労働に関する損害賠償責任の種類
2025/03/20
- Phan Manh Hung
はじめに
労働に関する損害賠償責任は、労働者と使用者双方の権利や利益を保護するために定められた重要な制度の一つである。これは、公正性を確保し、労働関係の秩序と安定を維持するための仕組みでもある。本稿では、現行法に基づき、労働に関する主な損害賠償責任の種類について体系的に解説する。
1. 労働に関する「損害賠償」の概念
各分野において、損害賠償の規定は主体、範囲、適用形態が異なる。労働分野における損害賠償については明確な定義がないものの、使用者または労働者のいずれか一方が過失により相手方に損失や損害を与えた場合、適切な補償または賠償が求められる。損失や損害の対象に応じて、労働に関する損害賠償責任は以下の3つに分類される。
・労働者の安全・健康に関する責任
・契約違反に関する責任
・物的損害に関する責任
以下、現行の労働法に基づき、各損害賠償責任について詳述する。
2. 労働者の安全・健康に関する損害賠償責任
労働者の安全と健康は労働環境や作業条件によって大きく左右される。そのため、労働法では、労働者が労働災害や職業病にかかった場合、使用者に対して損害賠償責任を負わせる規定を設けている。具体的には以下の通りである。
ケース | 賠償責任が生じるケース | 賠償額 |
1 | ・労働者が労働災害に遭い、その原因が労働者の過失によるものではない場合、または労働者が職業病にかかった場合 ・労働者が労働能力を5%以上80%未満に低下させた場合 |
・労働能力が5~10%低下した場合:最低1.5ヶ月分の給与 ・労働能力が11~80%低下した場合:1.5ヶ月分の給与 + {(a – 10) x 0.4}ヶ月分の給与 (a: 労働能力の低下割合) |
2 | ・労働者が労働災害に遭い、その原因が労働者の過失によるものではない場合、または労働者が職業病にかかった場合 ・ 労働者が労働能力を81%以上低下させた場合、または死亡した場合 |
最低30ヶ月分の給与 |
3. 契約違反による損害賠償責任
労働契約は、使用者と労働者の間で締結され、両者の労働関係を調整する役割を持つ。労働法には労働契約に関する損害賠償責任の規定が設けられている。
使用者または労働者が労働契約を違法に一方的に終了した場合、相手方に対して損害賠償責任を負うことがある。この規定は、当事者の正当な権利を保護するために設けられており、違法な一方的契約終了が相手方の権利に直接的な損害をもたらす可能性があるためである。例えば、労働者は安定した収入や就労の機会を失うことがある。違法な労働契約の終了に関する損害賠償の具体的な規定は以下の通りである。
賠償責任者 | 賠償責任が生じるケース | 賠償額 |
使用者 | 使用者が労働契約を違法に一方的に終了する行為には、以下のものが含まれる。 (i) 第36条1項に規定された場合に該当しない一方的な労働契約終了 (ii) 労働契約を一方的に終了する際に、労働者に法定の通知期間を確保しないこと (iii) 2019年労働法第37条に規定された例外に該当するにもかかわらず、労働契約を一方的に終了すること |
賠償金には以下の項目が含まれる。 (i) 労働者が働けなかった日数についての給与、法定の社会保険料、及び少なくとも2ヶ月分の労働契約に基づく給与 (ii) 労働契約に基づく給与の少なくとも2ヶ月分(使用者が労働者を再雇用しないことを希望し、労働者が同意する場合) (iii) 使用者が通知期限の規定に違反した場合、その通知なしで働けなかった日数に対する労働契約に基づく給与相当額 |
労働者 | 労働者が労働契約を違法に一方的に終了する行為をした場合、特に労働者が労働契約を一方的に終了する際に、使用者に対して法定の通知期間を守らなかった場合 | 使用者に対して、労働契約に基づく給与の半月分と、通知なしで働かなかった日数に相当する給与を賠償する |
4. 物的損害賠償責任
物的損害賠償責任は、使用者にとって重要な規定の一つである。労働者に作業道具、設備、資材、または使用者の財産を貸与する際、労働者が財産を損傷・紛失したり、規定の範囲を超えて消費したりする可能性があるため、具体的な規定が必要となる。
2019年労働法に基づき、このような場合の損害賠償は「物的責任」とされ、使用者の権益を保護し、損害の回復を図るために特定の状況で適用される。労働者は以下のような場合に損害賠償責任を負う。
賠償責任が生じるケース | 賠償額 |
労働者が作業道具や設備を損傷させた場合、またはその他の方法で使用者の財産に損害を与えた場合 | ・ 法規定または使用者の労働規則に従って ・労働者の過失による損害が重大でない場合(損害額が最低賃金の10ヶ月分以下)、賠償額は最高で3ヶ月分の給与となり、労働法第102条3項に基づき、毎月給与から差し引かれる。 |
労働者が使用者の作業道具や設備、または使用者が提供したその他の財産を紛失した場合、または許可された範囲を超えて物資を消費した場合 | 市場価格、使用者の就業規則、あるいは責任契約(ある場合)に基づき、一部または全額の損害賠償を行わなければならない。 |
ただし、不可抗力の状況(自然災害、火災、戦争、危険な伝染病、大災害、予測不可能で修復不可能な客観的な出来事など)が発生した場合、必要な措置を講じたにもかかわらず解決できない場合は、労働者の賠償責任は免除される。
労働法には物的損害の賠償に関する規定が定められているが、実務上は、使用者が労働者に対して物的損害賠償を請求できないケースが多い。これは、就業規則に損害賠償額が明確に定められていないことが主な理由である。そのため、使用者は労働規則において、損害賠償の金額や算定方法(例えば、全額賠償や部分賠償、市場価値や会計帳簿に記載された残存価値に基づく賠償など)を規定することが重要である。
おわりに
上記の損害賠償責任は、使用者が自らの権益を保護し、法規を遵守するだけでなく、労働者が自身の権利と義務を正しく理解するためにも重要である。これにより、使用者は労働者に対して法的規定に基づいた適切な指導や労働関係の説明を行うことができ、結果的として労働環境の安定と円滑な労使関係の構築につながる。
参考文献:
・2015年労働安全衛生法第38条
・通達第28/2021/TT-BLDTBXH号第3条
・2019年労働法第35条、36条、37条、39条、40条、41条、62条、129条