Reportレポート

労働契約の一時停止についての留意点

2024/11/22

  • Tran Thanh Phuong Thao

はじめに
企業が生産・経営の困難や受注不足に直面した際、コスト削減策として労働契約の一時停止を選択するケースがある。本稿では、労働契約を一時停止する際に注意すべきポイントを解説し、企業が法的リスクを回避しつつ適切に対応できるよう支援する。

1.「労働契約の一時停止」の定義

現行の労働法では労働契約の一時停止に関する明確な定義はないが、特定の法的事由が発生した場合に、労使双方が契約を一時的に停止することを指している。この場合、労働契約自体は終了せず効力も失わないものの、法的義務があるケースを除き、停止期間や理由、双方の権利・義務については必ず労使間で合意する必要がある。

2.労働契約が一時停止されるケースと停止期間

労働法第30条に基づき複数のケースでの労働契約の一時停止を認めているが、下表にて特によくみられるケースを紹介する。

ケース 停止期間
(i) 軍事・自衛民兵義務の履行 軍事義務期間に基づき合意
(ii) 逮捕、拘留 逮捕・拘留期間に基づき合意
(iii) 再教育施設や強制的リハビリへの入所 入所期間に基づき合意
(iv) 妊娠中で医療機関が勤務継続を危険と診断[1] 最短の停止期間は、医療機関の指示に基づいて決定される。指定がない場合は、労使間の合意に基づく[2]
(v) その他、双方合意した場合 合意内容に基づく

上記のように、労働契約の一時停止はケースに応じて合意の上で停止期間が決定されるが、(i)から(iv)については法的義務として契約停止が求められる。
一方、(v)のケースは、労働者または企業が一時的な契約停止を望む場合であり、双方の合意によって停止が決定されるケースを指す。例えば、企業が受注不足などの経営状況の悪化を理由に契約の一時停止を希望するケースは少なくないが、経営状況を理由とする一時停止は規定上認められていない。そのため、このようなケースでは労使双方の合意に基づき停止を決定する必要がある。

3.労働契約の一時停止における留意点

3.1. 労働者の賃金
両当事者の合意がある場合、または法令が異なる規定が有する場合を除き、停止期間中は企業に労働者への賃金の支払義務は発生しない[3]。一時停止は企業が人的コストを削減できる利点があり、コスト管理の手段の一つと見ることができる。

3.2.  労働者の社会保険加入
労働者の無給期間が1か月につき14営業日以上ある場合、その月の社会保険料の支払義務は免除され、企業は社会保険料負担を軽減できる。これは企業にとって一時停止による追加的なコスト削減のメリットとなる。

3.3. 労働契約の一時停止後の各当事者の義務
一時停止期間終了後、労働者と企業は契約を継続するにあたり、以下の義務を果たす必要がある。具体的には以下の通りである。

 a) 労働者の義務
一時停止が終了した場合、労働者は15日以内に勤務先へ復帰しなければならない。指定された期限内に復帰できない場合は、雇用者と復帰日について合意する必要がある。
期限を過ぎても復帰せず、別途合意がない場合、雇用者は労働法第36条に基づき、事前通知なしで一方的に労働契約を終了できる[4]

b) 雇用者の義務
一時停止に伴い労働者が期限内に復職する場合、労働契約が有効であれば、雇用者は労働者の勤務を受け入れる義務がある。また、契約に基づいた業務を提供する必要があり、それが不可能な場合は、新たな業務内容について合意し、契約の変更または新たな契約を締結する必要がある[5]

3.4. その他留意点
労働契約の一時停止期間が労働契約の履行期間としてカウントされるかどうかについては、現行労働法上は明記されていない。
しかし、前述の「一時停止に伴い労働者が期限内に復職する場合、労働契約が有効であれば、雇用者は労働者の勤務を受け入れる義務がある」という規定に基づくと、停止期間後に労働契約が満了している場合、労使双方で雇用関係の継続に関して別途合意がなく新契約が締結されない限り、その労働契約は終了となると理解される。このことから、一時停止期間も契約期間としてカウントされると解釈できる。

おわりに
労働契約の一時停止は企業にとってコスト削減の有効な手段であるが、安定した事業運営と良好な労使関係を保つためには、法令遵守と労働者への配慮が不可欠になる。透明性を持った理由や期間を説明のうえ双方の合意を形成すること、再開時にはスムーズな復職体制を整えることが重要であり、こうした対応により、短期的なコスト削減と長期的な信頼関係の構築を両立できる。

[1] 2019年の労働法第138条
[2] 2019年の労働法第138条
[3] 2019年の労働法第30条2項
[4] 2019年の労働法第36条3項
[5] 2019年の労働法第31条

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