業種別ベトナムM&Aの特徴・留意点 第7回~物流業~
2026/03/02
- I-GLOCAL CO., LTD. ハノイ事務所
- 日本国公認会計士
- 近藤秀哉
はじめに
本稿ではシリーズ第7回目として物流業M&Aの留意点を解説する。
ベトナムの物流業界はEC市場の拡大、インフラ整備の進展、製造業のベトナムシフトを背景に大きく成長しており、日本企業による現地物流会社の買収ニーズも高まりを見せている。
本稿ではベトナム物流業界の概況を紹介したうえで、買収手続きおよびデューデリジェンスの際に留意すべきポイントを整理する。
1. ベトナム物流業の分析
市場規模と成長性
ベトナムの物流市場は直近で約400~420億米ドルと推計されている。年平均成長率は6.2%程度であり、今後も堅調な成長が続くと予測されている。背景には、GDP成長率6〜7%前後の経済発展に加え、製造業の輸出拠点化、消費市場の拡大、EC市場の急拡大(特にラストマイル配送)がある。
業界構造と主なプレーヤー
中小のローカル企業が多数存在する一方で、グローバル大手(DHL、FedEx、Maersk、DB Schenkerなど)も進出している。日系企業も大手中心に進出済みであり一定のプレゼンスを確保している。
外資企業の進出状況
都市部や国際物流・通関業務では外資系のシェアが高まっており、地方やラストマイル配送はローカル企業が中心となっている。これは、ベトナムにおける規制環境およびコスト競争力、文化・言語の理解度に起因している。
2. 対象会社の事業・将来性に関する留意事項
買収検討時に留意すべき基本的な項目を以下に紹介する。
・顧客基盤と取引集中度
物流会社の事業安定性を評価するうえで、主要顧客の業種・規模・取引年数などの属性把握が不可欠である。特定の大口顧客に依存している場合は、その契約内容(期間・解約条項等)や今後の契約継続性を精査する必要がある。
・サービス内容の差別化要素
物流業界は価格競争が激しい一方で、配送の正確性・スピード・IT化対応・倉庫管理の効率性などにより差別化が可能である。対象会社が提供するサービスに、こうした差別化要素があるかを確認する必要がある。
・DX対応・IT基盤の整備状況
ベトナムのローカル物流企業では、在庫管理や配送管理の多くが手作業・Excelベースで運用されているケースが多い。ITインフラの整備状況と、将来的なデジタル化投資の必要性についても初期段階から見極めておくことが望ましい。
・規模拡張・エリア展開の余地
既存倉庫の稼働率や立地、保有車両の稼働状況などを踏まえ、今後の事業拡大余地があるかを評価することが重要である。たとえば、特定地域に集中している場合、他地域展開によって新規荷主の獲得やサービス網の拡充が見込めるかなど、経営資源の柔軟性や拠点展開戦略の妥当性を検証することで、成長戦略との整合性が測れる。
3. ストラクチャリングに関する留意事項
外資規制
ベトナムの物流業は「条件付きビジネス分野(Conditional Business Lines)」に分類されており、外国投資家が参入するには業種ごとに異なる制限・要件が課されている。
以下は主な物流関連業種における外資規制の概要である。
・海上貨物輸送
・外資出資比率は最大49%までに制限されており、現地パートナーとの合弁とすることが条件となる
・船員の2/3以上はベトナム人、また船長はベトナム人である必要がある
・道路貨物輸送(トラック運送)
・外資出資比率は最大51%までに制限されており、現地パートナーとの合弁とすることが条件となる
・ドライバーはベトナム人である必要がある
・道路貨物輸送(鉄道輸送)
・外資出資比率は最大49%までに制限されている
・航空輸送
・外資出資比率は最大34%までに制限されている
・筆頭株主はベトナム人またはベトナム企業である必要がある
・倉庫業・保管サービス
・外資100%による出資が可能
・土地使用権の取得・倉庫建設許認可の行政手続が必要になる場合がある。土地使用権の所有は外国企業には認められていないため、現地パートナーとの合弁形式を取り、当該規制を回避するケースも多い。
