2025年ベトナム税務・会計における主要改正ポイントの解説
2025/06/29
- Bui Thi Hang
1.付加価値税法
2024年11月26日、国会より付加価値税法(VAT)第48/2024/QH15号が可決された。本法は2008年付加価値税法に置き換えるものであり、2025年7月1日から施行される。
主な改正点は以下の通りである。
(1) 納税者の範囲の拡大
新たに以下の者が納税義務者として追加された。
対象者 | 具体的な内容 |
海外事業者 | ベトナムに恒久的施設を有さない事業者で、電子商取引やデジタルプラットフォームを通じて事業を行う者 |
プラットフォーム管理者、電子商取引管理者 | 上記海外事業者あるいはプラットフォーム上で活動する個人に代わり源泉徴収・納付を行うプラットフォーム管理者、電子商取引管理者 |
(2) 税率0%適用範囲の見直し
国外向け商品・サービスへの0%税率は維持されるが、保税区域内の組織への提供については「輸出活動に直接関連する」ことが新たな条件として加えられた。
(3) 税率5%対象の見直し
映画関連サービスなど一部の業種が5%適用対象から除外されるとともに、一部肥料製品や漁船、農業機械等が課税対象外から5%課税対象へ再分類された。
(4) 控除のための支払方法に関する新要件
VATの控除を受けるためには、非現金決済が原則とされている。今後も現金決済が認められる可能性はあるものの、その上限額は現行の2,000万ドンから引き下げられる見込みである。
具体的な限度額は、今後公布される政令および通達において定められる予定である。
(5) VATの還付制度の見直し
新規プロジェクトに係る設備投資については、これまでも還付申請が認められていた。一方、既存プロジェクトの拡張に伴う投資については還付が否認されていた。今回の改正により、法令規定の要件を満たす拡張投資についても還付対象となることが明確に示された。
還付申請期限は投資プロジェクト、またはその段階/項目が完了した日から1年以内である。
また、企業の所有権の変更、事業転換、合併、統合、分割、分離などに関連するVAT還付制度は正式に廃止される。
2.インボイス発行ルールの明確化
2025年3月20日に公布された政令第70/2025/NĐ-CPにより、インボイスおよび証憑に関する既存の規定が改正され、同年6月1日から施行されることとなった。本政令では、インボイス発行の時点に関するルールが明確化されており、主な内容は以下の通りである。
取引タイプ | インボイス発行時点 |
商品販売 | 所有権または使用権が買い手に移転した時点(代金受領の有無を問わない) |
輸出取引 | 遅くとも通関完了日の翌営業日まで |
サービス提供 | サービス提供(外国法人・個人へのサービス提供を含む)が完了した時点(代金受領の有無を問わない)。 サービス提供前またはサービス提供中に入金する場合、インボイスの発行時点は入金時点となる。 尚、サービス提供に関する保証金や前払金の回収の場合を除く。(会計、監査、財務・税務に関するコンサルティング、評価の審査、技術設計・調査、監督コンサルタント、建設投資プロジェクトの策定) |
分割納品 | 納品の都度、個別に発行が必要 |
カジノ・電子ゲーム等 | 収益計上日の翌日までに発行が必要 |
3.出入国一時停止の基準が明確化
2025年2月28日、政府は出入国の一時停止に関する基準を定めた政令第49/2025/NĐ-CPを公布し、同日より施行した。これは、未納税金がある納税者やその代表者に対し、一定の条件を満たす場合に出入国を一時的に制限できるとするものである。
(1) 個人事業主・家族経営の代表者
条件項目 | 詳細 |
未納税額 | 5,000万VND以上(約30万円) |
経過期間 | 納付期限から120日以上経過 |
(2) 企業の法定代表者
条件項目 | 詳細 |
未納税額 | 5億VND以上(約300万円) |
経過期間 | 納付期限から120日以上経過 |
その他の条件 | 税務管理法38/2019/QH14号第124条に基づく強制執行の対象となっている場合 |
