ベトナムの付加価値税(VAT)還付の概要と法改正による影響
2025/06/06
- I-GLOCAL CO., LTD.
- 米国公認会計士
- 渡 柚輝
ベトナムの付加価値税(VAT)の仕組みは、日本の消費税と概ね同じ考え方に基づいているが、VAT還付の法令や実務には大きな違いがある。日本では消費税の確定申告と同時に還付申請を行い、約2か月で還付金が振り込まれる。しかし、ベトナムにおけるVAT還付は、現在、審査にかなり時間がかかり、ハノイなど北部では申請から還付まで数か月ほどで、ホーチミンなどの南部では数年が必要となるケースも見られる。
また、VAT還付手続きは審査時に求められる書類が多いことや還付の適用条件が複雑なことに加え、税務当局の審査基準や実務運用が地域ごとに異なるため、企業は慎重に対応する必要がある。
本稿ではベトナムのVAT還付の概要と2024年11月26日に可決され、2025年7月1日より施行される法改正がもたらす影響について解説する。
1. VAT還付の概要
日系企業のほとんどは売上に係るアウトプットVATから仕入に係るインプットVATを控除して申告する控除方式を採用している。控除方式においては、アウトプットVATが累積し、所定の要件を満たした場合に税務当局からVAT還付を受けることが可能である。
実務上、日系企業が押さえておくべき、VAT還付対象となる条件は大きく3つある;
各項目 | 条件の詳細 | 法令 |
① 新規投資プロジェクト | 初期段階(建設・設備導入等)で累積3 億VND以上のインプットVAT | Decree49/2022/NĐ-CP |
② 輸出取引(0 %) | 輸出インプットVATが3 億 VND以上 (還付上限=輸出収入10 %) |
Circular 219/2013/TT-BTC |
③ 解散・清算・破産 | 事業終了時点の未控除または過納VAT | Circular 219/2013/TT-BTC |
上記条件を満たした場合、VAT還付申請を提出することが可能となる。
2. VAT還付の必要書類と手続きの流れ
A. VAT還付の必要書類
VAT還付に必要とされる書類は以下の通りである。(2025年7月1日に施行される法改正も反映)
I. すべてのケースで必要とされる書類
基本書類 | 1. 還付申請書 (Form 01/HT) 2. 仕入インボイス一覧 (Form 01-1/HT)*1 3. 還付対象期間のVAT申告書・附票(Form 01/GTGT) 4. 会計帳簿・試算表・財務諸表(未控除VAT残高を裏付け)(要求された場合) |
支払証憑 | 5. 銀行振込控・インターネットバンキング明細など非現金決済の証拠*2 |
契約類 | 6. 商品・役務の 売買/サービス契約書(取引実在性を示す) |
*1:電子インボイスを税務局へ送信済みなら省略可
*2:改正前は2,000万VND以上の取引のみ必要だが、改正後はすべての取引に対し必要となる
II. 新規投資 & 拡張投資プロジェクトのケース
(Ⅰに加え、以下の資料も準備)
追加書類(新規投資) | 1. 投資登録証明書(IRC)または投資許可が分かる資料 2. 資本金払込証明書 3. 建設許可・土地使用権資料(自社工場や倉庫の建設などがある場合) 4. 設備購入契約書 5. 新規投資進捗・完了の実体証憑(完了日を明確化)*1*2 |
追加書類(拡張投資) | 以下の“拡張投資”を証明する関連書類(変更後のIRC写し等) 1. 拡張投資を反映した IRCの写し 2. 拡張フェーズ進捗・完了の実体証憑(完了日を明確化)*1*2 |
*1:完了日から 1 年以内に申請する必要あり
*2:IRC上に記載された生産開始予定日と実際の生産開始日を比較し、実際の開始日が遅れている場合、生産開始前のインプットVATについて還付申請すると否認されるケースがある点、留意が必要。その場合はDOFもしくは工業団地管理委員会へ、生産開始の進度調整に係る申告書の提出を実施することが推奨される。
II. 輸出取引(0 %VAT)のケース
(Ⅰに加え、以下の資料も準備)
追加書類*1 | 1. 税関輸出申告書リスト Form 01-2/HT 2. 輸出契約書・商業インボイス*2 3. パッキングリスト 4. 船荷証券または航空運送状(取引実態に応じて) 5. 貨物保険証券(CIF取引の場合は必須でCIP取引も原則提出を求められる) 6. 代金受領の銀行証憑*3 |
