Reportレポート

出向者の給与等を損金算入するための留意点

2021/10/21

  • Vo Thi Nguyen Linh

はじめに
 現地法人設立や事業拡大もしくは人事異動の一環で、ベトナムに従業員や役員を出向させる際、現地法人が出向者の給与等の一部を負担するケースが多い。しかし、現地法人の書類準備不足などにより、当該給与等について、税務局が法人税上の損金算入を認めない事例がある。本稿では、当該給与等を損金算入するための留意点を述べる。

1.費用全般の損金算入条件
 ベトナム法人税法上、費用の損金算入条件は厳格に定められており、損金不算入となる費用が多くなってしまう傾向がある。通達Circular 96/2015/TT-BTC号(以下「通達96」)によれば、費用全般の損金算入条件は以下のとおり規定されている。
▼会社の事業活動に関係がある費用であること
▼レッドインボイスなどの適切な証憑を提出できること
▼付加価値税(VAT)込みで2,000万ドン(約10万円)以上の支払いは非現金決済(銀行送金やクレジットカード払い)とされていること

2.給与・賞与・手当等の損金算入条件
2.1 実際の支払い及び労働契約等との整合性に関する条件
 通達96では、以下のいずれかに該当する給与・賞与・手当等(以下、「給与等」)は損金不算入となることが規定されている。
▼実際の支払いが無いか、または法律が要求する証憑が無い
▼労働契約、労働合意書、または財務規定等に明記されていない
実務上、本社から出向した駐在員の給与等について、労働契約書が無いことを理由に損金不算入とされた事例があるため、留意されたい。

 以下の項目についても、ベトナム現地法人が負担し、出向者に対する給与等として支給する場合には、労働契約書に記載する必要がある。
・出向者の子女がベトナムで幼稚園から高等学校までの学校に通うための授業料
・出向者の家賃
・出向者のベトナムでの個人所得税(以下「PIT」)及び社会保険料(個人負担分)

 その他手当等は労働契約、労働合意書、財務規定のいずれかに支払条件・金額を明記する必要がある。

2.2 労働許可証の取得に関する条件
 ハノイ市税務局が発行した2019年2月15日付Official Letter 6351/CT-TTHTによれば、労働許可証を取得していない外国人に対する給与等は、会社の事業活動に関係がある費用とは言えないとされ、損金不算入になる。実務上、労働許可証の取得はベトナムに赴任してから数カ月後となることが多いため、労働許可証取得までの期間の給与等は自ら損金不算入として対応している会社も多い。

3.出向者給与等の支払方法に関する留意点
 実務上、出向者の給与等を支払うには以下2つの方法がある。
(1)ベトナム現地法人が出向者の給与等を負担し、出向者の現地銀行口座に給与等を直接支払う
(2)ベトナム現地法人が出向者の給与等を負担するが、日本親会社が出向者の給与等を立替払いし、後日立替金額をベトナム現地法人に請求する。

 上記(1)の方法は、ベトナムで勤務する出向者の給与等をベトナム現地法人が負担・支払いするため、一番シンプルであり、採用している企業が多い。
 一方、(2)を採用している企業もあるが、この場合、ベトナムから日本への海外送金が、出向者給与等の立替金を精算するものであると証明できず、税務調査の際に損金算入を否認されるリスクがある。さらに、外国契約者税(※1)の対象となるとの指摘を受け、送金額に対して課税される可能性がある。
 このため、まずは当該出向者給与等の支給条件や、ベトナム現地法人が負担する旨を明記した現地法人と出向者の労働契約書を結ぶ必要があることと共に、当該取引は単なる立替で、日本親会社が商品やサービスの提供から収入を生み出していないことを証明するために、日本親会社とベトナム現地法人間の立替合意書を締結することをお勧めする(※2)。

 なお、給与・PITの負担者(日本親会社かベトナム現地法人のどちらが負担するか)や、支払送金の方法により、法人税上の取り扱いが異なってくる。以下では日系企業からの出向でよく発生するケースを紹介し、取り扱い及び給与等を損金算入するための留意点をまとめる。

(1) ベトナム現地法人で給与等及びPITを負担するケース
・ベトナム現地法人と出向者間の労働契約書が必要(PITも現地法人で負担することを明記)
・出向者が労働許可証を取得する対象になる場合、労働許可証が必要(※3)
・給与等を日本親会社が立替払いする場合は、ベトナム現地法人との立替合意書が必要

 このケースでは、ベトナムで勤務する出向者の給与等をベトナム現地法人が負担・支払いするため、いちばんシンプルであり、現地法人の法人税上の損金算入リスクがない。

(2) ベトナム現地法人で給与等を負担して、PITは日本親会社が負担するケース
・ベトナム現地法人と出向者間の労働契約書が必要(PITは日本親会社が負担することを明記)
・出向者が労働許可証を取得する対象になる場合、労働許可証が必要
・日本親会社が給与等を、ベトナム現地法人がPITをそれぞれ立替払いするケースも考えられる(PITはベトナム現地法人から税務局に納付する方が支払い手続きが簡単なため)。この場合、2社間の立替金額を相殺して残額を海外送金することも実務上可能であるが、別途相殺合意書を作成・締結する必要がある
このケースでは、法人税上、ベトナム現地法人の損金算入のリスクがない(※4)。

(3) 日本側で給与等を負担して、PITはベトナム現地法人が負担するケース
・ベトナム現地法人と出向者間の労働契約書が必要(日本側で給与等を負担して、PITは現地法人で負担することを明記)
・出向者が労働許可証を取得する対象になる場合、労働許可証が必要
・PITを日本親会社が立替払いする場合は、ベトナム現地法人との立替合意書が必要
・PITをベトナム現地法人負担とするが、これは日本側で負担する給与のPITであるため、ベトナムの法人税上、現地法人の損金として認められないリスクがある。

おわりに
 出向者の給与等が損金算入できるかどうか、また損金算入要件は、出向の形態と給与等負担者のパターンによって取り扱いが異なるため、注意が必要である。さらに、税法上の規定だけでなく労働法上の要求事項を満たしていない場合、現地法人の事業との関連性を否定され、給与等の損金算入を否認される場合があるため、注意しなければならない。本稿を出向計画の参考にしていただけたら幸いである。

注釈
※1)ベトナム国外の個人・組織(以下、「外国契約者」)がベトナム国内の個人・組織(以下、「ベトナム法人等」)にベトナム国内でサービスを提供した際に課される税金であり、俗に海外送金税とも呼ばれる
※2)税務総局が発行した2020年12月16日付Official Letter 5333/TCT-CSにおいても、給与等の立替精算のための海外送金は外国契約者税の対象とならないこととされている
※3)出向の形態・スキームによっては、労働許可証が不要となるケースがあるが、詳細は割愛する
※4)日本親会社において、ベトナムの給与に起因するPITが日本の法人税上、損金として認められない可能性はあるため、必要に応じて日本側の顧問税理士等にも相談いただきたい

参考文献
2020年12月16日付 Official Letter 5333/TCT-CS
2019年2月15日付 Official Letter 6351/CT-TTHT
2015年6月22日付 Circular 96/2015/TT-BTC
2014年8月6日付 Circular 103/2014/TT-BTC

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