Reportレポート

本店に従属する事業所を他省・市に有する場合の納税額の配分について

2022/06/24

  • Nguyen Thi Hue

はじめに
 従来、ベトナムの個人所得税法において、本社に従属する事業所を他省・市に有する場合の納税額の配分についての規定は不明確であった。2021年9月29日付の財務省発行の通達No.80/2021/TT-BTCは、2022年1月1日より施行され、当通達において個人所得税(以下、PIT)の配分に関して規定が発表された。また、本社に従属する事業所を他省・市に有する場合の、付加価値税(以下、VAT)および法人税(以下、CIT)の配分についても、いくつか変更点が追加されている。
 本稿では、PIT、VAT、CITの3つの主な税金について、本社所在地外で営業活動を行う事業所を有する場合の納税額配分における変更点をまとめて説明する。

1.概念
 従属する事業所には、支店、駐在員事務所の他、納税者が生産活動および営業活動を行う拠点が含まれる。

2.一般原則
 ‐納税額の配分金額は、納税者の納税申告書に記載された納税額を超えてはならない。
 ‐税金が生じない場合、配分は不要。
 ‐納税者は、各省・市へ割り当てられた税金に基づき、書類を作成し納税を行う。

3.各税金の配分に関する概要
出所:各種資料を基に筆者作成

個人所得税(PIT) 付加価値税(VAT) 法人税(CIT)
主な対象 本社所在地で雇用契約書を締結しているが、本社とは異なる省・市にある事業所で一時的に働く従業員 -国家経済部門の制度および法令に基づく建設活動
-従属する事業所が生産拠点の場合(加工および組立施設を含む)、ただし政令No.126/2020/ND-Cの第11条第1cに指定されている場合を除く。
従属する事業所が生産施設の場合(加工および組立施設を含む)
配分方法 原則は雇用契約書締結先で源泉徴収される。ただし、従業員が他の省・市の事業所に異動、交代、または出向する場合、給与支給日に働いていた当該省・市へ全額配分される。 a.従属する事業所が建設活動の場合
地方へ配分する付加価値税額=地方の売上高(VAT抜)1%
b.従属する事業所が生産拠点の場合
(加工および組立施設を含む)

地方へ配分する付加価値税額―総売上高(VAT抜)×税率
※税率は以下の通り
→2%(付加価値税率10%の対象となる商品の場合
→1%(付加価値税率5%の対象となる商品の場合)
なお、生産拠点が所在する各地方に納付するVAT合計額が、本社所在地で納付するVAT合計額を上回る場合、納税者は以下の計算式を適用する。
生産拠点がある地方へ配分するVAT学=本社所在地の納付VAT額×地方の売上高(VAT抜)/総売上高(VAT抜)
-生産拠点がある各地方のCIT額=生産活動および営業活動によるCIT額×地方で発生した費用/総額費用
-各費用は風期間中に発生した費用が対象となり、総額費用はCIT優遇措置の対象となる活動に関連する費用を除く。
-生産活動および営業活動によるCIT額には、CIT優遇措置の対象となる活動に対するCITは含まれない。
申告方法 -申告期間:月次又は四半期毎に申告をする。確定申告での調整は不要。
-申告書類:フォームNo.05/KK-TNCNおよび地方税務局がPIT配分を管理するための付録フォーNo.05-01/PBT-KK-TNCN(通達No.80/2021/TT-BTC)
-提出先:本社の管轄税務当局
a.従属する事業所が建設活動の場合
-納税は建設請負業者が行う。
-申告期間:月次または発生時
建設工事が行われている地方へ納付したVATは、本社所在地で納付するVATと相殺される。
申告書類:通達No.80/2021/TT-BTCのフォームNo.05/GTGT
-提出先:建設工事を行う市・省の管轄税務当局
b.従属する事業所が生産拠点の場合
(加工および組立施設を含む)
-申告期間:月次または四半期毎
-申告書類:フォームNo.01/GTGTと地方税務局がVAT配分を管理するための付録フォーム01-6/GTGT(通達No.80/2021/TT-BTC)
-提出先:本社の管轄税務当局
-申告期間:四半期
-四半期毎の申告書の提出は不要であるが、生産拠点がある各地方のCITの仮納付にあたり税額の計算が必要となる。
-年度末:確定申告を行う
-申告書類:フォームNo.03/TNDNと李鵬税務局がCIT配分を管理するための付録フォーム03-8/TNDN(通達80/2021/TT-BTC)。
-提出先:本社の管轄税務当局

出所:各種資料を基に筆者作成

4.納税額の配分に関する留意点
4.1 個人所得税を配分する際の留意点
 当通達において、従業員が複数地域の事業所で勤務する場合のPIT配分に関する詳細なガイドラインはないため、企業はPITの各地方への配分にあたり、配分基準を独自に決定する必要がある。例えば、各事業所での従業員の労働時間や賃金、給与などを基準として定める。
 また、各申告期間で従業員の労働時間や賃金が異なる場合、企業は申告期間毎に基準を見直し、PIT配分額を算出する必要がある。そのため、本社所在地外の地域で勤務する従業員数が多い場合、配分額の計算や調整が煩雑になりやすく、地方への納税手続きを実行するにも時間を要することとなる。

4.2 罰則規定
 税務当局の検査・審査により、不当な配分または申告が判明した場合、管轄税務当局は配分額を再計算する。この場合、納税額全体(地方で支払う税額を含む)に対して延滞利息が発生する可能性がある。
 なお、延滞利息については、以下2通りの見方がある。
  +ケース 1:地方への配分額のうち、未払いの税額に対して、延滞利息が発生する。
  +ケース 2:実質的に、納税者は納税義務を完全に履行しているので、地方に対する過払税額の調整に関して、税務当局への要請文書を作成し、延滞利息は発生しない。
 罰則規定については、法令上明確に言及されておらず、各地域の税務当局により見解が異なるため、管轄税務当局への確認が必要となる。

おわりに
 本社所在地とは異なる市・省に従属する事業所を有する場合の納税額の配分は、各地方税務局の予算 調整を目的として行われている。納税額の配分は、納税者によって計算、申告および納税を行う必要があるが、上述の通り、現行法では不明確な点もあるため、対象となる企業においては、管轄の税務当局に確認しながら手続きを実施することを推奨する。

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