Reportレポート

ベトナムの個人所得税②課税対象所得、控除項目

2020/10/05

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 本稿では、ベトナム個人所得税の基本事項である課税対象給与所得および控除項目について説明する。
 課税対象給与所得は、給与・賞与に加えて様々な手当や福利厚生が課税対象となっており、想定以上に高額になってしまうことが多いため、特に理解しておくべき点である。また、法令上認められている控除項目を正しく理解することで、不要な税金の過払いを防ぐことも大切である。本稿が個人所得税の更なる理解の一助になれば幸いである。(参考:シリーズ第1回「ベトナムの個人所得税① 居住者判定、税率、申告・納税方法」

1.課税対象範囲
①ベトナム居住者(注)の課税対象範囲
 ベトナム国内源泉所得だけでなく、日本等ベトナム国外も含めた全世界所得が課税対象となる。

②ベトナム非居住者(注)の課税対象範囲
 ベトナム国内源泉所得が確定できる場合にはベトナム国内源泉所得が課税対象となり、確定できない場合は全世界所得をベトナム滞在日数で日割り計算した額に会社負担の各種手当(ベトナムでのホテル代等)を加算した額が課税対象となる。
(注)ベトナム居住者、非居住者の判定基準は、「ベトナムの個人所得税①」を参照

③グロスアップ計算
 駐在員の手取り給与を保証するため、会社が個人所得税を負担する場合、この会社負担の個人所得税は駐在員への報酬とみなされ課税対象となる。そのため、税込の給与総額を算出する際には、手取り給与に各種手当および個人所得税を加えた金額から課税所得を逆算計算するグロスアップ計算を行う必要がある。このことは駐在員一人当たりにかかるコストが大きい一因となっている。

2.課税対象給与所得
 課税対象となる給与所得は、各種手当や福利厚生、個人に対して支払われた会社負担の費用も含まれるため広範囲に及ぶ。近年課税対象外となる項目は徐々に増えているが、会社負担の以下項目は2020年10月現在では課税対象と解釈されているため、申告・納税が漏れないよう注意しなければならない。

①家賃手当、水道光熱費、住宅管理費②健康診断費用(会社全体で受診する場合、および労働許可書取得のための場合は非課税)
③駐在員が休暇で帰国する際の航空券代(社内規定されている場合の年間1 往復分は非課税)
④駐在員の家族が帰国する際の航空券代
⑤駐在員の日本帰任時の引越手当、赴任中の引越手当(ベトナム赴任時の引越手当は非課税)
⑥駐在員が私用および家族が使用するレンタカー代
⑦社内規定で定めた水準を超えた出張手当
⑧ビザ・レジデンスカード取得費用(労働許可証取得費用は非課税)
⑨退職一時金(毎月支給の退職年金は非課税)
⑩語学研修費用(社内規定を用意し、業務に関連する場合は非課税)
⑪ゴルフプレー代、スポーツクラブ会員費、個人名義のゴルフ会員権
⑫学校に支払う学費以外の費用(入学金、交通費等)
⑬会計事務所への個人所得税申告サービスの費用
⑭その他業務に関連しない個人に対する費用

3.控除項目
①給与・事業所得控除
 ベトナム居住者の給与所得もしくは個人事業所得に対して、以下の控除が可能である。

(1)基礎控除
 月11,000,000VNDの控除が可能である。

(2)扶養控除
 被扶養者一人当たり月4,400,000VNDの控除が可能である。主に扶養対象となるのは、18歳未満の子ども、所得のない定年後の配偶者(定年年齢はベトナム労働法に基づく)および平均月収100万VND未満の大学生・専門学生である。必要書類は、法令上出生証明が求められているが、実務上パスポートのコピーおよび戸籍謄本でも認められている。大学生・専門学生の場合は、学生証も併せて必要となる。

(3)社会保険料控除
 社会保険、健康保険、雇用保険といった強制保険の保険料が控除可能である。日本の健康保険、厚生年金、雇用保険も同質の保険とみなされるため控除ができる。その際、ベトナム語版の社会保険料支払証明書の提出が必要となる。

(4)寄付金控除
 法令で定められた団体に対する寄付金は控除が可能である。

②外国税額控除
 他国でも個人所得税を同じ期間に同じ所得に対して重複して納税している場合、日本のようにベトナムと租税条約を締結している国であれば、居住者として申告する国において重複部分を控除できる。ベトナムの法令上、以下のすべての書類の提出が求められている。

(1). 海外の税務署で発行された納税証明書原本(ベトナム語へ翻訳する必要あり)
(2). 海外の個人所得税月次申告書
(3). 海外の個人所得税月次納付書

 日本において、(1)の納税証明書を入手するには、日本の居住者であった期間については、個人で確定申告している必要がある。なお、納税証明書には重複課税期間の納税額の記載が求められるが、日本の納税証明書では一定期間の納税額のみ記載することは難しく、年間納税額が記載される。日本の非居住者の場合は、確定申告は不要で、納税の都度、証明書の発行が可能である。また、(2)および(3)について、日本では個人ごとの月次申告書・納付書を用意することが困難となっているため、説明用の文書を別途用意することが実務上の運用となっている。

 控除する金額については、全額控除できるわけではなく、以下の限度額までとする。
   税額控除限度額=全世界所得に対する税額×(ベトナム国外所得/全世界所得)

 以上より、法令上求められている必要書類を完全に用意することは困難であるため、また、控除限度額により控除できる金額が大きくないこともあるため、重複課税期間がある場合でも控除を申請しないケースも見受けられる。

おわりに
 上述の通り、給与所得は課税対象が広範囲となるため想定以上に税額が高額になってしまうことがある。
 課税対象範囲は頻繁に法令改正が行われているため、最新の法令については専門家に確認することをお勧めする。また、日本同様に所得控除がある一方で、外国税額控除については実務上適用できない可能性がある点に注意すべきである。次回は、給与所得以外の課税対象所得の詳細について説明していく。

以上

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