Reportレポート

ベトナムにおける Covid-19 のワクチン未接種者の雇用問題~会社はどこまで対応できるのか~

2021/11/04

  • 日本国税理士
  • 福本 直樹

はじめに
 コロナ優等生と言われていたベトナムであったが、南部を中心に2021年6月より厳しい社会隔離を継続したもの、「ゼロコロナ」から「ウィズコロナ」へと舵取りをして、2021年9月より徐々に規制が緩和されている。ワクチン接種は「ウィズコロナ」の1つの重要な要件となっている。
 Our World in Dataによるとベトナム全国で人口比のワクチン接種率は9月1日付で1回接種18.1%、2回接種3%であったのが、10月1日付では1回接種34.4%、2回接種10.4%となっており、NNAの10月19日付記事によればホーチミン市内の18歳以上の1回接種は98%で接種のスピードも非常に早い。そのため規制緩和後も、接種のスピードに対応が追い付かずに、ワクチン接種に関連した問題が起きている。例えば、接種率の低い地方に帰省していた者がワクチン未接種の状況のため、人口が多く働き口の多い地域への移動が課題となっていることや、工場やオフィスビルで勤務するにあたり、入場するためにワクチンの2回接種や1回目接種から14日以上経過していることが求められるケースもある。こちらは生活面においても、同様の条件をショッピングモールなどの入店時に求めているケースもある。
 こういった厳しい要件があるため、様々な国からワクチンを確保し、早いスピードで接種率を上げている一方で、健康上の理由で接種できないケース、居住地域や職域接種でワクチンの種類を選べないことから接種を拒むケースなど、ワクチン接種をしていない、できない人もいる。
 そういった場合、出社ができない、お客様先に行けないといった従業員の問題が企業に対して生じている。2021年10月現在、法令でワクチン接種に関して明確にはされていないものの、現在の各種法律の解釈から以下、その取扱いについて説明する。

1.法的解釈
 いきなりではあるが、結論は、会社としてワクチン未接種を理由に解雇することはできないし、会社の指導で従業員に強制的にワクチンを接種させることもできない。仮にその者の業務にワクチン未接種であることが支障をきたすとしても、雇用契約の解除、一時停止のためには、労働者本人の同意を得る必要がある。

 これらの根拠として、以下が挙げられる。

(1) 現在のベトナムの各法律で、Covid-19のワクチン接種を義務付けてはいないため、(あくまで接種していない人は●●ができない、としているだけで接種しなければならない、とはしていない)接種しないことは個人の自由とみなされる。

(2) 労働法の考えに基づき、予防接種を強制することは従業員の権利を制限することになり、違法とみなされる可能性がある。

(3) 予防接種を受けない理由が、アレルギーなどの身体的な問題の場合は、労働者は自身の健康状態を告知する義務は負っているが、それにより会社が解雇することは認められていない。地域の接種機会がない場合、望むワクチン種が接種できない場合など、自身の健康状態とは別の理由の場合、ワクチン未接種を理由に解雇、待遇を変更させることは、労働法第8条1項の労働分野における厳禁行為の「労働における差別」に該当するとみなされ、こちらも認められない。

(4) 上記より、従業員の過失として認められないことに加え、処分を行うためには、労働法第122条第1項(a)にあるとおり、労働者の故意・過失を立証する必要があり、就業規則等にもその旨の記載が必要となる。この就業規則が管轄期間に認められる必要もあるため、相当ハードルは高い。

2.例外的な事例
 一方で北部のBac Giang省は「企業はワクチン接種規定を厳守しない労働者を使用してはいけない」という指示が出ており、就業規則に規定してあれば、解雇可能、規定前であれば当該指示に基づき、雇用契約の一時停止が合意できるとされている。

おわりに
 規制は緩和されつつも、ワクチンを接種していないことで、出社できない、本来の業務ができないということが起こりうる。また、縮小しているものの、引き続き感染者が出るとその建物もしくはフロア、会社は封鎖されてしまう状況は続いている。
 日本に比べて、ベトナムではワクチンを打たなければ、仕事、生活に支障が出る要因は多いが、一定数のワクチンを打てない、打たない人がいるのは当然であり、それを企業が強制することはできない。もし未接種の人を雇えない、退職してもらいたいとなると、ベトナムの多くの地域において、本人に合意してもらう、もしくは有期契約であれば期限満了をもって契約終了とする、といった対応にならざるを得ない。
 法が整備されるか、特効薬などが開発され本件が不要な問題となるか、できれば後者になることを祈りたいばかりである。

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