ベトナム法人の清算手続き~全体フローと実務上の重要ポイント~
2026/08/25
- I-GLOCAL.CO.,LTD ハノイ事務所
- CFE
- 鹿島 妃里子
エグゼクティブサマリー
①清算までの検討プロセス:事業縮小や休眠、M&A・事業承継などを検討した結果、事業の継続・再開や承継が現実的でない場合には、最終的に清算が選択肢となる。
②清算手続きの全体像:投資プロジェクトの終了、税務調査・税務コードの閉鎖、労務対応、銀行口座の閉鎖といった複数分野にわたる手続きが必要となり、完了まで通常1~2年を要する。特に税務調査は、清算完了時期を左右する大きな要因となる。
③税務・労務上の留意点:財務諸表・税務申告、VAT還付、税務調査への対応、従業員への通知・権利精算など、投資・税務・労務の各分野にわたる対応が必要となる。
④早期の準備が重要:経理人材の確保、書類保管・税務調査対応スペースの確保、銀行口座の整理などを含め、清算決定前から全体のスケジュールや必要な対応を整理し、計画的に準備を進めることが重要である。
はじめに
事業環境やグループ戦略の変化に伴い、企業が海外拠点の再編や撤退を検討する場面は少なくない。ベトナムにおいても、ベトナム統計総局(GSO)の2025年通年確定データによると、同年中に清算手続き待ちとなった企業は約7万6,900社、清算手続きを完了した企業は約3万5,900社(前年比66.1%増)に達している。
企業が事業から撤退する方法には複数の選択肢があるが、その一つが法人の清算である。本稿では、外国投資企業(以下「FDI企業」)が清算という判断に至るまでの考え方を整理したうえで、清算手続きの全体像と実務上の留意点について解説する。
1. 企業が清算に至るまで
企業がベトナム事業の見直しを行う場合、事業規模を縮小して継続するほか、一時的に事業活動を休止する「休眠」、第三者への株式・持分譲渡、事業・資産譲渡、グループ内再編などによって事業や経営資源を承継する方法など、さまざまな選択肢が考えられる。
事業の継続が困難な場合には、まず事業規模の縮小や休眠が選択肢となる。その後も事業の継続・再開の見込みが立たない場合には、図表に示すM&A・事業承継による事業や経営資源の承継も選択肢となる。事業や資産の状況などから承継が現実的でない場合や、M&Aなどを検討しても条件面で合意に至らない場合には、最終的に法人そのものを終了させる「清算」が選択される。
一方で、FDI企業の清算には、投資・税務・労務など複数分野の手続きが必要となり、完了まで長期間を要する場合もある。そのため、清算を選択肢として検討する段階から、必要な期間やコストを把握し、計画的に準備を進めることが重要である。
次章より、企業の清算手続き※に焦点を当て、手続きの流れや留意点を解説する。
※本稿では、企業法上の「解散」およびこれに伴う資産・債務の整理を含む一連の手続きを総称して「清算手続き」という。
2.清算手続きの全体フロー
清算は大きく8つのステップで構成され、特にステップ6の税務調査が最も時間を要する手続きとなる。以下に、ベトナム拠点数が「ベトナム法人のみ」の場合の清算フローを説明する。

〔ベトナム法人に紐づく駐在員事務所や支店はどうなる?〕
ベトナム法人が駐在員事務所、支店、営業拠点などの従属拠点を有する場合、法令上、企業の清算申請を行う前に、当該従属拠点の活動終了手続きを実施する必要がある。
一方で、従属拠点の活動終了手続きと企業の清算手続きを並行して実施できるのか、また、従属拠点の活動終了が完了していない段階で企業の清算手続きを開始できるかについては、法令上明確な規定がなく、解釈の余地がある。
この解釈によって清算手続き全体の進め方や所要期間が変わる可能性があるため、従属拠点を有する企業については、清算手続き開始前に所管の税務当局や財務局などへ事前確認を行うことが望ましい。
3.会社清算時の取扱い~税務・労務~
清算手続きにおいて実務上最も複雑かつ時間を要するのが、税務および労務に関する対応である。
以下では、各手続きの概要と主な留意点を整理する。
3-1 税務
(1)財務諸表の作成と監査
解散決定日を基準日として最終期の財務諸表を作成する。この財務諸表は「継続企業の前提」に基づかない特別な形式で作成する。FDI企業は法定監査が義務付けられており、財務局・税務局・統計局・工業団地/輸出加工区管理委員会(要請があった場合)への提出が必要である。
