外国投資家の利益送金手続きおよび実施時の留意点
2025/06/26
- Le Thi Hang
はじめに
外国投資を呼び込み、経済発展を加速させることは、ベトナムの経済政策における毎年の最重要課題の一つとなっている。近年、ベトナムは外国投資の誘致において、目覚ましい成果を上げており、FDIは経済発展を支える柱として定着しつつある。経済の構成要素の中でも、外国投資企業は成長を牽引する主要なプレーヤーとなっている。外国投資家がベトナムに進出する主な目的の一つは、投資による利益の獲得にある。企業が安定的に事業を行い、毎年継続して利益を上げられるようになれば、投資家自身の投資資金を回収する段階を迎えることになる。本稿では、外国投資家がベトナムで得た利益を本国に送金する際の一般的な手続きと、実施にあたっての留意点について解説する。
1. 企業利益および海外への送金の定義
経済学における「利益」とは、投資に関連するコストを差し引いたうえで得られる純資産の増加分、すなわち総収益と総費用の差額を指す。企業においては、一定期間の事業活動によって得た収益から、これに要した費用を差し引いた残余が利益となる。
ベトナム財政省の通達(186/2010/TT-BTC、2010年11月18日付)第2条では、外国投資家による利益送金可能額とは、投資法に基づくベトナム国内での直接投資活動から得た合法的利益のうち、国家への財政義務をすべて履行した後の金額を指すと定義されている。
2. 海外への利益送金の条件
外国投資家が毎年または投資活動終了時に利益を海外へ送金するためには、以下の条件をすべて満たす必要がある。
・会計年度終了後、企業がベトナムの法令に基づきすべての財政義務を履行していること
・監査済み財務諸表および法人税確定申告書を所管の税務当局へ提出済みであること
・税務上の繰越欠損金が発生していないこと
3. 海外への利益送金額の確定
財務省通達186/2010/TT-BTC第3条では、送金可能額は貸借対照表上の繰越利益剰余金と考えられ、以下の計算式が規定されている。
利益送金額(繰越利益剰余金) =累積利益(※) -(再投資分+既送金分+国内使用分)
(※ )累積利益は、今までの監査済み財務諸表および法人税確定申告書に基づいて計算される。プロジェクト終了時には、監査または検査後の実績値に基づいて算定される。
4. 海外への利益送金の手続き
利益の配分および送金を決定した場合、外国投資家および投資先企業は、税務当局および取引銀行に対して所定の書類を準備・提出する必要がある。
① 税務局への提出書類
・利益送金通知書(通達186/2010/TT-BTCの規定様式)
・外国投資家による委任状(企業に税務手続きを委任した場合)
・利益送金額を裏付ける資料:
⚪︎有限責任会社:社員総会の利益配分決定書(原本)、投資家の決議書(原本)
⚪︎株式会社:株主総会による利益配分に関する決議書(原本)
⚪︎必要に応じて、税務担当者が求める詳細な数値説明資料
⚪︎対象年度または期間の監査済み財務諸表(写し)
⚪︎対象年度または期間の法人税確定申告書(写し)および申告の承認通知
② 銀行への提出書類について
・税務局が承認した利益送金通知書(写し)
・利益送金額を裏付ける資料:
⚪︎有限責任会社:社員総会の利益配分決定書、投資家の決議書(原本または写し。銀行の判断に基づく)
⚪︎株式会社:株主総会による利益配分決議書(原本または写し。銀行の判断に基づく)
⚪︎対象年度または期間の監査済み財務諸表(写し。銀行によっては公証が必要)
⚪︎対象年度または期間の法人税確定申告書(写し)および申告の承認通知
税務局に利益送金通知書を提出後、7営業日以内に税務担当者が企業に連絡し、利益送金通知書上の数値、監査済み財務諸表上の数値、税務システム上の未納税額(ある場合)、過去の送金利益額などに関する情報を確認する。要件を満たしている場合、税務局からは特段の通知は発行されず、7営業日経過後に銀行が送金手続きを進めることが可能となる。
一方、累積利益を上回る送金額の申請、税務システム上の未納ステータス、書類不備等がある場合には、税務局から企業および銀行に対し書面通知が送付され、企業に修正対応や追加資料の提出が求められる。
5. 留意点
I. 迅速な送金のための事前対応
利益送金を円滑に行うには、事前に「国家予算に対する納税義務履行確認通知書」を取得し、未納税額がある場合は速やかに解消することが望ましい。確認書の取得および関連手続きは、財務省通達80/2021/TT-BTC第70条に基づいて実施される。未納税金の処理完了後、税務局へ利益送金の申請書類を提出することを推奨する。
II. 委任状に関する留意点
外国投資家が、税務局への送金通知手続きを投資先企業に委任する場合、企業は委任状を準備する必要がある。従来、委任状に対する領事認証手続きは求められていなかったが、近年一部の企業が手続き時に、政令111/2011/NĐ-CP第4条第2項に基づき、領事認証の必要性を指摘されるケースが見られる。政令上、外国投資家からの委任状は領事認証の免除対象ではないため、事前に税務担当者へ確認しておくことが望ましい。
III. 送金通貨および為替レートの明示
国外への利益送金は、現金または物品の形態で行うことができるが、一般的には外貨による送金が主流である。この場合、送金額の換算に用いる為替レートを、利益配分決定書に明記しておくことが推奨される。
IV. 追加資料の要求可能性
税務局や銀行は、申請手続きに際し、状況に応じて追加の関連資料を求める場合がある(本稿の第4項に記載されていない書類を含む可能性がある)。そのため、提出前に税務局・銀行の各担当者と事前に協議し、必要書類を確認しておくことが重要である。
おわりに
国外への利益送金は、複雑な手続きではないものの、国家機関の監督下で行われるため、一定の実務対応が求められる。円滑な送金を実現するためには、関係法令の内容を正しく把握し、事前に必要書類を準備するとともに、税務局・銀行の各担当者と協議し、具体的な手続きや書類に関する助言や指導を受けることが有効である。
参考文献
・企業法2020
・税務管理法2019
・政令111/2011/NĐ-CP
・通達186/2010/TT-BTC
・通達80/2021/TT-BTC