Reportレポート

職場における民主的規則の作成と履行時の留意点

2025/01/18

  • Tran Thi Thu Huyen

はじめに
雇用者と労働者における平等性と透明性を確保することを目的に、労働法は雇用者にいくつかの義務を課しており、その中の1つに「民主的規則」の作成と履行がある。民主的規則とは、労働者が知るべき事項や協議可能な事項等の労働者の権利・責任について明文化された規則であるが、現在は就業規則のようには普遍化されておらず、多くの企業が作成していない状況である。本稿では、民主的規則の重要性および内容、履行形式、留意点について説明する。

1.  職場における民主的規則の発行責任

1.1. 発行責任
労働法および政令145/2020によると、労働者が10人以上の雇用者(企業、駐在員事務所)は、民主的規則を発行し労働者に公開する責任がある。
民主的規則は、雇用者が対話などを通じて労働者の権利を実現するための基盤となる。就業規則や団体労働協定とは異なり、民主的規則は発行後に労働機関に登録または提出することは求められていない。
また、民主的規則の作成または修正、追記時には、労働者代表組織(存在する場合)および労働者対話代表グループ(存在する場合)の意見を参考にする必要がある。

1.2. 民主規則制定の重要性
(i) 行政罰のリスク
政令12/2022によると、労働者が10人以上の企業で民主的規則を発行しない場合、10,000,000から20,000,000 VNDの罰金が課せられる可能性がある。

(ii) 他の事項への影響
弊社の他社事例に基づくと、企業が民主的規則を発行しない場合、以下の手続き時に問題が生じる可能性がある。
・就業規則の登録
雇用者は就業規則を作成・修正する際に職場における対話を実施する必要がある。法令上の規定ではないが、実務上は地方の労働機関の一部が雇用者に対話の議事録と民主規則を合わせて提出することを要求している。民主規則がない場合、雇用者が労働者の意見を聴取する体制が不足していると判断され、労働機関から承認が得られない可能性がある。
・労働者の業務の一時停止
労働者が就業規則に著しく違反する行為を行い、雇用者が労働者に対して業務の一時停止を検討する際には、職場での対話の実施を要求される。民主規則がない場合、雇用者は対話を実施する基盤を欠いていると判断され、当該決定が無効とみなされるリスクがある。

2. 民主的規則の内容

2019年労働法に基づき、民主的規則に盛り込むべき内容は以下の通りである。
雇用者が公開しなければならない事項:
雇用者は生産・経営状況および賃金テーブル、賞与規定、労働者の権利・義務に関連する規定を公開する義務がある。ただし、生産・営業状況に関しては雇用者の判断により、情報の公開範囲が限定される。
労働者が協議可能な事項:
労働者は就業規則や規程の作成・修正、各種コストの削減、労働生産性向上に関する施策、労働条件・職場環境の改善に関する意見を述べる権利を有する。

現在、労働者が相談できる内容を可決するために労働者の賛成率がどの程度必要かに関して、法令上の規定がない。そのため、労働者の賛成率が100%に達していなくても、企業は上記の規定、規則、または対策を制定、実施することが可能である。
しかし、就業規則の登録手続きにおいて、一部の労働機関(例:ビンディエン省の工業団地管理委員会)は、事前に対話に参加する労働者からの100%の承認を得ることを求めている。100%に達しない場合、労働機関は雇用者に対し対話を再度実施するよう要求することがある。

労働者が決定可能な事項:
労働者は労働契約の締結・修正・追記・解約、労働組合およびその他組織への加入有無、ストライキへの参加有無などについて決定する権利を有する。
労働者が調査・確認可能な事項:
労働者は労働契約および集団労働協約、自らの権利に関する各規定の執行を調査・確認する権利を有する。

雇用者が必要事項を開示する際には、各部門の代表者や社内掲示板などを通じて情報を公開する。労働者は、意見箱・会議を通じて意見を述べ、自己決定・投票を通じて各種事項を決定し、法令に従ってフィードバックと苦情を申し立てることができる。

3.民主規則の履行形式

現在、民主規則の履行は労働者会議を開催する形式で行われている。また労働法は職場において定期的に対話を実施する義務も定めている。以下では、この2つの違いを説明する。

基準 職場における対話 労働者会議
目的 雇用者と労働者の間での理解と協力を強化し、双方にとって有益な解決策に向けて努力する。 職場における適切な労働者の権利を実現する。
頻度 最低年1回の定期的な実施が求められ、雇用者または労働者からの要求がある場合にも実施できる。 毎年開催する。
履行条件 雇用者側として法定代表者(または委任された者)が参加し、労働者側に代表者の70%以上が参加できる。 民主的規則に規定する。
履行日程、場所、方法、参加者数 双方の協議をもって調整し、かつ民主的規則に規定される。 民主的規則に規定する。
違反時の罰則 実施しない場合、10,000,000~20,000,000 VNDの罰金 実施しない場合、10,000,000~20,000,000 VNDの罰金

おわりに
民主規則の作成・履行は、法令上の義務であることに加え、労働者の正当な権利を保護するとともに組織の管理効率を向上させるツールと言える。現在は多くの企業が未作成の状況となっており、大きな問題にはなっていないものの、最近の傾向として、労働機関は民主規則の作成状況の検査を強化している。改めて、法令の正しい理解と企業における作成状況の確認ために本レポートをご活用いただきたい。

参考文献:
2019年労働法
政令145/2020/NĐ-CP
政令12/2022/NĐ-CP

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