Reportレポート

労働者の訓練費用返済責任に関する留意点

2026/07/09

  • I-GLOCAL.CO.,LTD ハノイ事務所
  • Nguyen Thi Thu Hien

エグゼクティブサマリー

① 制度の概要 — 訓練費用返済責任は2019年労働法第62条の職業訓練契約における必須内容であり、労働者が訓練後の誓約期間を遵守しない場合に返済が問題となる。
② 返済責任が生じる場合 — ①労働者が違法に労働契約を一方的に終了した場合、または②合法的に終了したが職業訓練契約上の誓約に違反した場合に限り発生する(2025年職業教育法の発効で旧規定が削除され、責任の有無は契約の定めに委ねられる)。
③ 訓練内容の立証 — 使用者は職位に関連する技能向上・再訓練が実際に行われたことを資料等で証明する必要があり、単なる視察・見学は職業訓練と認められにくい。
④ 返済可能な費用 — 有効な証憑のある実際の訓練費用(講師費・教材・受講者の賃金や保険料・海外研修の渡航費等)に限られ、誓約違反の損害賠償金は請求が困難。
⑤ 企業への推奨 — 職業訓練契約に対象職業・場所・期間・誓約期間・返済条件を具体的に規定し、関連書類・証憑を十分に保管しておくべきである。

はじめに
人材開発の過程において、多くの企業は社内訓練プログラムを実施のうえ、費用を負担している。しかし、労働者が誓約した勤務誓約期間の満了前に労働契約を終了する場合、訓練費用の返済義務をめぐる紛争が生じやすい。したがって訓練費用に関する法的規律を正確に把握することは、企業にとって重要な実務課題である。

1. 職業訓練契約および訓練費用返済合意の概要

1-1 職業訓練契約

2019年労働法第62条1項、2項に基づくと、職業訓練契約とは使用者と労働者との間で締結される、労働者に対する国内外での技能レベル向上訓練、職業技能訓練、再訓練に関する合意をいい、使用者の資金(パートナーが使用者に提供する資金を含む)を財源とするものである。
労働法第62条に規定される「技能レベル・職業技能の向上研修」に関する「職業訓練契約」と、労働法第61条に規定される「職業学習」、「職業実習」とは区別されており、本稿では労働法第62条による職業訓練契約のみを対象とする。
労働法第62条2項は、職業訓練契約には以下の主要な内容が含まれなければならないと規定している。
(a) 訓練の対象となる職業
(b) 訓練の場所、期間および訓練期間中の賃金
(c) 訓練後の誓約期間
(d) 訓練費用および訓練費用返済責任
(e) 使用者の責任
(f) 労働者の責任

1-2 訓練費用返済合意

「訓練費用返済責任」は職業訓練契約における必須内容である。これにより、両当事者は労働者が訓練費用を返済すべき場合および返済額を職業訓練契約に定める。通常、使用者は労働者が訓練後の誓約期間を遵守しない場合、訓練費用の返済を求めることができる。

2.労働者の訓練費用返済責任

実際には、職業訓練契約が締結されていても、労働者は訓練費用の返済に容易に同意しない。紛争が発生した場合、使用者が返済を請求するためには、返済十分な法的根拠および証明書類を確保する必要がある。
具体的には、労働者が訓練費用返済責任を負うか否かの判断は以下の各要素による。

2-1 法的根拠

労働者の訓練費用返済責任は以下の場合に発生する可能性がある。

(1) 労働者が違法に労働契約を一方的に終了した場合
• 労働法第40条3項に基づき、労働者が違法に労働契約を一方的に終了した場合の義務の一つは、労働法第62条の規定に従い、使用者に訓練費用を返済することである。
• 労働法第62条は、両当事者が職業訓練契約を締結しなければならず、その中に訓練費用返済条項が含まれなければならないと規定している(第1項で前述のとおり)。
したがって、労働者が違法に労働契約を一方的に終了し、両当事者間に有効な職業訓練契約が締結されている場合、労働者は使用者に訓練費用を返済する責任を負う。

(2) 労働者が合法的に労働契約を一方的に終了したが、職業訓練契約による誓約に違反した場合
・法律は、合法的に労働契約を一方的に終了した場合の労働者の義務を規定していない。
・労働法第62条2項に基づき、訓練費用返済責任は職業訓練契約の主要な内容の一つである。
・以前は、2014年職業教育法第61条に基づき、労働者は訓練コース修了後、職業訓練契約における誓約に従い使用者のために就労しなければならず、誓約を履行しない場合は訓練費用を返済しなければならなかった。しかし、2025年職業教育法(2026年1月1日発効、2014年職業教育法に代わる)はこの規定を削除した。

