Reportレポート

2020年企業法および2020年投資法における企業合併・買収取引の規定について

2020/11/16

  • 米国公認会計士
  • 逆井 将也

はじめに
 ベトナムにおけるM&A取引では、主に企業法、投資法、競争法、証券法の4法令が直接重要な影響を持つと考えられる。企業法及び投資法は2020年にベトナム国会で改正法が可決され、2021年1月1日より発効するため、本稿では、2020年企業法および2020年投資法におけるM&A取引に関する規定事項について述べる。

1.2020年企業法
1.1. 大衆会社ではない株式会社の個別引受募集
 2020 年企業法の第125条によると、大衆会社ではない株式会社は個別引受を募集する場合、企業登録機関に通知する必要はない。この手法でM&A取引を実施すると、手続き日数が現行法の規定より5営業日短縮されると理解できる。
その反面、2020年企業法は、個別引受方式の株式販売に対し、現行法に加えて以下の2点を規定する。

(i) まず既存株主に対して引受募集(私募)を実施しなければならない。法令によれば、既存株主の株式優先購入の実施期間は少なくとも15日間となる。
(ii) 株主総会において承認を得た場合を除き、既存株主以外の者に対する残余引受募集株式の引受条件は既存株主の引き受け条件それよりも有利であってはならない。ただし、2020年企業法には引受条件自体については定義されていない。

1.2. 優先株を持つ株主の議決権
 新設合併取引、吸収合併取引または資産総額の35%以上の価額を有する財産の投資、売却取引については、出席株主全員の議決表総数の65%以上を有する株主の承認を得る必要があり、又は書面による意見聴取により決議採択を行う場合、議決権を持つ株主の全議決票総数の50%超を有する株主の承認を得る必要がある。現行法では書面による意見聴取により決議採択を行う場合の採択条件は、議決票総数の少なくとも51%である(※1)。
 2020年企業法は、優先株を所有する株主の権利及び義務について不利となる内容変更のための株主総会決議を行うには、内容が変更される優先株主の75%以上の承認を得なければならない(※2)。すなわち、新設合併取引、吸収合併取引により優先株を保有する株主の義務が増大し、権利が縮小する場合には、普通の新設合併取引・吸収合併取引の総会株主の決議に規定された承認率よりも高い比率の承認が必要になると解釈できる。

1.3. 会社の新設合併・吸収合併
 現行法と異なり2020年企業法では、新設合併における新設合併会社は新設合併契約に基づき被新設合併会社のすべての権利・義務・利益を当然に承継する(※3)。また、吸収合併受入会社は吸収合併契約に基づき被吸収合併会社のすべての権利・義務・利益を当然に承継すると明確に規定された(※4)。つまり、これらの会社の資産・土地・ライセンスなどの所有権は自動的に新設合併会社および吸収合併受入会社に移転されるため、会社の所有権譲渡に関する手続きは資産やライセンスの有効性に影響を与えないと考えられる。

2.2020年投資法
2.1. 企業など経済組織における外国投資家の定款資本保有比率
 外資系企業は、定款資本保有比率に基づいて他の経済組織への出資、株式購入などの手続きにおいて外国投資家として扱われるかどうかが確認される。2020年投資法では定款資本の保有比率が 50%超(現行法は51%以上)(※5)に変更されている。2020 年企業法の二人以上有限会社の社員総会決議採択比率にかかる第59条および株式会社の株主総会の決議採択比率についての第148条と整合させる趣旨であると考えられる。

2.2. ベトナムにおける外国投資家の出資・株式購入・持分購入の条件
 2020年投資法によると、外国投資家が他の経済組織に対して出資・株式購入・持分購入をするためには、 以下の3つの条件を満たさなければならない。

1) 外国投資家に対する市場アクセス条件
2) 国防・治安維持の保障
3) 土地使用権の受領条件、諸島部、国境地方、沿岸部地方の土地使用条件についての土地に関する法令の規定

 上記の規定が追加されたことにより、出資先などが諸島部、国境地方、沿岸部地方の土地を使用する場合、投資登録機関はM&A取引の承認前に、専門管理機関の意見を求めることとなり、審査期間が長引く可能性がある。

2.3. 外国投資家に対する市場アクセス制限事業内容一覧
 前述のとおり、市場アクセスは外国投資家がベトナム経済組織への出資・株式購入・持分購入ために満たさなればならない条件の一つである。
 現状では、外国投資家は概ねベトナム投資家と同等の市場アクセス条件が認められている。しかし、国会の決議、法令、国会常務委員会の決議、政令、ベトナムが加盟する国際条約に基づき、今後、政府は外国投資家に対する市場アクセス制限事業内容一覧を発行・公布すること見込まれる。
 2020年投資法では2014年投資法に規定された22の条件付き事業分野が削除されることに加えて、上述の市場アクセス制限事業分野の規定も外国投資家のベトナムへの出資・株式購入・持ち分購入の投資形態の決定に影響する要素の一つといえよう。

おわりに
 本稿では、M&A取引に関連する2020年企業法および2020年投資法の規定をまとめた。現時点では、これらの規定の詳細については明確な案内が出されていない。ベトナム政府はこれから、政令・通達などの施行案内文書を公布すると思われる。情報があり次第、引き続き記載する。

注釈
※1) 2020年企業法の第148.1条と第148.4条
※2) 2020年企業法の第148.6条
※3) 2020年企業法の第200.4条
※4) 2020年企業法の第201.2条
※5) 2020年投資法の第23条

参考文献
1.2020年企業法 59/2020/QH14号;
2.2020年投資法 61/2020/QH14号;
3.2014年企業法 68/2014/QH13号;
4.2014年投資法 67/2014/QH14号。

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