Reportレポート

2025年7月1日に施行される改正健康保険で外国人労働者が留意すべき事項

2025/07/24

  • Huynh Minh Trang

はじめに

 ベトナムの健康保険は、健康保険法に基づく非営利の強制保険制度であり、医療費の負担軽減を目的としている。ベトナムでの労働契約に基づき働く外国人労働者の加入義務について、これまで明確な規定はなかったものの、実務的に健康保険へ加入することが義務付けられていた。このような状況を踏まえ、多数の改正点が盛り込まれた2024年改正健康保険法(以下「改正法」)は、外国人労働者の強制加入についても明確化した。本レポートでは、改正法における外国人労働者への適用に関する留意点を説明する。

1. 加入対象

 2014年の健康保険法では、外国人を対象とする強制加入規定は個別に存在しておらず、外国人労働者についてもベトナム人労働者と同様に「無期労働契約または3か月超の有期労働契約に基づき就労しているか否か」をもって加入対象の該否を判断していた。
 2024年改正法では、外国人労働者の強制加入対象者が明確化され、社会保険の加入基準と統一された。これにより、ベトナムで12か月超の有期労働契約に基づき就労する外国人労働者は、下記3項目のいずれかに該当しない限り、健康保険へ加入しなければならない。
 ① 法令に定める社内異動者(労働許可証の記載に基づく)
 ② 労働契約締結時点で、労働法第169条第2項に規定される退職年齢に達している者
 ※退職年齢は次の通り、段階的に引き上げられる。
 • 男性:2025年は61歳3か月、毎年3か月ずつ引き上げ、2028年に62歳へ到達。
 • 女性:2025年は56歳8か月、毎年4か月ずつ引き上げられ、2035年に60歳に到達。
 ③ ベトナムが締結する国際条約に別段の定めがある場合
 現時点で、ベトナムと韓国は社会保険協定を発効済みであり、日本との協定は現在交渉中である。(協定の内容は「保険料の二重負担防止」となっている。)

 さらに改正法では、次の2つの区分の対象者が新たに強制加入義務者として明記された。
 ① 給与を受け取っていない企業管理者・資本代表者・取締役会役員・ゼネラルダイレクター・社長・監査役会役員
 ② 無期労働契約または1か月超の有期労働契約に基づき、パートタイムで勤務し月給が社会保険料算定基準の下限以上である労働者

 改正法では、前述の新たな強制加入対象者に外国人労働者が該当するか否かが明確に規定されていない。また、グループ①(無報酬の企業管理者など)については保険料算定の基礎給与および加入手続きに関する詳細が示されておらず、グループ②(パートタイム労働者)についても「社会保険料算定基準」の具体的な内容が未公表である。したがって、実務上は適用前に所管の保険当局へ確認することが望ましい。

 複数の労働契約を有する場合、2014年健康保険法では「最も高額な賃金が支払われる労働契約に基づき加入する」と規定しているが、改正法では「社会保険に加入する労働契約を基準とする」と定めている。すなわち、最初に締結した労働契約に基づき社会保険および健康保険へ加入する。この点が改正法における変更点である。

2. 保険料率及び保険料算定基礎額

 外国人労働者が健康保険の加入対象となる場合の月額保険料率は、ベトナム人労働者と同一で4.5%である。その内訳は事業主負担3%、労働者担当1.5%である。以下の表は、外国人労働者に適用される健康保険を含む各種強制社会保険の拠出率一覧である。

強制保険制度 会社負担 外国人労働者負担
社会保険 年金 14% 8%
傷病・出産 3%
労災・職病 0.5%
健康保険 3% 1.5%
合計 20.5% 9.5%
30%

 健康保険および社会保険の算定基礎となる月額給与は、ベトナム法人との労働契約に定められた賃金に、次の項目を含めて計算する。
 ・職務または役職に基づく基本給与
 ・労働条件、業務の複雑度、生活環境、労働力誘致度など、契約上の基本給与に織り込まれていない、または十分に反映されていない要素を補填する手当
 ・基本給与とは別に金額が明示され、給与支払期ごとに支給される固定手当

 通常、外国人労働者の算定基礎に含まれる手当として、責任手当や役職手当などが挙げられる。
 一方、算定基礎に含まれない手当には、勤務地異動に伴う一時金(1回のみ支払い)、航空券代、業績連動賞与、食費、通勤手当、電話代、住宅手当、子女学費補助などがある。
 規定により算定基礎となる月額給与額には上限が設けられており、基準額の20倍を超えてはならない。2025年7月1日から適用される暫定基準額は2,340,000VND/月であるため、上限は46,800,000VND/月となる。
基準額は今後、消費者物価指数や経済成長率に応じて政府が調整し、国家予算および保険基金との均衡が図られる見込みである。

3. 権利と受給制度

 ベトナムで就労する外国人労働者が健康保険に加入した場合、健康保険証が交付され、ベトナム人労働者と同様の給付を受けられる。自己負担割合は次の通りである。(すべて健康保険の受給範囲がある点に留意)
 ・救急(指定・指定外を問わず):健康保険80%・本人20%
 ・指定医療機関での外来・入院:健康保険80%・本人20%
 ・指定外医療機関での入院:医療機関の等級により異なるが、一般に健康保険40%・本人60%

 健康保険加入手続き完了後、事業主は指定医療機関リストに基づき、各外国人労働者の一次診療機関を登録する義務を負う。当該医療機関名は健康保険証に記載される。
 健康保険証に記載された医療機関を受診した場合は「指定医療機関扱い」、それ以外は「指定外医療機関扱い」となる。
 ※健康保険は、指定外医療機関での外来診療および定期健康診断・総合健康診断には適用されない。

 給付対象範囲は、法令の定める範囲内で以下の費用を含む。
医療技術サービス、医薬品、医療用設備、輸血用血液・血液製剤、医療用ガス、診療に使用する消耗品・器具・化学薬品など。

 ただし、実際には外国人労働者はサービス品質や言語などの懸念を理由に、公立病院での受診や健康保険給付の利用が少なく、国際病院等の私立医療機関を選択する傾向にある。

おわりに
 本レポートでは、外国人労働者に対する健康保険制度の新たな規定および留意点を整理した。2024年改正健康保険法は2025年7月1日に施行されるため、外国人労働者を雇用する企業は、法令遵守を徹底するとともに、外国人労働者が健康保険へ加入する際に給付制度を適切に案内できるよう、上記規定を的確に把握しておく必要がある。

参考文献
・2014年健康保険法
・2024年改正健康保険法
・政令 135/2020/ND-CP号
・通達06/2021/TT-BLDTBXH号
・政令73/2024/ND-CP号

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