Reportレポート

出張者の個人所得税免税申請制度の改正について

2022/09/02

  • Le Ngoc Quoc Bao

はじめに
 2021年9月29日発行の財務省通達Circular 80/2021/TT-BTC(以下、通達 80)の中で、日越租税条約及びその他の国際協定に従って個人所得税の免税対象になる者の免税申請における必要書類、処理期間、結果通知について改正が行われた。
 当通達は2022年1月1日から発効している。

1.「日越租税条約」に基づく短期滞在者免税の概略
 ベトナム個人所得税法上は、日本に居住し日本で個人所得税の申告を行っている人であっても、1日でもベトナムに出張すれば、ベトナムで申告義務が発生する。一方で「日越租税条約」では、暦年でのベトナム滞在日数が183日未満等、一定の条件を満たした場合は免税とされており、矛盾が生じている。この点、ベトナムでは国内法よりも条約が優先されるため、免税適用は可能である。
 ただし、免税は自動的に適用されるわけではなく、要件を満たした上で税務当局に申請する必要がある。

2.通達80における免税適用要件・申請手続
 通達80における免税適用要件・申請手続は以下の通りである。

2.1 免税適用要件
 免税を適用するには下記3つの要件をすべて満たさなければならない。
  (1)ベトナム滞在期間が暦年で183日未満である。
  (2)給与・報酬がベトナム現地法人から支給・負担されていない。
  (3)給与・報酬がベトナム国内の恒久的施設(PE*)から支給・負担されていない。

ベトナム進出日系企業で、実際に免税要件を満たし、申請を行うケースで多いものは以下である。
いずれもベトナム側での給与・報酬の支払いはないことが前提とされる。
 ・ベトナム非居住者である、駐在員事務所の所長
 ・ベトナム進出前の調査を目的にベトナムに短期滞在する出張者
 ・ベトナム現地法人の内部管理を目的に定期的にベトナムに滞在する出張者
 ・ベトナム現地法人が研修目的で短期間受け入れる出張者

2.2 免税申請手続
 上述の通り、免税適用にあたり、税務局に申請を行わなければならない(申請しない場合、非居住者として個人所得税を申告納税しなければならない)。なお、規定上は出張前の事前申請が条件となっているが、実務上は事後であっても受理されている。

2.3 必要書類
 免税申請に必要な書類は下記の通りである。
  (1)個人所得税免税申請書(通達80に規定されている所定書式)
  (2)領事認証された日本の税務署発行の居住者証明書の原本または公証コピー
  (3)申請者のパスポートの公証コピー(申請者が本コピーに署名を行う)
  (4)申請書類提出代行者への委任状
  (5)所得の源泉を証明できる書類の公証コピー(申請者が本コピーに署名を行う)
・報酬や給与により所得を得る人(いわゆる勤め人)の場合:労働契約等、所得の源泉を証明できる法的な書類、また日本本社発行の申請者への任命状/出向辞令など
・独立して活動する専門家(医者、弁護士、会計士など)の場合は免税適用要件や必要書類が異なるが、本レポートでは割愛する。

2.4 処理期間及び結果通知
 管轄税務局が免税申請手続における必要書類をすべて受け取ってから30日以内に(税務調査が必要となる場合は40日以内に):
・免税申請を承認し、通知する。
・または否認し、その理由を申請者に通知する。

 旧法令では、申請が承認/却下されたかどうかの通知は税務局から発行されなかったところ、通達 80 では結果が通知されることとなっており、これが大きな改正点である。

3.通達80をベースとした免税適用における実務上の留意点(一部旧通達と重複)
3.1 技術支援契約、設備及び機械の設置契約、人材開発支援契約に基づく出張者
 ベトナム現地法人の技術や生産管理、人材開発を支援するために、ベトナムに数カ月滞在する出張者が少なくない。通常は日本本社とベトナム現地法人で技術支援契約、設備及び機械の設置契約、人材開発支援契約などのサービス契約を結び、出張者の日当や経費などを現地法人から日本本社に支払っているケースが多い。しかし、この場合はベトナム現地法人から本人に直接給料を支払っていないものの、間接的に負担していることになり、2.1 に記載した免税要件の(2)である「現地法人からの負担がない」という条件を満たさないことになる。
 このため、所属先の日本法人がベトナム現地法人と技術支援契約、設備及び機械の設置契約、人材開発支援契約等を有する場合のベトナム出張者は、免税申請が否認される可能が高いと考えられる。

3.2 各ベトナム地方管轄税務局による対応の違い
 最近、申請事例が増えてきたホーチミン市・ハノイ市・ドンナイ省・ビンズン省やブンタウ省などを除く地域では、地方税務局の理解が乏しいケースが見受けられる。申請書を提出しに行くと、担当官が免税申請のことを全く知らないということすらある。その場合、税務担当官に「日越租税条約」の内容や、短期滞在者免税申請の内容について説明しなければならない。場合によっては説明資料の追加提出が求められることもある。
 また、ハノイ市、ブンタウ省及びクアンナム省は税務局の管理が厳しく、免税申請においてもその適用条件を満たすか否かを厳しく審査される傾向がある。

3.3 日本の管轄税務署発行の居住者証明書の取得
 上記の通り免税申請に必要な書類のメインは、出張者本人の居住地の管轄税務署が発行する居住者証明書である。
 参考までに日本の国税庁のHPより以下のフォームが用意されている。
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/osirase/9210.htm

 一方で、ベトナム側で提出する税務局によってはベトナム語での記載を求めるケースもあり、上記HPにもあるが、納税者が用意したフォームで申請することも可能である。
 また、日本の税務署によっては源泉徴収票や住民票などの提出、ベトナムの免税申請制度の概要と居住者証明書が必要な理由の説明を求めることもある。そのため、会計事務所に申請の概要と必要書類について十分に説明を受けた上で、管轄税務署に事前に必要書類などについて確認を行うことをお勧めする。

おわりに
 以上の通り、出張者の個人所得税免税申請制度に関する改正点を説明した。
旧法令(通達156)によると、免税申請は承認ではなく、受理手続であるため、将来的な税務調査で免税適用条件を満たしていないと判断され、追徴課税や罰金を科せられるリスクが残っていた。
 通達80では、管轄税務局の承認・否認期間及び結果通知義務を明確に規定しているため、事後的に追徴課税や罰金を科されるリスクが低減したと考えられる。
 ただし、税務局が新しい通達に従って適時に結果通知等を行ってくれるかについては、今後の実務動向を注視する必要がある。実際に免税申請を行う際には、会計事務所等にも相談し、最新の実務動向や適用要件を満たしているかの確認を十分に行った上で、実施していただきたい。

参考文献
・所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とヴィエトナム社会主 義共和国政府との間の協定(日越租税条約)
・ベトナムと各国間で締結されている二重課税の回避及び脱税防止の協定の適用ガイドラインとなる2013年12月24日付 通達Circular 205/2013/TT-BTC
・2021年9月29日付 通達Circular 80/2021/TT-BTC
・2013年11月6日付 通達Circular 156/2013/TT-BTC

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