Reportレポート

雇用者による人員削減のいくつかの方法

2025/07/20

  • Nguyen Hong Thuan

はじめに

 人員削減は、雇用者が組織構造の最適化、コスト削減、市場の変動への適応を目的として採用する一般的な手段である。しかし、雇用者が自由に人員削減を行えるわけではなく、ベトナムの労働関連法令を厳守しなければならない。これらの規定に違反した場合、労働者からの苦情や訴訟、さらには賠償責任や行政処分を受けるリスクがある。
本稿では、雇用者が人員削減を実施する際に検討すべき主な方法と、それぞれの注意点について解説する。

1.「人員削減」の概念

 「人員削減」とは、労働者の過失によらず、客観的な理由に基づき、雇用者が労働契約を終了させる手続きである。これは経営上の困難や組織再編の必要性が生じた際に採用される人事管理手法の一つである。
例えば、受注の減少、主要取引先の喪失、景気後退、インフレ、消費者需要の低下などの要因により、企業の経営が圧迫された場合、人員削減は事業継続のための手段と位置付けられる。また、原材料や燃料の高騰によりコスト削減が求められるケースやAIや自動化の進展により人員の必要性が低下するケースもある。

2. 人員削減のいくつかの方法

2.1. 契約期間満了による契約終了(更新なし)

 有期労働契約が終了した際に契約を更新しないことは、労働法第34条第1項に定められた合法的な契約終了手段の一つである。契約満了により契約関係は自動的に終了し、追加手続きは不要である。ただし、労働者が労働者代表機関の会員も務めている場合など、一部の例外には適用されない。

 この方法は補償義務がなく、法的リスクも低いため、雇用者にとって簡便かつ費用対効果の高い選択肢である。ただし、雇用者は労働契約終了時に次の事項等を適切に実施する必要がある。
(i) 契約満了による契約終了を労働者へ書面で通知すること
(ii) 最終勤務日までの給与および条件を満たした場合の退職手当を支払うこと
 適用にあたっては、契約満了予定者のリストを事前に確認し、計画的に対応することが重要である。

2.2. 双方の合意による契約終了

 労働法第34条第3項に基づき、雇用者と労働者の双方が合意した場合には、契約期間に関わらず契約を終了できる。 この方法は有期契約と無期契約の両方に適用することが可能だが、雇用者は一方的にこの方法を適用できず、労働者との合意が前提となるそのため、実務上は給与1-2か月分の保証金などを提案するケースが多い。
 この方法は双方の合意に基づくため、紛争リスクが低い点で安全性が高い。ただし、上記の第2.1節に記載した労働法第45条および第46条の手続きを適切に履行することが求められる。
 実施に際しては、対象者の特定、交渉計画、補償内容の明確化を行い、法的手続きをすべて完了させる必要がある。

2.3. 組織再編・技術革新等による契約終了

労働法第34条第11項および第42条第1項に基づき、以下のような場合に契約を終了できる。
(i) 組織構成の変更、労働の再編成。例えば、部門や部署の一部または全部の解散により、職務が消滅した場合
(ii) 工程、技術、機械、生産設備の変更に伴い職務が不要となった場合
(iii) 製品構成の変更などによる業務変化

 労働契約終了の正当性を担保するために、上記のいずれかに該当することを証明する書類と明確な根拠を保存する必要がある。また、その書類と根拠が適当でない場合、契約の終了は違法とみなされる可能性がある。
他の方法と比較して、この方法は手続きが複雑で長い時間が必要とされ、紛争のリスクも潜む。労働法第42条、44、45、47条に基づき、以下手続き等を実施しなければならない。
 ・組織再編・技術革新等による労働契約終了が多くの労働者の仕事に影響を与える場合、労働利用計画の策定および実行
 ・労働者代表機関(存在する場合)と協議し、契約終了について省級人民委員会に30日前に通知
 ・契約終了に関する労働者への書面通知
 ・労働法の第47条での条件を満たした場合失業手当を支払うこと
この方法は準備と実行に時間がかかるが、手順を誤ると違法とされる可能性があるため、慎重な対応が求められる。

2.4. 経済的理由による契約終了

 労働法第34条第11項および第42条第2項に基づき、企業が経済不況、金融危機、国の政策や法律によるリストラに直面し、企業経営に深刻な影響を及ぼす場合に適用される。ただし、実務上は経済的困難の証明は非常に難しく、ガイドラインも明確ではないため、労働者からの異議申し立てや訴訟のリスクが高い。
 労働法第42、44、45、47、63条に基づき、雇用者は以下の対応が求められる。
 ・経済不況、金融危機の証明。具体的には、財務報告書や売上高、利益の減少に関する統計、または新たな経済政策や法律が事業活動に与える悪影響を証拠とするケースが見られる。
 ・労働利用計画の策定および実行。継続勤務する労働者の数、契約終了となる労働者の数、支援措置、および財源を明確にする。
 ・労働者代表機関(存在する場合)と協議し、契約終了について省級人民委員会に30日前に通知する。
 ・契約終了に関する労働者への書面通知
 ・労働法の第47条での条件を満たした場合の失業手当を支払うこと

この方法は法的リスクが高いため、適用には特に慎重さが求められる。

3. 上記の方法の評価

 契約期間満了による終了は手続きが簡単で紛争リスクも低いため、最も実行しやすい手段である。ただし、有期労働契約にしか適用できないという制約がある。
 双方の合意による契約終了は、柔軟性が高く、法的トラブルを回避しやすいが、労働者の同意が前提であり、補償金の支払いなど一定のコストを要する。
 一方、構造・技術の変更又は経済的理由による契約の終了は、法的な根拠に基づく正式な方法であり、労働者の同意を必要としない利点がある。しかし、手続きが複雑かつ長期化しやすく、証拠や通知手続きの不備があれば違法とされるリスクも高い。
 それぞれの方法には長所と短所があるため、雇用者は自社の状況や対象労働者の属性を踏まえ、最適な方法を選定すべきである。

おわりに
 人員削減は企業にとって重要な経営判断であると同時に、労働者の生活に大きな影響を与える措置でもある。特に労働者は法的に保護されるべき弱い立場にあるとされるため、雇用者は慎重な姿勢が求められる。いずれの方法を採用する場合も、法令を厳守し、透明性・公平性をもって対応することが重要である。また、労働者との丁寧な対話を通じて、誤解や対立を防ぐことが、トラブルの回避と企業の信頼維持につながる。人員削減を単なるコストカットの手段と捉えるのではなく、企業の持続的な発展を支える戦略の一部として、慎重かつ計画的に実施するべきである。

参考文献:
・ベトナム2019年労働法、法律番号 45/2019/QH14(2019年11月20日公布)

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