Reportレポート

労務に関する重要な社内規定について

2023/08/21

  • Phan Manh Hung

はじめに
 現代の競争的で複雑なビジネス環境において、強固な内部管理体制を構築・維持することは、企業の持続的な発展のために非常に重要である。その中でも労務管理体制は、法律の順守、信頼できる労働環境を構築する過程において、常に中心的な役割を果たす。本稿では、ベトナムの法律において重要となる、労務に関する内部管理規定について説明する。

1.就業規則
 就業規則は、どの企業にも必要な、最も重要な内部管理規定の1つである。就業規則は、企業によって発行され、企業内の労働秩序を確立・維持するためのものであり、企業と労働契約を締結した労働者の義務を規定するものである。具体的には、就業規則を作成する際には企業は以下の点に注意しなければならない。

(i)内容
労働法および関連法規に違反してはならず、労働時間、休息、労働規律、物的損害賠償責任等、2019年労働法第118条で規定される主要な内容を含まなければならない。
(ii)発行と手続き
全ての企業は就業規則を発行する必要がある。
・労働者が10人以上の企業:就業規則は書面でなければならず、発行日から10日以内に本社所在地の労働管理機関(労働局または工業団地管理委員会)に登録しなければならない。
・労働者が10人未満の企業:就業規則は書面である必要はないが、労働規律と物的責任に関する内容は労働契約で合意する必要がある1。労働管理機関への登録は必要ではない。
また、就業規則の発行又は修正、補充の前に、事業所の労働者代表組織がある職場の場合、企業は労働者代表組織の意見を参考にしなければならず、全労働者に就業規則を公表し、事業所の必要な場所に主な内容を掲示しなければならない。就業規則の発行は、法律に基づく企業の義務であるとともに、法律により与えられる企業の権利と考えられる。したがって、企業は就業規則に関する規定を順守し、利用することで、労働秩序を厳密に維持することができる。

2.集団労働協約
 集団労働協約とは、企業と労働者団体の間の団体交渉を通じて合意されるものである。主な内容は、労働者の権利(通常は法律よりも優遇される)に関するものである。したがって、企業は以下の点に注意する必要がある。
(i)内容
法令の規定に反することはできず、法令の規定と比較して労働者に有利となることを奨励する2
(ii)発行
集団労働協約は書面であり(企業によって独自に発行されるものではない)、締結の前に、各当事者が交渉した集団労働協約の草案につき、企業の全ての労働者の意見が聴取されなければならない。企業集団労働協約は、企業の50%以上の労働者が賛成の表決をした場合にのみ、締結される3

 労働法は、全ての企業に対して集団労働協約の締結を義務付けているわけではない。ただし、集団労働協約を締結した場合は、協約を1部、本社所在地の労務管理機関(労働局または工業団地管理委員会)に締結された日から10日以内に送付する必要がある4。また、集団労働協約が締結された後は、使用者は労働者に対して公表する必要がある。集団労働協約を通じて、企業はより良好な労使関係の構築を促進し、また安定的かつ持続可能な企業経営を促進することができる。

3.賃金テーブル・賃金表
 「賃金テーブル・賃金表」とは、企業が発行する文書で、各役職の賃金水準、手当水準(手当係数)およびボーナス水準(ボーナス係数)などを規定するものである。当該文書は、労働者の採用、賃金交渉、定期的な昇給・ボーナスの検討の際の基準となるものである。企業は賃金テーブル・賃金表を作成する際、以下のような点に注意する必要がある。

(i)内容
企業は賃金表の最低賃金が政府の規定する地域最低賃金を下回らない限り、賃金テーブル、賃金表を自由に作成できる。
(ii)発行
すべての企業は賃金テーブル・賃金表を作成し、発行する義務がある。
(iii)手続き
 企業は賃金テーブル・賃金表の登録や通知の手続きを行う必要はない。しかし、就業規則と同様に、賃金テーブル・賃金表の作成を行う際は、事業所における労働者代表組織がある職場については、労働者代表組織の意見を参考にしなければならず、適用する前に労働者の全員に対し、公表しなければならない。賃金テーブル・賃金表は、労働者の採用プロセスや労働コストの管理において重要な社内規定である。賃金テーブル・賃金表を整備することで、企業の労働者の採用プロセスにおける競争力を向上させ、企業全体の労働コストを把握するのに役立つ。

4.民主規則
 「民主規則」とは、企業における労働者の「主権」の行使について規定したものである。これには、憲法や法律に基づき、労働者が情報にアクセスし意見を表明する権利や、議論や意思決定に参加して企業内の諸問題について議論・意見を述べる権利、その他決定・検討・監視する権利などが含まれる。民主規則については、以下の点に留意する必要がある。

(i)内容
民主規則には、職場での対話を行う際の主要な内容5や、労働者が意見・決定・監督に参加できる内容が含まれる。
(ii)発行と手続き
従業員が10人以上いる企業は、民主規則を発行し6、労働者に公開する必要がある。民主規則を作成、修正、補足する場合、企業は法律の規定に従った内容と形式を確保し、事業所における労働者代表組織(あれば)および労働者の代表グループ(あれば)の意見を参考にしなければならない。
民主規則は、労働者が企業において、自分の意見や要望、提案事項を表明するための条件を整備するための社内規則であり、労働争議を未然に防止することに貢献し、調和的、安定的、進歩的な労使関係の構築に役立つ。

おわりに
 本稿では、労務に関する重要な社内規定について説明した。企業は、法令に基づき就業規則を必ず作成する必要がある。また、良好な労使関係の構築のために、法律で義務付けられていないその他の労働規則の発行を検討する必要がある。これらの社内規定を整備することで、持続可能で調和的な労使関係が確立され、競争の激しいビジネス環境における企業の持続可能な発展に寄与することが期待される。

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¹ 2019年労働法第118条1項および政令145/2020/ND-CP第69条
² 2019年労働法第75条
³ 2019年労働法第75条2項および第76条
 2019年労働法第77条
 政令145/2020/ND-CP第37条2項
 政令145/2020/ND-CP第48条1項および第114条4項

M000111-172
(2023年7月12日作成)

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