(2)最終期の付加価値税(VAT)・個人所得税(PIT)申告
最終課税期間(企業によって月次または四半期)のVAT申告およびPIT申告を税務局へ提出する。提出期限は、月次申告の場合は翌月20日、四半期申告の場合は翌四半期の最初の月の末日である。未納税額がある場合は申告書の提出と同時に納付する。
(3)法人税(CIT)・個人所得税(PIT)確定申告
清算決定日から45日以内に、CITおよびPITの確定申告書類と納税証明書を税務局へ提出する。未納税額がある場合は、確定申告と併せて納付する。PIT確定申告完了後は、従業員に対して源泉徴収票を交付しなければならない。
(4)VAT還付
企業の清算時に未控除の仕入VATが残っている場合、VAT還付を申請することができる。ただし、VAT還付を申請する場合には税務調査において還付内容の確認が行われるため、清算手続きが長期化する可能性がある。そのため、VAT還付の実施有無を含め、全体スケジュールを事前に検討することが重要である。
〔VAT還付はいつ実施すべき?〕
VAT還付制度にはいくつかのケースがあるが、清算を検討するFDI企業が実務上利用する機会が多いのは、主に次の2つである※。
① 輸出取引に係るVAT還付
通常の事業活動期間中において、「輸出取引に係るVAT」について月次/四半期ごとに還付を行う。企業が当該月/四半期に輸出貨物・サービスを有し、未控除の仕入VAT額が3億VND以上である場合、月次/四半期単位で還付を受けることができる。一方で「国内取引に係るVAT」は会社稼働中には還付申請ができず、②の清算手続き時に実施する。
② 清算手続き時のVAT還付
会社稼働中に還付を受けられなかったVATを含め、過納税額または未控除の仕入VAT額について還付申請を行うことができる。清算にかかる税務調査が長期化した場合には、数年にわたってVAT還付を受けられないリスクがある。そのため、「輸出取引に係るVAT」の還付残高がある場合には、清算手続きに入る前にできる限り還付申請を完了させておくことが資金繰りの観点から重要である。
※この他に、新規・増設の投資プロジェクトに対する還付制度もあるが、稼働中の企業の投資段階に関するものであり、清算段階にある企業には通常関係しないため、本稿では割愛する。
(5)税務調査
清算通知が財務当局に届いた後、税務局はその権限に基づき税務調査の決定を下す。会社側から税務当局に積極的に連絡し、会社に適した日程を協議する必要がある。FDI企業は移転価格・VATなどについて特に厳格に調査される傾向がある。以下の書類を事前に整備しておくことが重要である。
• 法的書類:IRC(投資登録証明書)、ERC(企業登録証明書)など
• 会計記録:帳簿・伝票・財務報告・監査報告書
• 税務申告書類:企業において発生する各税目(付加価値税、法人税、個人所得税、外国契約者税など)に関する書類一式(申告書、計算書、納税証明書などを含む)を十分に準備する。
• 移転価格資料:対象年度の移転価格文書
• その他:従業員関連書類、扶養控除申請書類、還付申請書類(ある場合)
〔実務上で検討すべきポイントとは?〕
その1:経理人材の確保!
清算手続き中、雇用契約は法的に終了するが、会社の状況に精通したチーフアカウンタント(会計主任)や経理スタッフの支援は、税務調査の過程において依然として不可欠な役割を果たす。実務では以下の対応が取られるケースがある。
• 税務調査完了まで業務委託契約を締結し、経理人材に継続協力を依頼する
• 協力に対するインセンティブとして、法定を超える退職手当や特別報奨金を設定する
• 清算プロセス開始前に、残留してもらいたい人材との条件交渉を行う
その2:書類保管・税務調査対応スペースの確保!
清算手続き中、オフィスの賃貸借契約は手続き完了前に解約することになるが、税務調査時にはスペースが必要になる。実務では以下の対応が取られるケースがある。
• 税務調査完了まで書類を保管できる場所(月貸しトランクルームや小規模オフィスなど)を確保する。
• 税務調査当日は当局が訪問して帳簿確認を行うため、会議室などが必要になる。レンタルオフィスやシェアオフィスを月単位で契約し、必要な期間だけ利用するのが費用対効果に優れている。
その3:銀行口座の事前整理!
