ベトナムでの小売店舗(2号店以降)設立時の経済需要審査の留意点
2025/05/02
- Nguyen Minh Tuan
はじめに
経済需要審査(以下、「ENT」)は、外国投資資本を有する経済組織(以下、「FDI企業」)が第2号以降の小売店舗の設立許可を申請する際に、重要な役割を果たす手続きの一つである。本稿では、FDI企業がベトナムでの小売業拡大を円滑に進めるために、ENT手続きの規定と必要な手続きを説明する。
1. ENTとは?ENT手続きの実施が必要なケース
小売分野におけるENT(Economic Needs Testの略称)とは、FDI企業が第2号以降の小売店舗を設立する際、その許可の必要性を判断するためにベトナムの管轄機関が実施する市場の経済需要審査である。
ENTの規定が適用されるのは、ベトナムで第2号以降の小売店舗を設立するFDI企業であり、FDI企業とは以下のいずれかに該当する企業を指す。
(i) 外国投資家が出資比率50%超を保有する、または、合名会社において外国人が多数の無限責任社員として出資している企業
(ii) (i)に該当する経済組織が51%以上の出資比率を保有する企業
(iii) 外国投資家と(i)に該当する経済組織が合計で51%以上の出資比率を保有する企業
ただし、第2号以降の小売店舗が500㎡未満の面積であり、ショッピングモール内に設立され、かつコンビニエンスストアまたはミニスーパーマーケットに該当しない場合は、ENT手続きの対象外となる。
そのため、FDI企業は、ENT手続きを実施する必要があるかどうかを判断するために、設立を予定する小売店舗の番号、面積、所在地、形態などの基本情報を事前に評価する必要がある。
2. ENT手続きにおいて適合すべき基準
番号 | 基準 |
1 | 小売店舗の運営が影響を及ぼす地理的市場エリアの規模 |
2 | そのエリア内で営業中の小売店舗の数 |
3 | 市場の安定性やエリア内の他の小売店舗、伝統的市場の営業活動への影響 |
4 | 交通密度、環境衛生、防火・消火に与える影響 |
5 | 以下の点における経済・社会発展への貢献度 ・国内労働者の雇用創出 ・エリアにおける小売業の発展と近代化への寄与 ・地域住民の生活環境・生活条件の向上 ・国家予算への貢献能力とその程度 |
管轄機関はこれらの基準に基づいて小売店舗の設立予定地の適合性を審査し、設立の可否を判断する。そのため、FDI企業が小売業拡大を検討する際には、ENT手続きを円滑に進めるために、事前に市場調査を行い、各基準に適合する店舗設立計画を策定することが不可欠である。
3. ENTが必要な小売店舗設立許可の審査権限と承認手続き
ステップ | 内容 | 管轄機関 | 流れ (詳細は政令09/2018/ND-CP第29条(以下、政令09という)を参照) |
ステップ1 | 基準適合性の初期確認 | 小売店舗所在の省・市の商工局 | FDI企業は、小売店舗の設立許可を申請する際、政令09第27条に基づくENT基準適合性の説明書を含む第2号店以降の小売店舗設立の申請書類を提出する。 省・市の商工局は、政令09第22条に基づき、小売店舗設立基準の適合性を審査し、次のステップに進むためにENT審査委員会の設立を提案する。 |
ステップ2 | 審査 | 小売店舗所在の省の人民委員会により設立されるENT審査委員会 | ENT審査委員会はENT基準を評価し、委員会議長が結論提案書を作成する。 ENT審査委員会は、省の人民委員会の代表または委任された機関の代表を議長、商工局、財務局(旧計画投資局)、建設局、自然資源環境局、交通運輸局などの関係機関の代表で構成される。 |
ステップ3 | 承認 | 小売店舗所在の省・市の商工局及び 商工省 | 商工局は、ENT評議会議長が設立許可を提案した場合、その内容を商工省に報告し意見を求める。 商工省は審査を行い、設立許可の承認をするか否かを決定する。 |
ステップ4 | 結果発表 | 小売店舗所在の省・市の商工局 | 商工省が許可を承認した場合、商工局が小売店舗設立許可書を発行する。 |
ENT手続きが必要な場合、許可申請から承認までの審査期間は通常3〜4か月を要する。そのため、審査の長期化を避けるためには、十分な準備を行い、適切な事業計画を策定することが重要である。 また、関連法令に基づき、ENT基準を詳細に説明できるよう準備を整えることも求められる。
4. ベトナムにおける第2号店舗以降の小売店舗設立許可申請に対するENT手続きの適用状況
現在、ベトナムは自由貿易協定(FTA)に基づき、FDI企業に対するENT手続きを以下の通り、段階的に撤廃することを約束している。
・EU・ベトナム自由貿易協定(EVFTA):2025年8月1日より撤廃
・環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP):2024年1月14日より撤廃
・ベトナムとイギリスの間の自由貿易協定(UKVFTA):2025年8月1日より撤廃
ただし、現時点ではENT手続きの撤廃に関する具体的な法令は制定されておらず、FDI企業は依然として管轄当局に確認を行い、ENT手続きの要否を慎重に検討する必要がある。
おわりに
ENT手続きは、第2号店舗以降の設立において重要な役割を果たし、企業の事業展開に大きな影響を及ぼす。FDI企業は、ENTの基準を十分に理解し、市場を評価した上で、申請に必要な書類を適切に準備することが求められる。また、法改正やFTAによる規制緩和の動向を注視し、最新の要件に対応できるよう備えることが重要である。
参考文献
商法および外国貿易管理法の詳細を規定する政令09/2018/ND-CP号