Reportレポート

ベトナム法人税の概要と法改正の主要ポイント

2025/08/05

  • I-GLOCAL CO., LTD. ホーチミン事務所
  • 谷口 裕哉

はじめに
ベトナムの法人所得税(CIT)の標準税率は 20%で維持されており、アジア諸国の中でも比較的低水準に位置づけられる。そうした中、実に 12 年ぶりとなる法人税法の大規模改正が、2025 年 6月 14 日に国会で可決された(Law 67/2025/QH15、以下「改正法」)。今回の改正では、標準税率20%は維持された一方で、納税義務者の範囲拡大に加え、従来の優遇制度の見直しや中小企業向けの新たな優遇制度などが盛り込まれ、政府による中小企業・スタートアップへの支援方針もうかがえる内容となっている。本稿では、現行法人税制度の概要を整理するとともに、本改正法における改定ポイントを解説する。

1. 現行法人税(CIT)の概要

まず現行のベトナム法人税の税制概要について、下記表に主な事項をまとめる。

税率 20%
課税年度 設立時に 3 月、6 月、9 月、12 月から自由選択
申告納税時期 会計年度の終了後 3 か月以内(例: 3 月決算の場合は6月末)
計算方法 20%*{収益 + その他所得 – (損金算入費用, 非課税所得, 繰越欠損金)}
予定納税 企業自ら当期の所得を基に四半期ごとの予定納税と、課税対象期間末の確定申告が必要
第 4 四半期での仮納税額の合計が確定申告定申告額の 80%に満たない場合、当該差額に対する延滞税を納税しなければならない。
繰越欠損金 5 年間繰越可能
優遇税制 製造業 2 年間免税 +その後 4 年間 50%減税
ソフトウェア開発 10%を 15 年間適用かつ
最初 4 年間は免税 + その後 9 年間は50%減税
困難な経済・社会条件の地域等での新規投資プロジェクト 17%を 10 年間適用
減免期間 単年度で課税所得が発生した課税対象期間から起算
3期連続で欠損金が出ている場合、4年目から自動的に減免期間が開始

2. 法改正の主要ポイント

・納税者の範囲の拡大
今回の改正で、ベトナムでの物理的な事業所を持たない非居住事業者を対象に、課税義務を課す旨が明確化された。外国法人がベトナム国内に子会社を有する場合は対象外とな る。

海外事業者からのサービス提供に対してベトナム法人が源泉徴収義務を負う従来の FCT(外国契約者税)に加え、外国事業者自身が税務当局へ直接申告納付する方法も選択肢に加わった。海外事業者自身が税務ポータル経由で登録・申告を行う仕組みであり、VAT(付加価値税)に加え、提供サービスの内容次第で法人税の納付も必要となる。外国事業者が登録を選択するか否かは任意であるが、今後は取引先のポータル登録有無や課税方式を都度確認する必要がある。各サービスに対する具体的な法人税率については、今後の政令・通達で税率が具体化される見通しである。

表① 新たに追加された納税義務者

対象者 具体的な内容
海外事業者 ベトナムに恒久的施設(PE)を有さない事業者で、電子商取引やデジタルプラットフォームを通じて事業を行う者
プラットフォーム管理者、電子商取引管理者 上記海外事業者あるいはプラットフォーム上で活動する個人に代わり源泉徴収・納付を行うプラットフォーム管理者、電子商取引管理者

・優遇税制の各種見直し
  ○2免4減の廃止
  これまで、工業団地への新規進出・拡張投資には一律で「2 年間免税+4 年間 50%減税(いわゆる 2 免 4 減)」が適用されてきたが、改正法ではこの優遇が完全に撤廃される。その他立地条件(例:困難な経済・社会条件を持つ地域)に基づく優遇措置は維持されており、今回の改正ではあくまで工業団地内に所在することに対する優遇措置のみが廃止される。
  なお、既存の工業団地に所在する企業が改正法施行後も残余期間について引き続き「2免 4 減」を適用できるか否かについて改正法上は不透明となっており、今後のアナウンスを待つ必要がある。今後、製造業の新規設立法人の適用判定基準も論点になるが、 2025 年 9 月 30 日以前に投資登録証明書(IRC)または企業登録証明書(ERC)を取得済である場合に、優遇適用が可能となるのか、または稼働開始日や法人税課税年度の開始時点を基準とするのかについても現時点では明確な指針が示されておらず、今後の細かい政令等で明確化される見込みである。

