Reportレポート

一名有限責任会社と二名以上有限責任会社の管理組織機構について

2022/09/12

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 ベトナムで現地法人を設立する際には、設立形態によって法令に基づき適切な機関を設置する必要がある。ベトナム現地法人の会社形態として、一名有限責任会 社、二名以上有限責任会社、株式会社、 合弁会社などがあり、ベトナム企業法により定められている。
 本稿では、日系企業が進出する形態として最も一般的である一名有限責任会社と二名以上有限責任会社の機関構成について説明する。

1.一名有限責任会社の管理組織機構
 一名有限責任会社とは1つの組織または1人の個人が所有する企業である。一名有限責任会社の構成は以下の通りで、会社の会長(又は社員総会)、および社長・総社長を選定することが必須である。会長と社員総会のいずれを設置すべきか相談を受けることも多いが、実務上、現地法人における委任代表者が1名のみであれば会長を設置し、委任代表者が2名以上であれば社員総会を設置することが一般的である。

2.二名以上有限責任会社の管理組織機構
 二名以上有限責任会社は、出資者が2名以上、最大50名までの有限会社である。二名以上有限責任会社は社員総会、社員総会の会長、社長・総社長で構成される。

3.各管理組織機構の役割と権限
a) 社員総会
 社員総会は会社の最高決定機関であり、以下の権限および義務を有する。
・会社の事業戦略、年次経営計画、定款資本の増資又は減資、追加出資の時期及び方法、会社の管理組織機構の決定
・社員総会の会長の選任、免任、罷免、社長又は総社長、会計部門長、 監査役及び会社の定款に定めるその他の管理者の免任、契約の締結及び終了の決定
・社員総会の会長、社長又は総社長 会計部門長および会社の定款に定めるその他の管理者に対する給与、報酬、賞与及びその他の利益額の決定
・子会社、支店、駐在事務所の設立、会社再編、会社の解散又は破産申立ての決定
・会社法および会社の定款の規定に基づくその他の権限及び義務を有する

b) 社員総会の会長
 任期は5年を超えず、回数制限なく再任が可能で、以下の権利及び義務を有する。
・社員総会の議事録、活動計画、社員総会の実施内容、資料の準備
・社員総会の実施
・社員総会の決議、決議事項の実施状況を監督、または監督させる
・社員総会を代表して社員総会の各決議、決定への署名
・会社法および会社の定款の規定に基づくその他の権限及び義務を有する。

c) 社長・総社長
 会社の日常的な経営活動を運営する者であり、5年を超えない任期で、社員総会または会社の会長により任命・雇用される。
 社長・総社長は以下の権利および義務を有する。
・社員総会または会社の会長の決議、決定事項の実施
・会社の日常的な経営活動に関係する事項を決定し、会社の経営計画および投資計画案を実施する
・内部管理規程の作成
・会社の管理者の免任(社員総会または会社の会長の権限に属する役職を除く。)
・会社の名義での契約締結および労働者の採用
・会社の組織機構の実施計画案の策定
・経営における利益の使用または損失処理の実施計画案の策定
・会社の定款,労働契約に規定されるその他の権限及び義務を有する

d) 監査役会
 法令上、監査役会の設置は任意である。
 監査役会を設置する場合、監査役会は監査役会長と監査役を含 む15名の監査役で構成され、監査役の任期は5年を超えず、再任も可能。監査役会が監査役1名からなる場合には、その監査役が監査役会長となる。監査役会の 権限および義務は企業法第170条に定められている。
 主な項目は以下の通りである。
・取締役会、社長または総社長による会社の管理および運営の監査
・経営活動の管理、運営における合理性、合法性、誠実性の監査
・会社の管理者が企業法に規定された責任を果たさず違反を犯した場合、取締役会への違反報告を行う。

 また、違反者に対し違反行為の終了勧告と違反により会社に与えた損害に対する賠償請求を行う。
・本社、支店、その他の場所に保管されている会社の資料へのアクセ ス権限
・取締役会、社長その他の管理者に対し、会社の経営、管理および事業活動に関する情報報告および資料提供を、十分に、正確に且つ遅滞なく実行させる。

4.一名有限責任会社と二名以上有限責任会社の管理組織の相違点

5.一名有限責任会社と二名以上有限責任会社の法的代表者
 法的代表者は企業法に基づき、企業の活動で発生する取引において各権利を行使し、義務の履行にあたり企業を代表し、また、仲裁組織、裁判所において民事事件解決請求者、原告、被告、関連する権利、義務を有する者として企業を代表し、法令の規定に基づくその他の権利、義務につき企業を代表する個人であると定義される。
 一名有限責任会社と二名以上有限責任会社の法的代表者は、以下の者のいずれかが兼務できる。

一名有限責任会社 二名以上有限責任会社
・社員総会の会長
・会社の会長
・社長・総社長
・社員総会の会長
・社長・総社長

 有限責任会社は一人または複数の法的代表者を選任することができる。一般的には、合弁会社など出資者が複数で構成される企業の場合に複数の法的代表者を選任するケースが多い。法定代表者が複数いる場合、会社の定款で法的代表者それぞれの権利、義務を具体的に規定する。なお、少なくとも法的代表者一名はベトナム居住者でなければならない。
 企業法においてベトナム居住者の要件は明確にされていないが、実務上ベトナム非居住者を法的代表者に選任している企業もある。一名の法的代表者のみがベトナムに居住する場合、その者はベトナム出国時には、法的代表者の権限および義務の履行を他者に書面により委任しなければならない。なお、書面での委任をしなかった場合、法令に基づき20,000,000~30,000,000VNDの罰金を課される可能性がある。

 また、法的代表者は以下の責任を負う。
・企業の合法的利益を保証するため、 誠実で、慎重且つ最善の方法で与えられた権利を行使し、義務を履行する。
・企業経営に忠実であり、私利のためまたは他の組織、個人の利益に資するために地位、職務を濫用せず、また、情報、ノウハウ、経営機会、企業の財産を使用しない。
・関係者が所有者である、または株式や持分を保有する企業に関して、遅滞なく、完全かつ正確に報告および通知をする。
・社員総会の会長、会社の会長、社長・総社長である法的代表者を変更する場合、企業登記内容変更手続き、その他の役職に変更がある場合は、企業登記内容変更通知が必要となる。

6.留意点
 会社の法的代表者の情報に変更がある場合、企業登録機関で企業登録証明書の登記内容変更手続き(会社の法的代表者の情報変更による企業登録証明書の変更手続き)を実施する必要がある。出資者の委任代表者の情報に変更がある場合、企業登録機関で企業登録証明書の登記内容変更通知手続き(委任代表者の変更通知手続き)を実施する必要がある。
 会社の定款に規定されている監査役の情報に変更がある場合は、企業登録機 関への企業登録証明書の登記内容変更手続きと登記内容の変更通知手続きは不要であるが、会社の定款を修正する必要がある。

おわりに
 上記で述べたとおり、現地法人設立の際には、管理組織機構とそれぞれの機関の役割をよく理解しておくことが重要であるため、適切な設立形態を選択するにあたり、本レポートを参考にしていただきたい。
 次回レポートでは、株式会社の管理組織機構を紹介し、その特徴を解説する。

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