*1:No.3 – 5は改正後に必須となる
*2:買い手の支払い用の銀行口座番号の記載が必要で、記載がないと還付できないケースが多い
*3:改正前は2,000万VND以上の取引のみ必要だが、改正後はすべての取引に対し必要となる
B. VAT還付の具体的手続き
VAT還付手続きの具体的な還付までの流れは以下の通りである。
1) VAT還付に係る証憑の整理および還付申請書(Form 01/HTなど)を準備
2) 還付申請書類を提出後、審査開始
3) 政府より銀行振込(または未納税額と相殺)
手続きの流れ自体は複雑ではないが、2)の審査でかなりの時間が必要となっている。地域により審査期間も大きく変わり、ハノイなどの北部では基本的に数か月ほどで審査が完了するが、ホーチミンなどの南部では数年が必要となるケースも見られる。
ホーチミンの審査が非常に長いことについてはホーチミン市税務局側も把握しており、2025年4月に公布されたOfficial Letter No. 563/CT-NVTにて還付処理のスピードについて改善の指示が出ている。
3. 法改正によるVAT還付手続きへの影響
2025年7月1日から有効となる法改正により、日系企業のVAT還付に係る状況が大きく変わるため、影響がある事項について適切に把握することが重要である。以下にて、VAT還付に係る法改正の主な事項を取りまとめる。
項目 | 具体的な内容 | 実務への影響 |
拡張投資も還付対象と明文化 | 累積 3億 VND以上、完了後 1 年以内の2つを満たす拡張投資について、申請可能となる。 | 既存工場のライン増強などもVAT還付対象となる。ただし申告期限が短いため、拡張投資を実施する段階からVAT還付の準備を進めることが推奨される。 |
輸出還付の必須資料を列挙 | パッキングリスト、船荷証券または航空運送状、貨物保険証券が必須資料として追記された。 | 必要資料が明確になった一方で、提出資料が増え、それにより確認作業時間が長期化することが想定される。 |
金額を問わず、非現金決済証憑が必須化 | 従来は 2,000 万 VND 以上の取引のみ提出義務があったが、今後は全取引に対し銀行送金・カード等の証憑が必須となる。 | 現金取引を廃止し、金額に関わらず、すべての取引を銀行・デジタル決済へ移行させる必要あり。 |
仕入先の納税状況と還付の連動強化 | 税務総局が還付処理時に仕入先のアウトプットVAT 納付情報を自動突合。不納付業者が混在すると当該インボイス分の還付を保留・却下。 | 適切な資料を準備していたとしても、取引先の状況次第ではVAT還付が否認され、想定以上に還付額が減少する恐れあり。 |
組織再編(合併・分割・株式譲渡)は還付対象外へ | 新法は「所有権変更・再編に伴う残余 VAT は還付しない」と明記。 | グループ再編前に 未控除 VAT をゼロ化(控除 or 還付申請) する資金計画が必要となる。 |
再輸出(輸入→他国へ転売)取引は還付対象外 | 輸入通関してインプットVAT を支払った商品を、その後ベトナムから他国へ再輸出した場合、当該インプット VAT は還付されない と条文化。 | 取引スキームを見直し、純粋な「輸出」の該当性を事前に確認。再輸出型ビジネスではVAT コストが残る前提で価格設計が必要。 |
本改正により、これまで各省や担当官の裁量によって否認されるケースがあった拡張投資に関するVAT還付が明確に還付対象として認められ、日系企業にとって有利な環境となる。一方で、輸出時に求められる書類の増加や非現金決済の義務化など、VAT還付に関連する証憑管理の厳格化が進んでいる。企業は還付申請に必要な証憑を正しく理解し、取引時点で確実に取得し管理することが求められる。
実際にVAT還付を進める場合には、最新の税務当局の目線を踏まえた対応が重要となるため、ベトナムのVAT還付に精通した会計・税務の専門家に相談することを推奨する。
【問い合わせ先】 I-GLOCAL CO., LTD.
担当:渡 柚輝 yuzuki.watari@i-glocal.com
ホーチミンオフィス +84-28-3827-8096 ハノイオフィス +84-24-2220-0334