外国人労働者が複数の勤務地で勤務する場合における留意点 はじめに
2025/08/18
- Nguyen Thi Thuy Nhi
はじめに
人材の最適化を図る中で、多くの外国企業は、一人の外国人労働者に複数のポジションを兼務させ、人材活用の効率化と労務コストの削減を目指している。本レポートでは、ベトナム国内において複数の勤務地で勤務する外国人労働者に係る規定および実務状況を明確にし、規定の遵守と労務リスク回避に向けて企業が留意すべき主要なポイントを説明する。
1. 複数の勤務地で勤務する外国人労働者とは
ベトナム国内において複数の勤務地で勤務する外国人労働者は、主に以下の二つのケースに分類される。
1つ目のケースは、単一の使用者(企業)に雇用されているものの、外国人労働者が実際には同一または異なる省・市に複数の勤務地を持つケースである。この形態は、本社とは別に駐在員事務所、支店、営業拠点などの従属部門を有する企業に多く見られる。
2つ目のケースは、外国人労働者がベトナム国内の複数の独立した企業で勤務するケースである。複数の子会社を抱えるグループ企業において、海外の親会社が一人の外国人労働者を管理者や専門家としてベトナム国内の複数の子会社に配置することが見受けられる。また、同一グループに属さない複数の企業において、個別に外国人労働者が勤務するケースもある。
2. 複数の勤務地で勤務する外国人労働者に関する留意点
外国人労働者がベトナム国内において複数の勤務地で勤務する場合、単一企業内であっても、複数企業にまたがる場合であっても、単一勤務地での勤務に比べて、より多くの手続きや複雑な課題が発生する。したがって、使用者(企業)および労働者は、以下の点に十分留意する必要がある。
2.1. 単一の使用者に雇用され、複数の勤務地で勤務する場合
労働許可証について:
原則として、外国人労働者は労働許可証に記載された内容に従ってのみ勤務することが認められている。そのため、複数の勤務地で勤務させる場合、企業は各勤務地に対応する労働許可証を取得する必要がある。勤務地が複数の省・市にまたがる場合、労働許可証の申請は内務省の管轄となる。一方、同一省・市内での複数勤務地の場合は、地方の内務局の管轄となる。
しかし、実務上、内務省への申請手続きは依然として煩雑であり、多くの企業は、それぞれの勤務地ごとに地方内務局を通じて個別に労働許可証を申請する方法を取っている。
労働契約の締結について:
外国人労働者が単一企業で複数の勤務地に勤務する場合の労働契約締結義務は、各労働許可証に記載された「勤務形態」に基づいて判断される。労働法上、労働許可証に「労働契約による勤務形態」と記載されている場合、企業はその内容に基づいて外国人労働者と労働契約を締結しなければならない。従って、企業は労働許可証に記載された勤務形態を確認した上で、必要となる労働契約締結手続きを適切に行う必要がある。
ビザおよびレジデンスカードの申請について:
外国人労働者が複数の勤務地で勤務する場合でも、ビザの申請は1回のみでよく、その後、レジデンスカードも1枚取得すれば、ベトナムでの合法的な滞在が認められる。勤務地ごとに別々のレジデンスカードを取得する必要はない。
2.2. 複数の使用者に雇用され、複数の勤務地で勤務する場合
労働許可証について:
外国人労働者が勤務する企業が同一グループの子会社、または全く関係のない独立企業は、どちらもベトナムの法律上、各企業が独立した法人と扱われる。従って、各企業はそれぞれの外国人労働者に対して自社での勤務に必要な労働許可証を個別に取得しなければならない。つまり、ある企業で取得した労働許可証を他の企業での勤務に流用することはできない。
ただし、すでに有効な労働許可証を取得済みの外国人労働者が、同一の職種・職位で別の企業でも勤務する場合、第2の労働許可証以降の申請においては、健康診断書や無犯罪証明書の提出が免除されるという、優遇措置がある。この制度を活用することで、企業は手続きの時間やコストを削減することが可能となる。