会社清算手続きの開始後も銀行口座は原則として凍結されず、入出金を行うことは可能である。しかしながら、清算期間中に新たな取引が発生した場合には、その内容について税務当局から確認を求められることがあり、税務調査や会社清算手続きの長期化につながるおそれがある。このため、定期預金の解約など必要な資金整理は会社清算手続き開始前に済ませ、清算期間中の取引を最小限に抑えることが望ましい。
(6)通関・税関手続き(輸出入実績がある場合)
輸出入実績がある場合には、原材料・機械などの最終精算報告書を税関当局に提出する必要があり、税務調査と並行して実施可能である。詳細については、所管の税関局にご確認いただきたい。
3-2 労務
(1)労働契約の終了
企業法上、会社は清算決定書の発行日から7営業日以内に、労働者に対して会社の解散を通知しなければならない。また、労働法上、企業が清算する場合には、会社が活動終了について通知した時点で労働契約は終了するものとされている。
一方、実務上は、清算時点より前に会社が労働者へ通知を行い、労働者との合意により労働契約を終了させるケースが多く見られる。この場合、労働契約は合意解約となるため、労働法上の解雇予告期間に関する規定を適用する必要はない。
(2)外国人労働者の労働許可証・レジデンスカードの返納
一方、実務上は、清算時点より前に会社が労働者へ通知を行い、労働者との合意により労働契約を終了させるケースが多く見られる。この場合、労働契約は合意解約となるため、労働法上の解雇予告期間に関する規定を適用する必要はない。
(3)従業員への権利精算
労働契約終了後から30日以内に以下を支払う。
• 未払給与・賞与・各種手当
• 未消化有給休暇の買い取り
• 退職手当(勤続12カ月以上の場合、勤続1年につき0.5カ月分)
※退職手当の計算対象期間について、試用期間・病気休暇・産休などは含まれる。失業保険加入期間や過去に失業保険に相当する金額の支給を受けた勤務期間は算定対象から除外される。
(4)社会保険の手続き
労働契約が終了した月に「労働者数の減少報告」を社会保険機関へ提出する。労働契約終了日から30日以内に社会保険手帳の閉鎖手続きを行い、従業員に返却する。
〔外国人従業員の強制保険還付手続きとは?〕
ベトナムの強制保険制度に加入していた外国人従業員は、労働契約の終了などの一定の要件を満たす場合、本人の申請により社会保険一時金を受給することができる。還付申請は退職後に社会保険機関へ直接申請するものであり、会社としては社会保険手帳の閉鎖・返却と退職を証明する書類(労働契約終了確認書など)の交付が必要となる。手続き詳細については、以下のレポートをご参照いただきたい。
https://www.i-glocal.com/report/260316/
4.まとめ:管理者が押さえるべきポイント
管理者が事前に押さえておくべきポイントをチェックリスト形式で整理した。自社の状況と照らし合わせながらご確認いただきたい。
おわりに
企業がベトナム事業を見直す際には、事業規模の縮小や休眠、M&A・事業承継など、さまざまな選択肢が考えられる。その結果、最終的に清算を選択する場合でも、FDI企業の清算には税務、投資、労務など複数分野にわたる手続きが必要となり、完了まで長期間を要することが見込まれる。清算手続きを円滑に進めるためには、手続きの全体像や必要な期間・コストをあらかじめ把握し、清算決定前から計画的に準備を進めることが重要である。
清算期間中に駐在員が帰任し、現地スタッフが退職した場合でも、各種手続きや税務調査への対応などを外部のコンサルティング会社に委託できる場合もある。社内での対応が難しい場合には、必要に応じて早い段階から専門家へ相談することが望ましい。
参考文献
・企業法(2020年第59/2020/QH14号、2025年法律第76/2025/QH15号により改正・補足)
・投資法(2025年法律第143/2025/QH15号)
・労働法(2019年第45/2019/QH14号)
・税務管理法(2025年第108/2025/QH15号)
・インボイス・証憑を規定する政令254/2026/ND-CP
・社会保険法(2024年法律第41/2024/QH15号)
・企業登録に関する政令(政令第168/2025/ND-CP号)
・投資活動の実施に関する政令(政令第96/2026/ND-CP号)
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・企業の事業活動を停止する際の重要な注意点

