外国人労働者に対する労働許可証発行手続きに関する「政令219/2025/ND-CP」の改正内容
2025/10/27
- Nguyen Thuy Trang
はじめに
2025年8月7日、ベトナム政府は政令152/2020/ND-CPおよび政令70/2025/ND-CPに代わる、外国人労働者の管理に関する新たな政令219/2025/ND-CP(以下「政令219」)を施行した。政令219は、行政手続きの簡素化や処理期間の短縮化、従来の運用における不備の是正を目的とした重要な改革として評価されている。本レポートでは、政令219の主な改正点および実務上の影響について解説する。
1. 労働許可証の発行・更新手続きおよび労働許可証の免除手続きの変更
1.1. 労働許可証の発行・更新手続きの簡素化について
従来の規定では、労働許可証の発行・更新手続きは以下の3ステップであった。
① 外国人労働者の採用予定職位に対してベトナム人を募集する。
② 外国人労働者の使用計画を確定する。
③ 労働許可証の発行・更新を申請する。
政令219では、手続きが以下の2ステップに簡素化された。
① 外国人労働者の採用予定職位に対してベトナム人を募集する。
実施期限は、ステップ2の予定日の少なくとも5日前までとなる。この手続きは、労働契約を締結する形態で労働許可証を申請する場合にのみ適用する。社内異動や業務委託契約の履行など他の形態で就労する場合は、次のステップ2のみを実施する。
② 外国人労働者の使用計画を確定し、労働許可証の発行・更新を申請する。
実施期限は、外国人労働者の就労予定日から起算して60日以内かつ10日以上前までとする。
企業は、外国人労働者の就労形態(労働契約、社内異動、業務委託契約等)を正確に特定し、それに応じた手続きを選択し、申請書類の準備を行うことが必要とされる。
1.2. 労働許可証免除に該当する場合について
政令219 は引き続き、外国人労働者が労働許可証の対象外となるケースについても明確化している。企業は、規定に応じて (i) 「免除申請手続き」 または (ii) 「当局機関へ免除通知」のいずれかの手続きを行う必要がある。
重要な改正点として、「WTOとベトナムの間で市場開放が合意された11のサービス分野」における社内異動の場合に手続き (i) を行うことが求められている点がある。ここで「社内異動」の要件がより詳細に規定されており、以下の条件をすべて満たす場合のみ社内異動と認められると解釈される。
・親会社からベトナムにおける以下3つのいずれかに派遣される場合
1. 外国投資企業(ベトナム法人)
2. 駐在員事務所
3. 外国企業の支店
親会社からベトナム企業の「支店」へ派遣される場合や、投資家ではない同一グループ会社から派遣される場合は、この要件を満たさない。
・ベトナム法人の親会社にてベトナムでの就労直前まで少なくとも12か月間継続して雇用されていること。すなわち、過去に親会社で長年勤務した経歴があっても、その後グループ内の別会社で勤務してからベトナムにスライドで派遣される場合は、この要件を満たさない。
また、手続き (i) に該当する場合、手続きの工程は従来の3ステップから1ステップのみに簡素化された。さらに、従来の「新規」に加え、「再発行」と「更新」の手続きが新設された。これにより、免除申請後の有効期限切れ、免除確認書の紛失・破損などの場合のガイドが明らかにあった。
一方、手続き (ii)に関して2つの重要な改正がある。1つ目は、外国人労働者がベトナム人と結婚している場合、従来は手続き (i) が必要とされたが、今後は手続き (ii) のみ実施すれば良い。2つ目は、短期滞在就労に関する従来の「30日未満かつ年間3回まで」という免除要件が一新され、「暦年(1月1日から12月31日まで)で累計90日未満」と変更された。この変更により、企業が短期間で外国人専門家・技術者を招聘する際の柔軟性が高まったと言える。
2. 専門家・技術者・役員に関する条件の変更
| 対象 | 政令152および政令70 | 政令219 |
| 専門家(Expert) | ①大学卒以上または同等の学位を有し、関連分野での実務経験が3年以上あること。または、②関連分野で最低5年間の実務経験を有し、かつ専門職資格も有すること。 | ①大学卒以上または同等の学位を有し、関連分野での実務経験が2年以上あること。または、②特定分野(科学、技術、金融デジタルなどの優先分野)については、大学卒以上の学位を有し、関連分野で実務経験が1年以上あること。 |
| 技術者(Technician)
|
①1年間以上の研修を受け、関連分野での実務経験が3年以上あること。または、②関連分野での実務経験が5年以上あること。 | ①1年間以上の研修を受け、関連分野での実務経験が2年以上あること。または、②関連分野での実務経験が3年以上あること。 |
| 役員 (Executive Manager) |
①企業の支店、駐在員事務所、営業所の代表者。または、②組織や企業の1つ部署を統括・直接運営し、かつ組織や企業のトップの直接指揮下で業務を遂行する責任者。 | ①企業の支店、駐在員事務所、営業所の代表者。または、②組織や企業の1つの部署を統括・直接運営し、その分野においてベトナムで従事予定の職務に適合する実務経験が3年以上あること。 |
上記の通り、政令219 は専門家と技術者に関する要件を緩和した。これらの変更により、質の高い人材をより容易に確保でき、採用期間の短縮や人材リソースの最適化が可能となる。一方で、役員については関連分野での3年以上の実務経験が必要となり、要件は厳格化された。
3.その他の重要な変更点
3.1. 労働許可証申請と合わせた無犯罪証明書の申請制度の導入
政令219では、労働許可証申請と同時に無犯罪証明書をオンライン申請できる。企業が労働者から委任を受け、国家公共サービスポータルを通じて申請すれば、結果は労働許可証発給機関に直接共有される。処理期間は、無犯罪証明書発給期間と労働許可証発給期間を合算したものとなる。
3.2. 定期報告義務の廃止
従来は外国人労働者の使用状況を定期的に報告する義務があったが、政令219では廃止された。今後は所轄機関が電子データシステムで直接管理するため、企業側の報告業務は不要になる。
おわりに
全体として、政令219はベトナムにおける外国人労働者の労働許可証の申請手続きをより簡便にすることを目的に制定され、今後手続きがよりスムーズになることが期待される。しかし、実務上は各地方労働当局の解釈や見解に寄るところも大きいため、企業は労働許可証に関して所轄官庁と事前に協議・確認を行い、留意点を確認することが重要である。
参考文献
・政令219/2025/ND-CP
・政令152/2020/ND-CP
・政令70/2025/ND-CP


