Reportレポート

正当な理由なく、無断で仕事を放棄した労働者に対する処分を適用する際の留意事項

2023/01/20

  • Phan Manh Hung

はじめに
 ベトナムにおける生産活動および営業活動の中で、労働者が雇用者に通知もせずに、又は雇用者から許可を受けずに、無断で仕事を放棄するという事態に直面している雇用者が多いのが現状である。労働者が正当な理由なく無断で仕事を放棄した場合、一時的な人手不足につながるのはもとより、雇用者の通常の事業活動にも間接的な影響を及ぼす。そこで本稿では、正当な理由なく無断で仕事を放棄した労働者に対して、雇用者が適用できる処分およびその留意点について説明する。

1.「正当な理由なく無断で仕事を放棄した」とは
 現行の2019年労働法(以下、「労働法」という)では、「正当な理由なく無断で仕事を放棄した」行為の定義については一切記載されていない。しかし、「正当な理由なく仕事を放棄した」とは、次の要素を有する欠勤のことと捉えられている。

(i)雇用者に通知しなかった。
(ii)雇用者に通知したものの、休暇申請プロセスに関する内規を順守しなかった。又は雇用者による許可を受けなかった。

 「正当な理由」と見なされるケースについては、労働法第125条第4項によると、自然災害や火災が発生した場合、権限を有する医療機関により本人・家族の病気を診断された場合、および就業規則に規定されるその他の場合である。
 労働者が「正当な理由なく無断で仕事を放棄した」かどうかを判断することは、雇用者が労働者に対して下記の処分を適用する際の根拠・事由となるため、非常に重要である。

2.「正当な理由なく無断で仕事を放棄した」労働者に対する処分
 労働法では「正当な理由なく無断で仕事を放棄した」労働者に対して、雇用者が適用できる処分について次のように規定されている。

2.1. 雇用者が労働者との労働契約の解除を一方的に行うことによる労働契約の終了
 労働法第36条第1項e号の規定によると、労働者が正当な理由なく5日以上連続かつ無断で仕事を放棄した場合、雇用者は労働契約の解約を一方的に行う権利を有する。
 なお、雇用者は次のような事項に留意する必要がある。

・労働契約の解除の決定を下す前に、解除の事由を証明できる証拠を十分に揃えていなければならず、決定が下された後も当該証拠を保管する必要がある。
・正当な理由なく無断で仕事を放棄した日数は、連続するものでなければならず、間隔があってはならない。
・労働契約を一方的に解除しても、雇用者は当該労働者に対して退職手当を支給する必要がない。

 当該労働契約の一方的解除の手続きについて、雇用者は労働者に事前に通知する必要はないが、労働者が5日以上連続かつ無断で仕事を放棄したことを事由とした労働契約の一方的解除について、雇用者は労働者に書面により通知しなければならない。

2.2. 雇用者が労働者に対して、労働規律の基づく解雇処分を行うことによる労働契約の終了
 労働法の規定によると、正当な理由なく仕事を放棄した行為があった日から 30日間で合計5日、又は365日間で合計20日、無断で仕事を 放棄した場合、雇用者は労働者に対して、労働規律に基づく解雇処分を行う権利を有する。なお、雇用者は次のような事項に留意する必要がある。

・雇用者が労働者に対して労働契約の解除を一方的に行うか、労働規律に基づく解雇処分を行うか、どちらを採用するかを検討するにあたり、無断欠勤日数が「連続」か「合計」かどうかが判断基準の一つとなる。

・労働者に対して労働規律に基づく解雇処分を行う際、労働者の違反行為を立証しなければならない。つまり、労働者が正当な理由なく無断で仕事を放棄した事実、およびその日数を証明する必要がある。

・雇用者は妊娠中、出産休暇中、生後12カ月未満の子供の育児中の女性労働者に対して、労働規律に基づく解雇処分をすることができないなど、労働規律に基づく処分の原則、手順および手続きを厳密に順守する必要がある。労働規律に基づく解雇処分を行う際は、次の手順に従わなければならない。(i)労働者の違反行為の記録および証拠の収集、(ii)処分会議の開催、(iii)処分会議の議事録の可決、(iv)労働規律に基づく処分内容の決定。

・労働規律に基づく処分は、法令の規定に基づく時効期限内に行われなければならない。労働規律に基づく処分の時効は、違反行為が行われた日から6カ月である。時効の延長が許可される場合にも、6カ月の期間が満了した日から60日を超えてはならない。従って、雇用者は仕事を放棄した労働者に対して、労働規律に基づく解雇処分を行う意思がある場合は、この時効期限内に解雇の手続きを実施しなければならない。上記の時効期限が経過した場合、労働規律処分の効力が消滅することになるからである。

・雇用者は、この場合により解雇された労働者に対して、退職手当を支給する必要はない。

2.3. 「正当な理由なく無断で仕事を放棄した」労働者に対して、適用できる処分に関する考察
 上述の2つのケース(2.1.および 2.2.)は、いずれも結果的に、雇用者が労働者との労働関係を一方的に終了させることができる、という点で共通している。しかし、2.1.に記載の方法が、簡易で手間がかからないと考えられる。一方2.2.に記載の方法は、内規違反をした労働者に対して、警告・処罰を与えることを目的とした労働規律に基づく処分であるため、手続きが複雑で手間がかかり、多くの人件費を要する。この点、雇用者は「正当な理由なく無断で仕事を放棄した」労働者に対して、具体的な事例内容などに応じて合理的に判断し、相応しい処分の適用を検討することを推奨する。
 なお、労働者が「無断で仕事を放棄した」のが、労働契約の解除および退職を意図した従業員の主観的な意思によることを雇用者が証明 できる場合には、雇用者は、労働法第34条第9項に基づき、労働者が労働契約を一方的に解除したという処分を適用できる。当該処分は、労働者が以下のとおり事後的に法的責任を負う必要があるという点で、上述の2つの処分(2.1.および 2.2.)とは異なる。

(i) 退職手当を受けることができない。
(ii) 労働契約に従った月額賃金の2分の1、および事前に通知しなかった日数に応じた、労働契約に従った賃金に相当する金額を、雇用者に賠償しなければならない。
(iii)教育研修費用を雇用者に返還しなければならない(該当する場合)。

 ただし、雇用者が労働者の主観的な意思であることを証明できない場合には、選択し得る方法は、上記の2つの選択肢(2.1.および 2.2.)しかない。

3.その他の留意点
 実際には、労働者が「正当な理由なく無断で仕事を放棄した」理由を特定することは極めて困難である。なぜなら、多くの雇用者が、当該理由を特定するために労働者に積極的に連絡するものの、大抵は返事が返ってこないからである。そのため、理由を特定するために、雇用者は電話、メール、信書などさまざまな形式をもって労働者に積極的に連絡することを推奨する。特に、労働者の住所に書面通知を送付するべきである。また、理由の特定に要する時間を短縮し、処分を適切に適用するために、通知の際は返事の期限を設定することを推奨する。

おわりに
 全体的に、正当な理由なく無断で仕事を放棄した労働者に対して、雇用者が適用できる処分に係る法的枠組みは相当程度整備されているため、労働者は具体的なケースに応じて既存法令の規定を適用することができる。一方、休暇・退職の申請手続きに関する社内規定が十分に整備されておらず、正当な理由なく無断で仕事を放棄しやすい環境である場合は、労働者による仕事の放棄が 多発してしまう可能性も考えられる。そのような事態を未然に防ぐためにも、休暇・退職申請に関する社内規定・規程を整備すると同時に、労働者に周知する必要がある。

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