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新型コロナウイルス感染症拡大の影響下における人事措置適用に関する労働法の規定と留意点について

2021/11/18

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 新型コロナウイルス感染症の社会的影響が深刻化したことにより、ハノイ市、ホーチミン市をはじめベトナムの多くの都市が重大な影響を受け、また多数の企業が事業活動の一時停止や人事制度の再構築、人件費削減などの対応をおこなわざるを得ない状況となっている。そのようななかで、比較的適用しやすい人事措置として、労働者を休業させること、労働契約の履行の一時停止、そして無給休暇を取得させることが挙げられる。
 本稿では、この3種類の人事措置に関する労働法上の規定と、新型コロナウイルス感染症が拡大している時期において実際にこれらの人事措置を適用する際の留意点について説明する。

1.労働者を休業させる場合
 労働法上では「休業」について明確に定義はされていないが、労働者・企業のいずれかの故意・過失または災害などの客観的な原因により、一定期間にわたって労働者が勤務することができず、あるいは企業が労働者を業務に従事させることができない状態と解される。労働法の規定によると、休業中の賃金の取扱いは休業の原因によって以下のとおり異なる。

① 企業の故意・過失による場合、労働者は労働契約書に定められた賃金全額を支給される。
② 労働者の故意・過失による場合、 過失を引き起こした労働者本人は賃金を支給されない。同事業所の他の労働者も休業することとなった場合は、企業と労働者との間で合意された賃金額が支給される。ただし地域最低賃金額を下回ってはならない。
③ 企業の過失によらない電気・水に関する事故、天災、火災、 危険な疫病、戦災、管轄官庁の要請に基づく事業拠点の移動、または経済的な理由による場合、両当事者は休業中の賃金に関して以下のとおりに合意する。
a) 14営業日以下の休業の場合、当事者間が合意した給与金額が支給される。ただし、地域最低賃金額を下回ってはならない。
b) 14営業日を超える休業の場合、当事者間が合意した給与金額が支給される。ただし、最初の14営業日間については地域最低賃金額を下回ってはならない。

 上記③の「危険な疫病」が原因とされる場合とは、以下のケースを含む。
i. 労働者が、管轄官庁の要請に従って医療隔離が適用される場合
ii. 管轄官庁の要請に従って所属する職場または居住地が封鎖された場合
iii. 管轄官庁の要請に従って、企業の全体または一部門が疫病予防のために事業活動を一時停止した場合
iv. 企業の所有者や同企業・同部門で勤務している他の労働者が医療隔離を適用され、または職場に復帰できないことに伴い、企業の全体もしくは一部門が事業活動を実施できなくなった場合

 労働傷病兵社会省が2021年8月に発行した指導2に基づき「3つの現場」体制を導入している製造企業において、労働者が「3つの現場」の宿泊体制に同意しない場合も、企業は上記3の企業の過失によらない場合として労働者を休業させ、労働者に休業中の賃金を支給する措置を適用できる。

 また、労働法の規定によると上記3の「経済的な理由」とは以下を指す。
i. 経済の恐慌または後退
ii. 経済の再編時における国家の政策・法令の施行または国際条約の施行

 上記③に記載された、客観的な原因による休業中の賃金支給についての規定は、現在の労働法で新たに設けられた規定である。企業が休業の規定に沿い、休業中の賃金について労働者と合意したときは、合意書を作成し両当事者が署名するほか、休業期間中に支給される賃金額に応じた社会保険・医療保険・失業保険の保険料を納付する必要がある。

2.労働契約の履行を一時停止する場合
 「労働契約の履行の一時停止」とは、法令に規定された理由または両当事者の合意により、労働契約の履行を一定期間停止することと解される。一時停止期間中は、両当事者とも勤務や賃金支給の義務を含む一切の義務・権利が発生しないものとされる。労働法によると、労働者が兵役義務等を履行する場合、留置・拘留される場合、再教育学校や強制リハビリテーション施設に入所する場合などが「労働契約の履行の一時停止」措置の対象となる。そのほか、勤務の継続が胎児に悪影響を与えるとの診断を受けた妊娠中の女性労働者もこの措置を適用できる。
 しかし、「危険な疫病」は、労働契約の履行の一時停止を適用できる理由に含まれていない。そのため、現在新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けている企業が労働契約の履行の一時停止を適用したい場合には、労働者の同意を得る必要がある。
 労働契約の履行の一時停止期間は、労働契約の履行期間に含まれない。つまり一時停止期間中は労働契約の期間が進行しない点に留意する必要がある。一時停止期間終了後に労働者が職場に復帰したときは、一時停止されていた期間が労働契約の残存期間に加算される。
 社会保険・健康保険・失業保険の納付義務については、社会保険法の規定に基づき対応する必要がある。労働者が14日以上勤務し賃金の支給をうけた月は、社会保険料を納付する必要があるが、勤務をおこない賃金の支給を受けた日数が13日以下の月は保険料を納付しなくてもよいとされる。

3.無給休暇を取得させる場合
 労働者は、親族の冠婚葬祭等のために無給休暇を取得できるが、そのほかにも、労働者が合意した場合、労働法の規定に基づき企業は労働者に無給休暇を取得させることができる。
 この場合の社会保険・医療保険・失業保険の納付義務については、前述の「労働契約の一時履行停止」の場合と同様に、勤務・賃金支給日数に応じて判断される。
 無給休暇を取得させる場合と、「労働契約の履行の一時停止」との相違点は、無給休暇の場合は、休暇期間中も労働契約の期間が進行することである。労働契約が有効な状態であるため、企業は賃金支給義務以外の労働契約に規定された労働者に対する義務を引き続き履行しなければならない。
 以上のとおり、労働者を休業させる場合、労働契約の履行を一時停止させる場合、および無給休暇を取得させる場合の労働法の規定と、新型コロナウイルス感染症の深刻化をうけてこれらの人事措置を適用する際の留意点について説明した。企業および労働者は、合意により実状に応じた適切な措置を選択することができる。現在、ベトナム政府は2020年5月12日付決議第68/NQ-CP号(以下「決議68号」)に基づき、企業・労働者向けの支援策を展開している。
 労働者を休業させる場合、労働契約の履行の一時停止を行う場合、無給休暇を取得させる場合にも、決議68号に規定されているその他の条件を満たせば労働者は公的支援を受けることができる。本稿で説明した人事措置を適用する企業は、決議68号の内容を理解し、労働者のために所在地の管轄官庁に対して支援適用を申請することが求められる。

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