したがって、労働者の訓練費用返済責任の内容は両当事者が合意し、職業訓練契約に定めるものと解される。この場合、労働者が訓練費用返済責任を負うか否かの判断は職業訓練契約に基づいて行われる。

2-2 訓練内容

訓練費用返済責任の有無を判断するにあたり、まず使用者は、職業訓練が実際に実施されたことを証明しなければならない。職業訓練の内容は、労働者の技能レベル・職業技能の向上または再訓練を目的としたものでなければならない。
現在、ベトナムの法律には「技能レベル・職業技能の向上訓練」または「再訓練」とは何かに関する具体的な規定はない。しかし、使用者は、当該労働者の職位に直接関連する訓練内容・資料によってこれを証明することができる。例えば、人事管理部門で働く労働者が使用者から社会保険、給与、採用技能等に関する訓練コースを受講した場合などである。この場合、労働者が技能レベル・職業技能の向上訓練を受けたと判断できる。
一方、研修活動が単なる視察・見学にとどまり、具体的なスケジュール、プログラム、資料等がない場合、使用者がそれを「技能レベル・職業技能の向上研修」と証明することは困難となる。特に紛争が発生した場合、紛争解決機関において職業訓練として認定されない可能性が高い。

2-3 返済可能な訓練費用

労働法第62条3項に基づき、訓練費用は有効な証憑を有する支出と定義されており、具体的には以下が含まれる。
・講師への支払、学習資料、学校・教室、機械・設備、実習材料の費用
・その他の訓練受講者支援費用および訓練期間中の訓練受講者の賃金、社会保険料、健康保険料、失業保険料
・訓練期間中の移動費、生活費(労働者が海外で訓練を受ける場合)

したがって、使用者は、訓練に関連し有効な証憑がある費用に限り、返済請求することができる。なお、使用者が職業訓練契約において、実際の訓練費用に加えて勤務を誓約する期間違反による損害賠償金の支払いを求める場合、使用者はこれを認める具体的な法的根拠がないため、当該損害賠償金を請求できない可能性が高い。

3.企業への留意事項および推奨事項

3-1 職業訓練契約について

労働者の訓練費用返済責任の判断に関連する条項は、少なくとも以下の事項を具体的に規定すべきであり、以下を含む。
・訓練する職業に関する条項: 労働契約上の労働者の職位と適合している必要がある。
・訓練の場所及び期間に関する条項: 有効な訓練費用の判断および証明を容易にするため、具体的に記載すべきである。契約が訓練プログラムを参照する場合、企業は訓練プログラムにこれらの情報が具体的に記載されていることを確保し、また、関連書類を十分に保管する。
・訓練後の誓約期間に関する条項: 労働者が誓約しなければならない期間を明記し、その期間の起算日を具体的に定める必要がある。また、誓約期間は訓練プログラムの期間および専門性の程度に適合している必要がある。
・訓練費用返済に関する条項: いかなる場合に労働者が訓練費用を返済しなければならないかを明確に規定する。

3-2 職業訓練内容について

企業は労働者の実際の業務に適合した訓練内容を選択するよう留意し、また、訓練コースまたは訓練プログラムに関連するすべての資料を保管して、訓練内容、場所および期間を証明することができる状態を維持すべきである。

3-3 訓練費用について

企業は、訓練コースに関連し労働者の訓練支援を目的とする費用について、会計法令に従った有効な請求書・証憑を整備しておく必要がある。いずれの費用が訓練費用に該当するかを判断する際は、企業は訓練の内容・場所・期間と照らし合わせて確認すべきである。

おわりに
労働者の訓練費用返済責任は、両当事者が有効な職業訓練契約を締結しており、労働者が違法に労働契約を一方的に終了した場合、または合法的に労働契約を一方的に終了したが職業訓練契約に記載された誓約に違反した場合に限り発生する。また、訓練内容は職位と適合していなければならず、労働者は有効な証憑がある実際の訓練費用のみを返済する責任を負う。したがって、自らの権利を保護するため、企業は職業訓練契約を厳格に規定し、紛争発生時に備えて関連書類・証憑を十分に保管するよう留意する必要がある。

参考文献
・2019年11月20日付けの労働法第45/2019/QH14号
・2025年12月10日付けの職業教育法第124/2025/QH15号
・2014年11月27日付けの職業教育法第74/2014/QH13号
・2020年12月14日付けの労働法の労働条件および労働関係に関する一部条項を詳細に規定し実施を指導する政令第145/2020/ND-CP号。


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