労働契約の締結について:
単一企業での勤務と同様に、外国人労働者と雇用関係を結ぶすべての企業は、労働許可証に記載された「勤務形態」を確認し、労働契約の締結が必要かどうかを判断する必要がある。
ビザおよびレジデンスカードの申請について:
外国人労働者が複数の企業で勤務する場合でも、ビザおよびレジデンスカードの申請は、いずれか1社が行えば問題ない。どの企業がビザ・レジデンスカードの申請手続きを行うかは、事前に当事者間で協議し、合意しておくことが望ましい。
3. 社会保険、健康保険および個人所得税に関する留意点
3.1 社会保険および健康保険の加入義務について
外国人労働者が複数の勤務地で勤務する場合、各使用者は以下の2点に留意する必要がある。
①外国人労働者が社会保険・健康保険の加入対象となるかの確認
すべての外国人労働者がベトナムで社会保険・健康保険に必ず加入しなければならないわけではない。加入義務が発生するのは、以下の条件をすべて満たす場合のみである。
・労働契約の期間が12か月以上であること
・以下のいずれにも該当しないこと
○ 企業内異動(労働許可証に記載された勤務形態がこれに該当)
○ 労働契約締結時点で既に定年年齢に達している場合
②社会保険・健康保険の納付先の確認
外国人労働者に加入義務がある場合、勤務形態に応じて納付方法が異なる。
・単一企業内で複数の勤務地がある場合:企業および外国人労働者は、本社所在地の社会保険機関または各拠点(支店・駐在員事務所など)の所在地の社会保険機関のいずれかで手続きを行うことができる。
・複数の企業で勤務する場合(複数の雇用契約がある場合):すべての企業で加入義務が発生する場合には、以下の原則に従って処理する。
社会保険 | 健康保険 | 労災・職業病保険 |
最初に締結した労働契約に基づき加入 (*) | 社会保険に加入している労働契約に基づき加入(原則最初の労働契約) | すべての労働契約に基づき加入 |
なお、外国人労働者が保険加入対象外となる企業で勤務する場合、その企業は保険料相当額(企業負担分)を給与に上乗せして支払う義務がある。
3.2. 個人所得税について
外国人労働者は、勤務先が一社・複数社に関わらず、ベトナム国内のすべての勤務先から得た所得に対して、個人所得税を申告・納付する義務がある。ただし、居住者・非居住者の区別および勤務先の数により、税務義務に違いがある。
項目 | ベトナム居住者 | ベトナム非居住者 | ||
一社で複数勤務地 | 複数企業勤務 | 一社で複数勤務地 | 複数企業勤務 | |
課税所得 | ベトナム国内すべての勤務地からの所得 | ベトナム国内すべての勤務地からの所得 | ベトナム国内で発生した全所得が課税対象 | ベトナム国内で発生した全所得が課税対象 |
税率 | 累進課税(5%〜35%) | 累進課税(5%〜35%) | 一律20% | 一律20% |
年末調整 | 一社のみから給与所得があり、且つ現時点で在籍している場合は委任可 | 自己申告が必要 | 年末調整不要 | 年末調整不要 |
おわりに
外国人労働者を複数の勤務地で勤務させる場合、勤務形態を法令遵守のもとで円滑に適用するために、企業はまず労働関係の実態を正確に把握し、必要に応じて行政機関に確認することが重要である。その上で、労働許可証・ビザ・レジデンスカードの取得、労働契約の締結、社会保険・健康保険・個人所得税の履行義務といった各種手続きを適切に行うことで、法的リスクを最小限に抑えることができる。
参考文献
・2019年労働法
・政第152/2020/ND-CP号(政令第70/2023/ND-CP号により一部改正)
・2024年社会保険法
・2024年改正健康保険法
・個人所得税法および関連政令、通達
・決定第595/QD-BHXH号(決定第888/QD-BHXH号により一部改正)
(*) 現時点で具体的な規定はないが、2024年社会保険法第2条5項a点に基づき、ベトナム人労働者の社会保険納付原則を準用