Reportレポート

2025年雇用法の主な改正点

2025/11/12

  • Tran Thanh Phuong Thao

はじめに

2025年6月16日、2025年雇用法は国会において可決され、2026年1月1日より施行される。従来の2013年雇用法と比べ、改正法では失業保険、失業手当および労働データの管理に関する重要な改正点が多数追加され、労働者の利益拡大と福祉向上を目指すとともに、雇用者の責任と義務をより厳格にしている。本稿では、法令順守を念頭に置いた企業の能動的な対応を促すため、2025年雇用法の主な改正点を説明する。

1. 失業保険の加入対象者の拡大

2025年雇用法は、2024年社会保険法(2025年7月1日より施行)との統一性を確保するため、失業保険の加入対象者を拡大し、より厳格化している(失業保険はベトナム国民である労働者にのみ適用される)。具体的な内容は以下のとおりである。

内容 2025年雇用法 2013年雇用法 見解
対象1 無期労働契約または1カ月以上の有期労働契約で働いている。
(労働契約と異なる名称で合意または契約を締結している場合でも、賃金を得ており雇用者の管理、運営、監察を受ける内容である場合も対象)
無期労働契約または1カ月以上の有期労働契約で働いている。 実際には、一部の雇用者が社会保険や失業保険制度への加入義務を回避するため、労働契約を結ぶことなく、共同作業合意や請負契約などの異なる名称の合意または契約を締結しているケースがある。

そのため2024年社会保険法および2025年雇用法では、労働契約と名称が異なる1カ月以上合意または契約であっても、その性質が労働契約とみなされるものについては、失業保険の適用対象となることが明記された。

対象2 下記条件を満たすパートタイム労働者は失業保険加入対象となる。
・1カ月以上の有期労働契約または無期労働契約によりパートタイムで働いている。
・月給が社会保険料算定基準の下限と同等かそれ以上である。
対象無し 2025年雇用法では、失業による所得補填を目的とした社会保障の拡充方針に基づき、失業保険への加入ニーズと支払能力を有する新たな労働者層が追加された。本改正は、給付範囲の拡大に留まらず、制度の公平性と運用効率の向上にも資するものである。

 

 

対象3 給与を受給していない企業管理者、取締役会役員、社長、ディレクター、監査役会の役員、監査など
(注:本規定は ベトナム人にのみ適用され、外国人労働者には適用されない)
対象無し

この改正に従い、来年の改正法施行後には、雇用者は新たに失業保険の加入対象となる労働者を特定したうえで、対象者の登録手続きを行う必要がある。

2. 失業保険制度の改正

内容 2025年雇用法 2013年雇用法 見解
失業保険制度 (1)  雇用相談および紹介への支援
(2)  労働者の職業技能訓練および技能向上支援
(3)  失業手当
(4)  雇用者へ職業技能訓練、養成および技能向上に対する支(構造・技術変更、経済的理由、自然災害、火災、戦災、感染症流行等による雇用維持のため)
(1)   失業手当
(2)   雇用相談および紹介への支援
(3)   職業学習に対する支援
(4)   労働者の雇用を維持するための職業技能訓練、養成および技能向上に対する支 援
従来の失業保険は主に労働者へ支援していたが、現在は組織再編・技術革新、経済的困難、感染症などの影響を受けた場合に、雇用者も失業保険制度に基づき、支援を受けられる。本規定により、雇用者にとって雇用維持や生産活動の安定を図ることができ、同時に失業保険基金の効果的な活用も見込まれる。

支援額および申請書類、手続きの詳細については、今後公布定政令にて規定される予定である。

緊急事態発生時の支援 経済危機、不況、自然災害、火災、戦災、感染症流行が発生した場合には、実際の状況および失業保険基金の剰余金に基づき、政府が失業保険の拠出率の引き下げ、金銭支援、またはその他の支援措置を規定する。 無し この改正には危機、自然災害、感染症などの異常かつ緊急な状況に柔軟的で能動的に対応できる内容となっている。

これにより、困難な時期における労働者および雇用者の経済的負担を軽減し、雇用の安定、生産・経営活動の継続、そして社会保障の確保という目標の実現に寄与する。

 3.雇用者の失業保険拠出義務を明確

2025年雇用法において、雇用者の失業保険への拠出義務がより厳格に規定されている。従って、雇用者は労働者に対して失業保険を完全に拠出する義務がある。拠出遅延または未拠出の行為は、2024年社会保険法に基づき以下のとおり処分される。
(i)   未拠出/遅延拠出保険料の納付、未拠出/遅延日数×0.03%の延滞金の納付
(ii) 法令に基づく罰金等の行政処分または刑事責任の追及
(iii) 競争表彰・表彰制度における受賞対象からの除外
本規定の追加は、労働者の権利保護、雇用者の責任の強化とともに、実際の失業保険の未拠出・遅延拠出の状況を抑制する働きが期待される。法令に基づく処罰を回避するため、雇用者は失業保険の申告および拠出義務を期限内に実施する必要がある。

4.労働者登録および労働者データベースに関する新規定

2025年雇用法は労働管理における科学技術・電子取引の活用強化を方針とし、雇用者および労働者に対する労働者登録義務の規定を追加した。これらの情報は、総合国家データベース、国家データベース、専門分野のデータベース、その他関連データベースと連携・更新・同期・共有されることになる。したがって、雇用者および労働者は、社会保険の加入情報の登録・修正の際、労働者登録情報の登録および修正義務が発生する。登録情報は以下のとおりである。
(1) 基本情報:姓、ミドルネーム、名、個人識別番号、生年月日、 性別、民族、現住所
(2) 教育情報:高等教育、職業教育、大学教育、職業技能証明書およびその他の証明書
(3) 就業状況および雇用ニーズに関する情報
(4) 社会保険および失業保険に関する情報
(5) 登録者の特性・特徴に関するその他の情報

2026年1月1日以降、労働者情報の登録は雇用者および労働者に対する義務となる。現時点では登録手続きの詳細の手順や方法が定められていないが、今後公表される政令により公表される予定である。関連規定が施行され次第、雇用者および労働者は能動的に内容を把握し、準備・実施を行い、最終的には労働・雇用に関する国家データ基盤の整備に貢献することが求められている。

おわりに

このように、2025年雇用法では、失業保険の加入対象の拡大や労働者の権利保護の強化など、雇用者・労働者双方に新たな義務を課す多くの重要な新規定が導入された。本改正法により、特に失業時のリスクが軽減され、より良い労働市場の実現を目指しているものと整理できる。

参考文献
 ・2019年労働法
 ・2024年社会保険法
 ・2013年雇用法
 ・2025年雇用法

関連レポートはこちら

本テーマに関連するレポートを以下で紹介しています。ぜひ、あわせてご覧ください。
パートタイム労働の雇用に関する法令および留意点
外国人労働者が複数の勤務地で勤務する場合における留意点 

本レポートに関する
お問い合わせはこちら