70条により、一般的な清算手続きは以下の手順で行う。

 上記の清算手続きにかかる時間は会社の活動期間等によるが、通常は1.5~2年間程度である。特に、ステップ5の税務調査は税務局のスケジュール次第なため、実施までに時間がかかる可能性がある。
 上記手続きの主な留意点を以下で説明する。

〈ステップ1:投資家が清算決定書を発行する〉
・現地法人の支店、駐在員事務所、経営拠点がある場合は清算の前にそれらの組織の閉鎖手続きを完了する必要がある。この手続きを行っていないと、それを理由に清算手続きが進まないこともあるのでご留意いただきたい。
・ステップ3の通知提出は清算決定発行日から7営業日以内に行わなければならないため、清算決定書の発行日はステップ3の予定日を勘案して決定いただきたい。

〈ステップ3:計画投資局の経営登録部へ第1回清算通知を提出する〉
・通知提出後、国家企業登録ポータル上の企業の状況が「清算中」に変更され、その180日後には「清算済」に変更される。
・そのため仮にステップ3まで行い、その後清算手続きを中止した場合は、その旨経営登録部に書面で通知しなければ180日後には「清算済」に変更されるため、ご留意いただきたい。

2.労務上必要な手続き、留意点
 労務上の必要手続きは主にステップ4で行われるが、詳細の手続きや留意点について以下で説明する。

➀労働契約の解約
 2019年労働法第34条第7項により、会社が清算する場合、労働契約書は自動的に解約される。そのため、有期限労働契約か無期限労働契約かに関わらず、清算決定書に記載される清算日から労働契約書が無効となる。会社は清算決定発行日から7営業日以内に労働者に通知する。
 なお、業務量や労働者の就職予定等を勘案して、清算日の前に労働者と同意の上で労働契約書を解約する場合も考えられる。この場合は労働法の規定に基づく事前通知が不要であるが、実務上、一方的な解約の規定と同様に下記のスケジュールで通知する会社が多い。
  ・無期限労働契約の場合:45日前までに通知する
  ・12~36か月の有期限労働契約の場合:30日前までに通知する
  ・12か月未満の有期限労働契約の場合:3日前までに通知する

➁労働者の権利の精算
 会社は下記のような労働者の権利を精算する必要がある。
  ・給与、賞与、手当(ある場合)
  ・未消化の有給休暇の買取
  ・退職手当(ある場合)
 退職手当について、会社が12か月以上の間常時自らのために勤務した労働者に対し、勤務期間1年につき半月分の賃金に相当する退職手当を支払う責任を負う。
 退職手当を算出するための勤務期間は、労働者が使用者のために実際に勤務した期間の合計である。当該勤務期間の計算に含まれるもの、含まれないもののうち代表的なものは下記のとおりである。

 〈退職手当を算出するための勤務期間に含まれるもの〉
  ・試用期間、病気、産休等の期間
 〈退職手当を算出するための勤務期間に含まれないもの〉
  ・失業保険に加入していた期間、使用者から退職手当、失業手当の支払いを受けた勤務期間

➂社会保険の労働の減少通知および社会保険手帳閉鎖手続き
 月の初めから社会保険を解約する場合はその月に労働の減少通知を実施する。また、労働契約はその月の半ばに解約するが、14日以上の休暇がある場合もその月の社会保険の加入対象外である。
 会社は労働契約の解約日から30営業日以内に社会保険手帳の閉鎖手続きを実施して、労働者の各種書類を預かっている場合、労働者に返却しなければならない。

➃所得税控除の証憑返却
 会社は個人所得税の源泉徴収額を確認する義務がある。
 労働者の要求がある場合、会社は個人所得税の源泉徴収票を労働者に引き渡す義務がある。証憑には所得、勤務期間に源泉徴収された個人所得税額が記載され、目的は労働者が年度末確定申告の際に当証憑を使うためである。

おわりに
 会社清算の際には多くの手続きがある。また当局の見解により手続きが異なる可能性もあるため、事前に管轄当局に手続きを確認しておくことをお勧めする。また、労務上必要な手続きも多いため、抜け漏れがないようご注意いただきたい。

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