2025年上半期における移転価格規制の主な改正点のアップデート
2025/10/24
- Dang Thi Thanh Truc
はじめに
2025年上半期において、ベトナムの移転価格規制に関する複数の重要な改正および施策が公布された。商業データベースや移転価格分析ツールの活用を通じた税務当局の管理体制強化、関連当事者関係の定義や借入利息の取扱いに関する明確化、さらにはAPA制度における権限委譲と手続の簡素化など、国際課税分野の透明性と効率性の向上を指向した改革が進展している。以下にて、主なポイントを解説する。
1. 175/TCT-CNTT に関する通知
― 移転価格分析ツールおよび商業データベースソフトの利用に関する研修
2025年1月13日付で、税務総局は「175/TCT-CNTT」を発行し、商業データベースソフトおよび移転価格分析ツールの利用・活用に関する研修を実施することを通知した。税務局が企業の税務対応状況を適切に管理できるように、税務総局は商業データベースおよび移転価格分析ツールの利用権限を税務局単位で付与した。
① 商業データベースおよび移転価格分析ツールの利用・活用について:
・各税務局に対して、商業データベースおよび移転価格分析ツールにアクセス可能なアカウントを1つ付与する。
・税務局は、税務総局から付与されたアカウントを署内の特定の部門に管理を委託し、署内全体で共同利用できるようにする。アカウントの管理を委任された部門は、強固な情報セキュリティを確保し、他の部門が商業データベースおよび移転価格分析ツールを活用する際に支援する義務を負う。
② 税務職員に対する研修・利用指導の実施について:
・利用する商業データベースはOrbis、移転価格分析ツールはTP Catalystとする。
・移転価格ツールおよびデータベースの活用方法について説明を行い、利用に関する技術サポートを提供する。
本公文書は、税務当局が移転価格分析ツールの更新・適用を一層重視し、税務管理業務を刷新し、調査・検査や関連者取引管理の目的において、情報をより効果的に活用できる体制を整備している。
2. 政令20/2025/NĐ-CPによる主な改正
2025年2月10日に公表された政令20/2025/NĐ-CPは政令132/2020/ND-CPの改正法で、2024年の法人所得税期間から適用される。主な内容は以下の通りである。
2.1 一部の関連当事者関係に関する改正および補足
| 政令132号第5条第2項 | 政令20号第1条 |
| 関連当事者関係類型d):ある企業が他の企業に対して、形式に関わらず、保証または資金の貸付を行う場合(関連当事者の資金により担保された第三者からの借入を含み、その他性質的に同様の金融取引を含む)、その借入資金が借入企業の出資持分の少なくとも25%に相当すること、かつ借入企業の中長期債務総額の50%を超える割合を占めること。 | 改正:[…]借入総残高が借入企業の払込資本金の少なくとも25%に相当し、かつ借入企業のすべての中長期債務総残高の50%を超える場合。
以下のいずれかの場合には適用されない。 |
| 関連当事者関係 類型 k) その他の事例として、一方の企業が他方の企業の事業活動について、実質的に経営、支配および意思決定を行っている場合。 |
補足: その他の事例として、企業(独立採算で法人税の申告・納付を行う支店を含む)が、他の企業の事業活動について、実質的に経営、支配および意思決定を行っている場合。 |
| 関連当事者関係 類型 m) 言及なし | 補足:信用機関と、その子会社、または信用機関を支配する会社、もしくは信用機関の関連会社との関係は、信用機関法の規定による。 |
2.2 借入利息の繰越に関する経過に関する規定の明確化
2020年~2023年の期間において、企業が項目d) に規定される信用機関とのみ関連当事者取引を有し、2025年の政令第20/2025/ND-CPの改正により「関連当事者」として認定されない場合、2024年度以降の課税年度における取扱いは以下の通りとする。
・企業は関連当事者関係および関連当事者取引が存在しない場合(政令132および改正政令の規定による): 2023年度末までに税務上損金算入が認められなかった借入利息のうち、まだ翌年度以降に繰り越していない分については、政令132に定められた期間に従い、残存期間で均等に配分し、毎年少しずつ損金算入ができる。
・企業は関連当事者関係および関連当事者取引が存在する場合(政令132および改正政令の規定による): 税務上、当該年度に損金として認められず、翌年度以降にも繰り越されていない借入利息については、引き続き政令132に従って処理する。
3. ベトナムにおける事前合意制度(APA)の仕組みに関する重要な変更点
2025年6月11日、政府は税務管理分野における権限委譲・分権を規定する政令第122/2025/ND-CPを公布した。課税価格の算定方法に関する事前合意制度(APA)の仕組みは、税務運営・管理に関する全般的な改革方針に沿って調整された。
政令122は、政令第126/2020/ND-CPと比較して、APA適用における手続の分権化をより詳細かつ明確に規定し、簡素化している。具体的には以下の通りである。
・二国間・多国間APAに関して国際条約や国際協定の締結手続・順序に従い、政府や首相にAPA締結の意見を求める手続を廃止し、財務大臣が直接APAの承認権限を行使する。これにより処理手続が短縮されることが期待され、国際的な慣行とも整合する。
・税務総局はAPAの内容について協議・交渉を行い、必要に応じて関連部門に意見を求めたうえで、当局の方針を策定し、財務大臣の承認を受ける。その後、承認された方針に基づき、納税者および外国税務当局と協議・交渉を行い、交渉内容に基づいてAPA案を作成、財務大臣に提出・署名を求める。
このように2025年7月1日から施行される政令122により、財務省および税務総局はほとんどのAPAについて承認・締結を決定できるようになり、従来よりもAPA締結完了までの期間が短縮される見込みである。
おわりに
政令改正および税務当局の施策は、移転価格を含む国際課税分野における管理強化と制度運営の効率化を指向している。企業においては、これらの動向を的確に把握し、内部体制の整備およびコンプライアンス基準の引上げを不断に行うことが、将来の税務リスクを回避し、安定的な事業運営を確保するために不可欠である。
参考文献
・2025年1月13日付で公表された公文書第175/TCT-CNTT号(商業データベースソフトウェアおよび移転価格分析ツールの利用・活用に関する研修について)。
・2025年2月10日付の政令第20/2025/ND-CP。
・税務管理分野における権限委譲・分権を規定する政令第122/2025/ND-CP.
・税務管理法の一部規定を具体化する政令第126/2020/ND-CP。
関連レポートはこちら
本テーマに関連するレポートを以下で紹介しています。ぜひ、あわせてご覧ください。
・ベトナム事業の利益率に影響する移転価格税制
・移転価格の税務調査で焦点となるベンチマーク分析


