Reportレポート

労働者がCOVID-19に感染した場合の会社の労務上の留意点

2022/04/16

  • Le Thi Van Anh

はじめに
 現在、ベトナム国内では新型コロナウイルスの深刻化により、感染者が急増しており、労働者が感染し出勤できない日系企業も多数出ている。一方で、労働者が感染した場合に、会社が労働者に対してどのような義務を持つか理解していない企業も多い。
 本稿では、労働者が感染した場合の労務上の留意点(隔離期間、支援額の付与等)についてまとめる。

1.自宅での隔離期間について
 無症状、又は症状が軽い感染者(F0)は自宅での隔離、治療が可能である。会社はF0の労働者を出勤させないように対応するが、自宅 での待機期間(隔離期間) について、 2022年1月28日の決定Decision 250/QD-BYTにより、7日目のCOVID-19の検査結果が陰性である 場合はその後出勤が可能となる。
 COVID-19の検査結果が陽性である場合は、ワクチンを2回以上接種済の者は継続して10日間、ワクチン接種を十分に行っていない者は14日間の自宅隔離が必要となる。当決定により、旧規定から、隔離期間が3日短縮された。また、専門の医療機関にて治療を受ける場合、退院後7日間は自宅で健康観察をする必要がある。
 感染者と接触した者(F1)に対しては、ワクチンを2回接種済の場合は自宅で5日間の隔離期間が適用され、ワクチンを十分に接種していない場合は7日間となる。感染者と接触した者とはF0の濃厚接触者に該当し、F0と2メートル以内の距離、又は密閉空間にいた者、F0の看病をする者が含まれる。以下の表にわかりやすくまとめた。

対象 適用される隔離日数
F0
7日目のCovid-19結果が陰性である場合 7日
Covid-19検査結果が陽性である場合 ワクチン2回以上摂取済みの者 10日
ワクチン接種が十分でない者 14日
専門の医療機関にて治療を受ける場合 退院後、7日間は自宅で健康観察をする必要がある
F1
ワクチンを2回摂取済みの者 5日
ワクチン接種が十分でない者 7日

 上記は現行の法規定であるが、実務上、F0をトラッキングすることが難しいため、通常COVID-19の症状が出た時点から、感染者が自身で隔離・治療することが一般的である。また、感染者が急増する中、どの会社も少なくとも1名以上のF0が出ているケースが多いため、全社員がF1と判断された場合に、全員を自宅隔離とすることは、会社の営業活動にも大きく影響する。そのため、実際、各企業がF0との接触度合を判断して、感染の可能性が高い社員のみ自宅隔離の措置をとることが一般的である。

 外国人労働者に対しても基本的に上記と同様の対応となるが、入国後の隔離期間について2021年12月16日より現行法令において、ワクチン2回接種済の者は3日間自宅での健康観察を実施し、ワクチン接種が十分でない者は7日間の自宅での隔離期間が適用される。

2.F0に対する会社の義務について
 F0が自宅隔離・治療の期間に在宅勤務が可能な職種の場合は、通常通りに給与、手当を支給する必要がある。F0が自宅隔離・治療の期間に在宅勤務が不可能な職種の場合は休暇扱いになる。その場合、会社としては有給休暇として扱うか、休業扱いとして賃金を労働者に支給することになる。
 有給休暇とする場合、勤続年数により変わるが、基本的に1年当たり、12日間の有給休暇を付与することが一般的である。

 休業として認められる条件は、労働者が勤務できず、また自宅で隔離することが必要な場合である。休業と認められる場合、上記の「1. 自宅での隔離期間について」の項目で述べた法令上求められる隔離期間に対して、会社から休業時の賃金を支給する義務がある。休業時の賃金は労働法第99条にて規定されているが、休業が14営業日以下の場合、休業時の賃金は労働者との合意によるが、最低賃金を下回らないと定められる。また、休業が14営業日を超える場合、休業時の賃金は労働者との合意によるが、最初の14日間については最低賃金を下回らないことを保証しなければならないとされる。最低賃金は地域により異なるが、ハノイ市のような中心部では1カ月当たりの最低賃金は4,420,000VNDとなる。

 上記以外に、社会保険による支援制度がある。有給休暇と休業時の賃金の支給を受けている労働者は、社会保険給付制度(直近の月給与の75%の金額)の 受給対象外とみなされるため、会社から賃金を受け取るか、もしくは社会保険制度による給付金を受け取るか、どちらを 選ぶか労働者の意思を確認することを勧めたい。社会保険制度を受ける場合、病院で治療を受ける者は、医師が発行する退院証明書、自宅で自己治療する者は、医療機関が発行する社会保険制度を受けるための休暇証明書を提示する必要がある。ただし、自宅療養者が増えていることから、休暇証明書の取得が難しくなっている。この点については、政府と管轄機関も状況を把握しており、今後、詳細な追加決定などが発行される見込みがある。

おわりに
 本稿において、労働者のCOVID-19感染時の対処法に関する、法規定及び実務上の事例をまとめて説明した。今後、COVID-19の感染状況の変化により、法令や規定も変わる可能性があるため、その際には改めて情報をアップデートさせていただく。

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