・通関代行業務
・現地パートナーとの合弁とすることが条件となる。なお外資比率制限ルールは特にないため、例えば99%を外国企業が取ることも可能である。
名義株主について
外資規制をクリアするため、ローカル個人の名義で登記し実質的には外資がコントロールするスキーム(ノミニースキーム)が採用されることがある。しかしこうしたスキームは法令上グレーであり、後に重大な法的・税務リスクに繋がる可能性があるため推奨しない。
4. デューデリジェンス(DD)における主要なイシュー
物流業のDDでは、以下のような特有の論点が考えられる。
請求管理や在庫管理体制の状況
特に運送業をはじめ、物流業は事業特性上、取引数が非常に多く、荷主からの預かり在庫の管理や、取引項目ごとの外注費・支払管理が正確にできていない会社も多い。在庫管理、支払管理プロセス等の内部統制が構築・運用されているかの確認も必要となる。
法令順守の状況
ベトナム労働法では年間法定労働時間は200時間(製造業等の一部業種は300時間まで延長可能)と規定されており、これを超える残業は違法である。この規定は物流業にも例外なく適用されるが、特にトラックのドライバーは、夜間運航や長距離運航により労働時間がどうしても長くなりがちであり、労働法に抵触するリスクが高い。また荷物の過積載によるベトナム道路交通法の抵触事例も少なくなく、対象会社が過去このような違反を犯していないか、また普段から法令抵触リスクの高い運営を行っていないかの確認も必要となる。
車両や倉庫等の資産保有・リース状況
物流会社は多くの場合、自社のトラック・フォークリフト等を保有するか、もしくは外部業者からのリースに依存している。DDでは以下の観点を確認することが重要である。
・所有資産の名義(対象会社名義か、オーナー個人名義か)
・リース契約書の有無と条項(中途解約ペナルティ、譲渡可否など)
特に土地使用権を伴う倉庫については、名義・契約期間・行政上の制約(用途地域等)を慎重に確認すべきである。
運送業に特有の下請構造と商習慣
ベトナムでは、物流業務の一部(特にラストマイル配送や地方への陸運)は、多層構造の下請けネットワークを通じて行われている。対象会社が一次請けであっても、実際の輸送を三次・四次の業者に再委託している場合が多く、当該下請先との契約書が存在しない、または口頭契約であることも多い。DDでは下記を重点的に確認する必要がある。
・主な下請け業者との取引の恒常性と契約書の整備状況
・輸送事故・遅配などに関する責任分担
・実態のない外注費の計上(本当は下請け先が存在しないにも関わらず、法人税を減額する目的で架空の外注費を計上するリスク)
通関業務に関連するリスク
フォワーダーや通関代行業務を行う会社においては、税関対応や書類不備による罰金・差止めリスクが存在する。特に、第三者名義での通関や、輸出入申告内容と実態が乖離しているケースでは、過去に遡った追徴や罰則が課される可能性もある。これらのリスクの兆候がないか、過去の税関調査履歴や未解決のペナルティ通知の有無を確認することが重要である。また実務上の便宜を図るため、税関当局に不透明な支払いを行っているケースも散見され、こうしたイシューは買収後にレピュテーションリスクとして顕在化する可能性があるため留意が必要である。
おわりに
以上、ベトナム物流業のM&Aにおける留意事項等の解説を行った。ベトナムの物流業界は今後も成長が期待される分野であり、日本企業にとって魅力的な投資先の一つである。一方で、外資規制や業界特有の商習慣、法制度の違いなど、慎重な対応が求められる論点も多い。
本稿では、買収時の手続きやデューデリジェンスの留意点、初期段階での事業評価の視点を整理した。特に物流業特有の実態把握には、現地の事情に通じた知見が不可欠である。本レポートが、ベトナム物流企業の買収を検討する日本企業の参考になれば幸いである。
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