Reportレポート

インターンと契約を締結する際の注意点

2023/11/13

  • Ho Thi Y NhiI

はじめに
 ベトナムのほとんどの大学では、「インターンシップ」は卒業要件の1つとなっており、会社はインターンの中から人材を見つけて訓練し、場合によっては採用する。そのため、学生を受け入れて会社でインターンとして勤務させることは非常に一般的である。しかし、現在の法律には、インターンの学生と会社間の契約に関する個別具体的な規定は存在しない。本稿では、3つのケースに分け、それぞれのケースに応じたあるべき契約形態や留意事項を説明する。

 インターンシップとは、大学で学んでいる学生が、実際の仕事の現場に触れるために、インターンとして会社で勤務し、必要な業務を行うことで、学校で学んだ知識を実際の仕事に活かす経験を積むことを指す。また、会社もインターンを募集することが多い。例えば、実際に大学でインターンシップを考えている学生と交流して採用に適した候補者を見つける、将来、正式に採用するための人材をインターンシップ期間中に育成する、会社の業務をサポートしてもらうために派遣労働者として勤務させる、といったさまざまな目的でインターンを募集する。そのため、それぞれの目的に応じた適切な契約形態が必要となる。上記の3つのケースについて、以下に説明する。

1.インターンシップ合意書
 インターンを受け入れる主な目的が、2019年教育法第93条第1項a1に基づく内容の場合(インターンシップの条件を整え、学校や学生を支援するといった社会的責任を果たすことが目的の場合)、民法に基づきインターンシップ合意書を締結する必要がある(労働法の対象外となる)。

インターンシップ合意書を締結する際は、以下の点に留意が必要である。
・インターンシップ合意書は労働契約ではないため、他の従業員と同様の責任や義務はインターンに生じない。

・「インターンシップ」は、会社が学生をサポートすることであるため、インターンシップ期間中はインターンに給与を支払う義務はない。しかし、インターンシップ支援金、ガソリン代、昼食代などを支払うことは可能である。ただし、インターンとの間に労働契約が存在しているのではないかという疑念をかけられないようにするため、これらの代金を支払う場合は「給与」という言葉の使用を避けるべきである。

・会社の機密情報へのアクセスを制限したい場合は、合意書に情報セキュリティの内容を含めるか、別に秘密保持契約(NDA)を締結する必要がある。

・会社はインターンシップ期間終了後にインターンを採用する義務はなく、またインターンもインターンシップ期間終了後に必ずしもその会社で働く必要はない。インターンシップ期間終了後、もし会社が採用を希望する場合は、通常の候補者と同様に採用を提案し、労働契約を締結する必要がある。

・インターンシップ期間中に行う業務内容については、インターンシップ合意書に明記する必要がある。

2.職業訓練契約
 インターンシップ期間終了後、正式に採用する目的でインターンを受け入れる場合、労働法第61条第2項2が適用され、職業訓練契約を締結する必要がある。

 前項で述べた「インターンシップ合意書」と「職業訓練契約」の違いは、インターンシップ期間終了後に採用する目的があるか否かである。本ケースの場合は、インターンシップ期間終了後、会社はインターンに対し、会社と労働契約を締結することを確約させることができる。またインターンシップ期間終了後、会社が定める条件をインターンが満たした場合、会社はインターンと労働契約を締結する義務がある。

2019年労働法第61条および2014年職業教育法第39条では、職業訓練契約に次のような内容を含める必要があると規定されている。
a)職業訓練名または求められる職業スキル
b)職業訓練を行う場所
c)職業訓練の期間
d)会社が提供する研修の費用とその支払い方法(該当する場合)
e)契約違反が発見された場合の両当事者の損害補償責任
f)契約の清算
g)職業訓練期間においてインターンを十分にサポートするという会社のコミットメント
h)卒業後に労働者を雇用するという会社のコミットメント
i)職業訓練期間中に会社の製品製造活動に関与する場合の給料に関する協定
j)その他、法令や社会道徳を順守するという約束

さらに、職業訓練契約に署名する際には、次の点に注意する必要がある。
・職業訓練期間は3カ月までとする必要がある。

・就業規則や会社の内部規則はインターンにも適用される。また、会社は労働法に基づき、定期健康診断を行うなど、他の正社員と同様にインターンの権利も保障する必要がある。

・会社の機密情報へのアクセスを制限したい場合は、契約に情報セキュリティの内容を含めるか、別でNDAを締結する必要がある。

3.労働契約書
 会社が「会社の業務をサポートしてもらうために派遣労働者として勤務させる」ことを主な目的としてインターンを受け入れる場合、インターンと雇用関係があるとみなされる。従って、会社はインターンと労働契約を締結する必要があり、インターンには他の正社員と同様の義務や責任が生じることになる。

インターンと労働契約を締結する際は、次の点に注意する必要がある。
・会社はインターンと短期労働契約を締結することができる。ただし、労働契約を締結する回数の上限は2回までであり、3回目以降は無期雇用契約とする必要がある。

・会社は、給与の支払い、社会保険への加入、年次休暇の付与など、労働評議会の規定に従って、インターンに対するすべての義務を履行する必要がある。

おわりに
 本稿では、会社とインターンとの間で交わされる一般的な契約書の形式や留意点について説明した。インターンを受け入れる目的によって、会社は適切な契約形態を検討する必要がある。実務上、コストの観点からインターンと労働契約を締結しない会社が多いようだ。しかし、ベトナムの労働市場は競争が激しく、多くの会社はインターンから優秀な人材を発掘したいと考えているため、インターンの採用は会社にとっても大きなチャンスであると思われる。本稿がインターンを採用する際の一助となれば幸いである。

1 2019年教育法第93条第1項a:会社は、教育・科学研究活動を組織するために、学校を支援・協力する責任があり、教師や学生による会社の訪問、活動の体験、実践、科学研究を行うための条件を整える必要がある。
2 労働法第61条第2項:使用者のもとで働くための職業訓練とは、使用者が、職務に応じた作業の実習や職業訓練を指導するために人を募集することをいう。

M000111-175
(2023年11月12日作成)

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