Reportレポート

新通達に伴う、ベトナム現地法人設立時における親会社立替金の最新実務①

2020/04/27

  • 中村 祐太

はじめに
 従来ベトナムにおいては、現地法人設立前の立替金の支払をするには、日本の親会社の非居住者預金口座を開設し、そこから支払を行う必要がある等煩雑な手続が必要となっていた。2019年9月の通達によりそのような制度が廃止されたが、多様な精算方法があり、それぞれ留意しなければならないことがある。本稿ではその変更内容と、足元で行われている最新の実務の流れについて説明する。

1.現地法人設立時の経費立替
(1)立替金の内容と発生理由
 ベトナムに現地法人を設立する際、事務所敷金等法人設立前に支払が発生するケースが一般的である。そうした経費を親会社が負担した場合、現地法人に対する寄付とみなされ親会社側で税務上損金として認められないことが多い。そのため一旦親会社が立替金として支払後に現地法人の費用として付け替えるのが一般的である。
 現地法人設立前に立替が必要な経費としては一般に以下のようなものがある。

✓事務所敷金や賃借料
✓土地リースの保証金
✓法人設立代行費用
✓法人設立活動に要した交通費(航空券代、タクシー代)、宿泊費
✓その他、本来現地法人が負担すべき費用

(2)立替に関する制度と運用の変遷
 現地法人設立前の立替金について、従来は親会社の非居住者預金口座をベトナムに開設し、そこから支払を行う必要があった(注1)。当該手続を経ない場合、現地法人設立後に立替金の精算ができず、仕入付加価値税(VAT)上の控除、法人税上の損金算入ができないといったデメリットが発生していた。
 上述の制度は手続が煩雑だったこともあり、2019年9月に廃止された(注2)。以降、必要経費を親会社が日本から外国送金で支払っても立替金として認められ、現地法人設立後に精算を行うことができる等、手続が大幅に緩和された。

2.新制度における立替金の精算手続
(1)立替金精算の方法
 親会社が支払った立替金について、最終的に精算ができるのは、現地法人が投資登録証明書(IRC)、企業登録証明書(ERC)を取得し、資本金口座(以下「DICA」)を開設したタイミングとなる。
 立替金の精算方法に関しては、主に4通りある。実務上は銀行ごといずれの方法が可能か定まっている場合も多いので、DICA開設予定の銀行と打ち合わせて手続を進めていく形になる。
 以下では、各手続の概要と、それが行われる背景等について説明する。
(注1)Circular No. 19/2014/TT-NHNN
(注2)Circular 06/2019/TT-NHNN

(2)4つの手続の概要
 現地法人設立後の親会社立替金の精算に関しては以下の4つの方法がある。

①外国送金での返済
 親会社に外国送金で返済する方法である。この方法が手続的には最もシンプルであるものの、法令上当該手続が可能であると明記されていないことから、銀行によっては外国送金での返済を受け付けていないケースも多い。そのような場合に以下のいずれかの方法がとられる。

②資本金への振替
 現地法人に出資する際に、親会社が立替金債権を現物出資する方法である。この手続の留意点は、立替金債権により現地法人に出資をしたという十分なエビデンスを用意しておかないと、税務調査等で資本金の払込が未了であるとの指摘を受ける可能性がある点だ。また、同様の理由から、この手続を受け付けていない銀行もある。

③親子ローンに切替えて返済
 親子ローンについては、外国送金での返済が可能であると法令に明記されている。したがって、立替金を親子ローンに巻き替えて、その上で外国送金により返済する方法である。当該手続は、立替金を親子ローンに巻き替える手間が発生する一方、法令上比較的問題が少ないため、銀行によっては勧めているケースがある。
(注)親子ローンへの振替は、現地法人設立前のみに認められ、設立後は認められないため、注意が必要(取引銀行による)

④親会社への債権と相殺
 現地法人が親会社あての債権を有している場合に、当該債権と立替金を相殺する方法である。この方法は、現地法人設立後にすぐに親会社への債権が発生する IT ベンダー等の会社でとられることが多い。一方で、設立後すぐに親会社への債権が発生しない製造業等においては、立替金が未精算の まま長期化してしまう可能性があるため、お勧めできない。

おわりに
 2019年9月の通達によって立替金にかかる手続は大幅に緩和されている。一方で実務においては法令で明確になっていない部分が多いこともあり、通達の発行から半年以上たった現在においても、法解釈、実務面が固まっていない。そのため現地法人を設立する際には、立替金についても取扱銀行に確認し、十分な知識を有する外部の専門家等と相談をしながら手続を進めていくことをお勧めする。特に税務面については細心の注意を払う必要があるのだが、それは次回のレポートでくわしく解説したい。

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