  ○中小企業への新優遇制度
  特定条件を満たす中小企業に対しては売上規模に応じた段階的な優遇税率が適用され、新設法人に対しては3年間の免税が適用される。優遇適用の基準となる売上高は、原則として前年度の法人所得税課税期間の売上に基づいて判定する。
  一方で、改正法内ではこの優遇税率が適用除外対象となるケースも定めており、例えば持分譲渡により生じたキャピタルゲインや、ベトナム国外で得た所得については対象外となる。特に下記表①の(2)のケースは、企業グループ内でいずれか一社でも要件を満たさない会社(すなわち売上高 500 億 VND 超)が存在する場合は、グループ全体が優遇税率の適用対象外となる見込みである。
  改正法の条文では、このグループの定義は不明確となっており、外国の親会社や支店が含まれるか、あるいはベトナム国内に法人格を持つ企業に限られるかについては明記されていない。しかし弊社見解としては、多くの進出日系企業のように親会社が下記の売上条件を満たさない大型企業である場合、小規模なベトナム子会社を分離して優遇税率を適用するようなスキームは、改正法上認められない可能性が高い。

表②:中小企業への優遇制度一覧

対象企業・適用要件

税率

優遇税率     前年度売上高基準
30 億 VND (≒1,800 万円)以下 15%
30 億VND 超~500 億VND(≒ 3 億円) 17%
優遇適用の対象外となるケース
(1)  資本譲渡・株式譲渡による所得
(2)  適用要件を関連者を有する企業グループ
(3)  国外事業で生じた所得
(4)  不動産譲渡による所得
(5)  石油・ガス・希少鉱物の採掘で得られた所得
(6)  特別消費税対象製品の製造販売所得(酒・たばこ等)
新規法人免税 中小企業(SME) 分類基準(*)を満たす企業商業・サービス業の場合
年平均の社会保険加入従業員数:100 人以下
年間売上高:1,000 億 VND(約 18 億円)以下
総資本額:3,000 億 VND(約 6 億円)以下
*政令 80/2021/ND-CP に詳細規定
設立後3 年間免税

・新たなキャピタルゲイン課税
従来は外国法人による非上場株式の譲渡について、法令上の明確な規定がなく、有限会社に準じた扱い(譲渡益の 20%課税)を適用するケースや、そもそも課税されないとする実務判断も見受けられた。これに対し、今回の改正では株式会社の非上場株式を含む譲渡が明示的に課税対象とされ、取扱いが明確化された点が重要である。

また、譲渡対象の会社を外国法人が「直接管理」しているか否かによって課税方法が区分される点にも留意が必要である。具体的には、外国親会社がベトナム子会社の経営・事業活動に直接関与していると認められる場合は従来通りの譲渡益の 20%課税が適用されるが、直接的な管理や運営に関与していない場合には、より簡便的に譲渡価格総額に対する定率課税(現草案では 2%)が適用される見通しである。

なお、ここでいう「直接管理」の具体的な定義や判定基準については、現時点では改正法上 明文化されておらず、今後公布される政令または通達等のガイダンスを注視する必要がある。

表③ : 資本譲渡取引で発生する CIT 税率

譲渡対象会社 現行規定(~2025/9/30) 改正法(2025/10/1~)    草案ベース
売手属性
ベトナム法人 外国法人 ベトナム法人 外国法人
有限会社 譲渡益の20% 譲渡益の 20% 譲渡益の20% ・譲渡対象会社を直接管理している場合譲渡の 20%
・譲渡対象会社を直接管理していない場合譲渡の 2%
株式会社
(非上場)
FCT(CIT 部分)
譲渡額の 0.1%
* 対象会社が非上場株式会社である場合, 有限会社持分の売却と類似の取引と判断され、税務当局によって譲渡益の 20%が適用されるケースが見受けられる
株式会社
(上場)
FCT(CIT 部分)
譲渡額の 0.1%

 おわりに
今回の改正では、中小企業向けの低税率制度の導入や優遇対象業種の拡大により、適用できる企業の幅が広がる一方、適用除外の明確化や要件の厳格化により、グループ企業や投資プロジェクトを有する企業では慎重な判断が求められる。今後ベトナム進出を検討する日系企業に関しては、早期に自社の適用可能性を精査するとともに、今後の法令整備を注視しながら進出メリットを検討していく対応が求められる。現行の改正案ではまだ不明確なポイントも多く、今後の政府アナウンスや関連政令の公布内容を踏まえ、随時内容をアップデートしていく予定である。

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