※「税務管理法38/2019/QH14号第124条」とは、税務債権回収のための強制執行(資産差押え等)が開始されている状態を指す。
(3) 登録所在地で営業を行っていない個人事業主、家族経営の代表者、法人代表
条件項目 | 詳細 |
登録所在地で営業を行っていない個人事業主、家族経営の代表者、法人代表 | 税金の未納がある場合(金額・期間を問わない) |
(4) 特別な出国者への追加審査
条件項目 | 詳細 |
海外移住を目的とする出国者(ベトナム国籍)、既に海外に定住しているベトナム国籍者、ベトナム出国前の外国人 | 税金の未納がある場合(金額・期間問わない) |
※「税金の未納」には、税金本体に加えて延滞金や罰金なども含まれる。
該当者への通知は、etaxmobileアプリ、電子取引用ウェブサイト(https://thuedientu.gdt.gov.vn)、登録メールアドレスなどを通じて行われる。当局から直接送信ができない場合は、税務機関の公式ウェブサイトに通知が掲載される。納税者は定期的に自らの税務義務を確認し、特に出国前には未納の有無を確認することが推奨されている。
4. 近く公布が見込まれる税務・会計関連の改正内容
2025年以降、ベトナムでは複数の税務・会計制度に関する改正や新政令の公布が予定されており、企業として今後の動向を把握しておくことが求められる。以下は、今後公布または可決が見込まれる主な制度である。
・法人税法の改正(施行予定:2026年1月1日)
この改正法案は、2025年5月に開催予定の国会(第9回会期)にて審議・可決される見込みである。改正内容の詳細はまだ公表されていないが、近年のグローバル税制動向を踏まえ、優遇制度の見直しや国際的整合性を意識した内容となる可能性がある。
・個人所得税法の改正(施行予定:2027年1月1日)
2025年10月に国会へ提出される予定であり、同年5月の可決を経て、2027年1月より施行される見込みである。所得区分、控除制度、税率構造の見直しが議論されるとみられており、現行制度に対する大きな影響が想定される。
・グローバル税源浸食防止(BEPS)対応に関する政令
OECDの「グローバルミニマム課税」に対応するため、2023年11月29日付の国会決議第107/2023/QH15号に基づき、補足的法人所得税制度の導入が予定されている。本政令は当初2024年中の公布が予定されていたが、調整の結果、2025年に延期された。これにより、多国籍企業に対し最低15%の実効税率が適用される見通しである。
・付加価値税法 第48/2024/QH15号の運用に関する政令(公布予定:2025年7月以前)
2025年7月に施行予定の新付加価値税法に対する実務ガイドラインとして、補足政令の公布が見込まれている。具体的な税率の適用範囲、還付要件、非課税取引の解釈など、企業が実務運用するうえで不可欠な詳細が示される予定であり、事前の確認と準備が推奨される。
・VAT税率引き下げ継続に関する決議案
現在、2025年6月30日までの期間に限り、一部の商品・サービスに対しVAT税率が10%から8%に引き下げられている。これを2026年末まで延長する提案が、2025年4月23日に政府から国会へ提出された。本決議案が可決された場合、2年連続での税率軽減が実現する見込みであり、売上管理や請求書発行業務への影響が続くこととなる。
・企業会計制度通達の全面改正(公布時期未定)
財務省は、企業会計制度に関する2014年12月22日付通達第200/2014/TT-BTC号の代替として、新たな通達の草案を公表した。これはIFRSへの段階的移行を目的とし、当初は2025年1月施行予定だったが、公布は2025年末〜2026年初頭に延期される可能性がある。初期段階では大企業が対象だが、将来的に中堅企業にも影響が及ぶ見通しである。
参考文献:
付加価値税法48/2024/QH15号
政令70/2025/NĐ-CP
政令49/2025/NĐ-CP
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