Reportレポート

労働者の試用期間についての留意点

2022/08/31

  • Vo Thi Thu Ha

はじめに
 労働者を正式に採用する前に、雇用者は通常、一定期間労働者の「試用」を実施して、専門知識・能力を確認及び評価する。したがって、「試用」は雇用者が労働者を採用するにあたり重要となるプロセスの 1 つである。本レポートを通じて、雇用者が労働者を「試用」する際に注意すべきベトナム法規定をいくつか紹介・分析する。

1.試用の合意
 雇用者は、別に試用契約を締結するか、または試用内容を労働契約に記載し、労働者と合意する必要がある。
 「試用」の契約には主に以下の内容が含まれる。
  i. 試用期間
  ii. 雇用者の名前と住所、労働者の氏名と役職
  iii. 労働者の氏名、生年月日、性別、住所、本人証明書の番号またはパスポート
  iv. 仕事の内容と場所
  v. 仕事または役職に応じた給与、給与の支払い方法・期限、給与手当及び他の追加手当 vi. 労働時間、休憩時間
  vii. 労働者の労働保護装置

2.試用期間
 試用期間は仕事の内容によって以下の通り制限される。

番号 仕事の内容 試用期間
1 企業法と、企業の生産と事業に投資された投資家の資本の管理と使用に 関する法律に定められる、企業の管理者としての仕事
(社員総会の会長・社員、取締役社長、取締役会の会長・役員、社長また は会社定款に規定される他の管理職)
180日を超えない
2 高等専門以上の資格とスキルが必要とされる仕事 60日を超えない
3 専門の資格とスキルが必要とされる仕事、技術者、専門スタッフ(専門学校の水準以下) 30日を超えない
4 上記1~3に該当しないその他の仕事 6営業日を超えない

 企業管理者の試用期間の上限は、他の仕事と比較しても長くなっている。企業管理者は一般的に他の仕事と比較して責任が重く、複雑さのレベルも高いため、試用期間の上限が長くなっていることは合理的であると考えられる。

3.労働者の試用期間中の給与
 試用期間中の給与は、雇用者と労働者双方の合意を得た上で、少なくとも正規雇用時の給与の 85%以上に設定しなければならない。さらに、法令違反および労働者との紛争を防ぐために、雇用者は、試用期間中と正規雇用時の給与を比較した割合を記録する必要がある。

番号 義務 試用契約を締結した場合 労働契約に試用内容を記録した場合
1 社会保険、健康保険、失業保険(「SHUI」)の加入・納付 試用期間中は SHUI の加入義務なし(社会保険報恩対象外であるため、任意加入もできないと考えられる。 以下の具体的なケースに応じて、試用期間中にSHUIに加入する義務がある;
・1カ月以上から3カ月未満の労働契約:社会保険の身に加入する。
・3カ月以上の労働契約:社会保険のみならず健康保険・失業保険にも加入する。
2 PIT -労働者がベトナム居住者である場合:
労働者への給与支払額がVND2,000,000/回以上の場合、雇用者は10%のPITを源泉徴収する義務がある。-労働者がベトナム非居住者である場合:
雇用者は所得に対し20%の固定率でPITを源泉徴収する。
-労働者がベトナム居住者である場合:
・3カ月未満の労働契約:労働者への給与支払額がVND2,000,000/回以上の場合、雇用者は10%のPITを源泉徴収する義務がある。
・3カ月以上の労働契約:雇用者は、労働者に支払う給与に応じて累進税率を適用しPITを源泉徴収する。-労働者がベトナム非居住者である場合:
雇用者は所得に対し 20%の固定率で PITを源泉徴収する。


4.試用期間終了時の雇用者の義務

 試用期間の終了時に、雇用者は試用期間の結果を労働者に通知する必要がある。通知の期限は定められていないが、試用期間の満了日までに通知する必要がある。
 労働者が試用期間経過後も労働する場合、労働契約に試用内容を記載しているケースでは、両当事者は締結した労働契約を引き続き履行するものとする。別個の試用契約を締結しているケースでは、両当事者が新たな労働契約を締結する必要がある。試用期間経過後に労働しない場合は、締結した労働契約または試用契約は試用期間満了時に終了する。
 試用期間中、両当事者は事前の通知及び補償をすることなく、締結された試用契約または労働契約を取り消す権利を有する。

5.その他の留意点
 上記に加えて、雇用者は以下のような他の問題に注意すべきである。
‐雇用者は、1カ月未満の労働契約を締結している労働者に試用期間を適用できない。
‐雇用者は、1回だけ労働者に対して試用期間を適用できる。
‐試用期間は、「労働者が実際に勤務した総時間」に含まれ、退職金・失業手当を計算する際の対象となる。
‐試用期間が満了した後も労働者が勤務し続ける場合、試用期間は「年次休暇日数を計算するための労働時間」に含まれる。

おわりに
 試用期間は、雇用者が組織に適した労働者を見つけるために「テスト」する期間であり、労働者が組織内での適合性を判断する期間でもある。このように、試用期間は労働契約を締結するための「前提条件」であるため、試用期間の開始時、期間中及び終了時に、労使関係によって両当事者の利益を確保するような法規定が定められている。
 雇用者は労働者を試用する際は、関連する法規定に特別な注意を払い、規制を順守し、違反や労働者との紛争のリスクを排除することが求められる。

参考文献
・2019年労働法
・2020年企業法
・通達 111/2013/TT-BTC
・通達 93/2015/TT-BTC
・政令 145/2020/ND-CP

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