Reportレポート

ベトナムのグローバル・ミニマム課税の適用予定及び外資系企業への影響

2023/10/16

  • Mai Thi Dung

I. はじめに
 グローバル・ミニマム課税は、経済協力開発機構(OECD)が始めた税制である。この税制のコンセプトは、先進国・新興国グループ(G20)すべての加盟国・地域に同じ実効税率(Effective Tax Rate)を課す協定を結び、2つ以上の法域で事業活動があり、かつ全世界売上高が7億5000万ユーロ以上の大規模多国籍企業に対して、15%の税率を適用するものである。現在まで、スイス、イギリス、韓国、日本、シンガポール、インドネシア、香港(中国)、オーストラリアなどの国・地域が2024年から税率15%のグローバル・ミニマム課税ルールを適用する。

 15%というグローバル・ミニマム税率は多国籍企業の投資戦略や活動方針に一時的な混乱をもたらせ、各国の外資誘致戦略にも影響を及ぼす可能性がある。

II. グローバル・ミニマム課税の定義及び適用原則
 G20は具体的なグローバル・ミニマム課税の方法として、2つの柱(Pillar 1、Pillar 2)の原則に合意した。そのうち、Pillar 1は利益の一部を商品やサービスの消費国に再配分する仕組みを提案し、適用対象は、年次の全世界売上高が200億ユーロを超え、かつ利益が10%を超える多国籍企業のみである。Pillar 1が影響を及ぼすのは、ごく少数の企業のみと推定されるため、本稿ではPillar 2に関する内容を中心に分析する。

 第二の柱すなわちPillar 2は、国際投資に対するグローバル・ミニマム課税を規定し、国家間の法人税率引き下げ競争や所得移転競争を終わらせることを目的としている。この制度では、2つ以上の法域で事業活動があり、Pillar 2発効日前の連続する4事業年度のうち少なくとも2事業年度の年間売上高が7億5000万ユーロ以上である大規模多国籍企業に対して、ミニマム15%1の法人税率が適用される。
 当制度で適用される税率はOECDが指導する実効税率であり、その計算式は以下の通りとなる。

実効税率=(調整後実効税額)÷(GloBE純収益)2

 本稿執筆時点(2023年9月)では、ベトナムはグローバル・ミニマム課税の加入に合意していない。そのため、例えば日本に本社がある多国籍企業グループにおいて、ベトナム子会社の実効税率が15%を下回り追加納税が必要となった場合、納付先は親会社の所在国(日本)となる。ベトナムがグローバル・ミニマム課税の加入に合意した場合、追加納税の納付先はベトナム税務局となる。

III. 世界の適用状況、ベトナムでの適用予定
1. 最近のハイライト、EUによるPillar 2実施への合意
 2022年12月16日、欧州連合(EU)はグローバル・ミニマム課税の正式適用を確認するプレスリリースを発表した。本リリースによると、2023年末までにEU加盟国はグローバル・ミニマム課税を法制化し、2024年より適用することとなる。これは、EUがG20・OECDのPillar 2に関する世界合意の適用を主導することを意味する。

 EUの動向と最近の包括的フレームワーク(Inclusive Framework:IF)の実施計画は、各国に国内税制の改革を促すことになる。

2. ベトナムでの適用予定
 
ベトナムは本稿執筆時点(2023年9月)においてはグローバル・ミニマム課税の加入に合意していないが、方向性としては近い将来に加入するものと見られる。

 ベトナム政府、財務省、その他の省庁は、グローバル・ミニマム課税の適用が在ベトナムの外資系企業に与える影響について早急に評価を行い、グローバル・ミニマム課税とベトナム法人税との差額をベトナムで徴収する仕組みの法制化を検討している。政府は2023年10月の会議3において、グローバル・ミニマム課税の適用を承認するため、国会に提出する予定である。このほか、バクニン省税務局などのいくつかの地方税務局は、グローバル・ミニマム課税に関する予備的な説明を提供し、企業グループの連結売上高に関する最新の情報を要求するオフィシャルレターを企業に送付している。

3. グローバル・ミニマム課税が実施された場合の外資系企業への影響評価
 財務省の統計によると、現在ベトナムには外国親会社がグローバル・ミニマム課税の対象となる外資系企業が1,015社ある。このうち、2024年からグローバル・ミニマム課税が適用された場合、税制優遇措置を受けているなどの理由から、影響を受ける可能性のある企業は70社以上ある4

 ベトナムの一般的な法人税率は20%であり、グローバル・ミニマム税率よりも高いので、本法律が適用された場合、税制優遇措置のない企業は影響を受けない。しかし優遇措置を受けている企業の場合、予備的な試算によると、ベトナムにおける外資企業に対する実際の税率は現在平均12.3%であり、グローバル・ミニマム税率15%よりも低い。法人税法に規定されている主要な税制優遇は以下の通りで、事業内容による優遇、立地による優遇、規模による優遇の3つの形態がある。

1) 事業内容に応じた優遇
科学研究、技術開発、ハイテク応用分野については事業開始から15年間、法人税率10%が適用される。教育、医療などの社会領域では、プロジェクト実施期間を通じて10%の税率が適用される。

2) 工業団地(一部工業団地を除く)、輸出加工区、社会経済的に困難な地域に所在する工業団地における新規投資プロジェクト実施企業に対する優遇
2年間の免税とその後4年間の納税額の50%減額(2免4減)が適用される。

3) 極めて困難な経済区、ハイテク区、社会経済的に困難な地域に所在する企業に対する優遇
4年間の免税とその後9年間の納税額50%減税(4免9減)、加えて事業開始後15年間は10%の法人税率が適用される。

4) 投資規模に応じた特別な優遇
一部の産業において、投資資本が30兆ドン以上かつ投資登録証の発行日から3年以内に最低100兆ドンの支出を行う条件を満たす場合、30年間にわたって法人税率9%が適用される。

 上記の主要な税制優遇を享受するベトナム企業の場合、実効税率は15%を下回る可能性が高く、グローバル・ミニマム課税のもとでは追加納税が必要となる。

IV. 終わりに
 Pillar 2の影響を受けるのは、ベトナムが誘致しようとしている外資系の大企業である。親会社の所在国(日本や韓国など)が既に加入を表明している場合、当該所在国の大企業にとって、既存のベトナム税制優遇の多くが意味をなさなくなる。このため、外国投資家は代替的な投資優遇措置(例えば良質な労働力の供給、インフラ整備、行政手続の改革、生産設備への投資優遇)を政府に期待するものと思われる。
 今後、ベトナム政府がグローバル・ミニマム課税をどのように適用し、また代替的な投資優遇措置を導入するのか、引き続き注視していきたい。

参考文献
1: https://www.oecd.org/tax/beps
2: https://www.oecd.org/tax/beps/tax-challenges-arising-from-the-digitalisation-of-the-economy-global-anti-base-erosion-model-rules-pillar-two.pdf
3: https://xaydungchinhsach.chinhphu.vn/chinh-phu-se-trinh-quoc-hoi-cac-chinh-sach-lien-quan-thue-toi-thieu-toan-cau-119230726193534584.html
4: https://taichinhdoanhnghiep.net.vn/viet-nam-co-hon-70-doanh-nghiep-co-kha-nang-chiu-anh-huong-cua-thue-toi-thieu-toan-cau-d38379.html

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